第13話「新しい学び舎へ」
ついにこの日がやって来た。
盗賊の騒動から数日後、私はメシアさんが作った武器を持ち、屋敷に届いた学園指定の制服へと袖を通した。
「良くお似合いですよ、お嬢様」
「有り難う御座います、シェスカさん」
ドレスを軽くした物なのだろうが、動きやすく作られている。制服の肩には剣と盾が重なっているロゴがあったり、女の子専用なのか袖口がフリルっぽくなっている。生前にお洒落をした事は一度も無かったが、まさか美的感覚の無い私が可愛いと思える日が来るとは思いもしなかった。
「お食事の用意は出来ておりますが、軽めにしておきますか?」
「はい。スープだけで平気ですよ」
「それは却下致します。お嬢様が通われるのは学園アルカディアで、騎士科という場所なのです。食べれる物は、今の内に食べておいた方が良いですよ」
「あはは……分かりました」
生前であれば軽めの食事をして、早めに食事を取る場所から逃げたかったという行動が染み付いているのだろう。私が無意識にそう動こうとする中で、シェスカさんはしっかりと注意をしてくれる。非常に有り難い事である。
「ところでシェスカさん、傷の具合は如何ですか?」
「大きな傷でも無いので、問題はありませんよ。お嬢様の方は如何ですか?」
「多少、擦り傷が残った程度です。すぐに手当てしましたし、応急処置で治癒魔法も掛けてもらってます。大丈夫ですよ」
「そうですか」
安心した様子を見せたシェスカさんを眺めつつ、私は支度を終えて自室から廊下へ出た。やがてミレイナとルルゥさんと合流し、全員で食堂へと向かう。その道中、ミレイナがこちらを見つめている事に気が付いた。
「何ですか?ミレイナ。私の顔に何か付いていますか?」
「あ、ううん!なんでもないよ、なんでも!」
あはは、と笑いながら自分の前で両手を振るミレイナ。そんなミレイナの様子を眺めつつ、私は学園の話題を投げる事にした。私はともかく、学園でやりたい事やしてみたい事があるかもしれない。
だがしかし、私は学校生活に関してはあまり良い思い出が無い。純粋なミレイナの意見を参考にして、学校生活を楽しむ事にしよう。
「……ミレイナは、学園は楽しみ?」
「あ、うん!どんな勉強するんだろうとか、どんな事するんだろうって。結構楽しみ」
「魔法科は学力も必要ですから、ミレイナは一層頑張らないとですね」
「えぇ!?それってどういう意味!?」
私がミレイナを弄る様子を後ろで眺め、シェスカさんとルルゥさんが笑みを浮かべている。雑談と呼べる程の他愛の無い話をしながら、私たちは食堂へとやって来た。そして扉を開くと、屋敷に居る全てのメイドが並んでいた。
『おはようございます、お嬢様方』
「「……!」」
私とミレイナが驚いている間、背後に居たシェスカさんとルルゥさんもその列に並んでいく。そしてその奥で、笑みを浮かべて待つ両親の姿があった。お父様とお母様の手には、大きな花束があった。
その花束を見た瞬間、私は事態を把握しながらミレイナの背中に手を触れる。
「お、お姉様?」
「行きますよ。今回の主役は私たち二人のようですから」
メイドが一礼をしているアーチを通り、私とミレイナは両親の前に立った。そして事態を把握してる私は、口角を上げて両親に言った。
「まさか、こんあ大袈裟な事をするとは思いませんでした。普通に送り出せば良い物を」
「はっはっはっは、そう言うな。これは私とフレアが決めていた事だ。何も言わずに受け取ってくれ」
「リーサ、ミレイナ……入学おめでとう。これからも私たちの自慢で居てちょうだいね」
花束を贈呈され戸惑うミレイナを横目に、私は受け取った花束を近くに居たメイドに渡した。
「これをこの屋敷で一番似合う場所に飾って下さい」
『畏まりました』
「あ、私のもお願い!」
私の言葉に便乗したのか、ミレイナもその隣に居るメイドへ花束を渡した。渡してくれるのは嬉しいが、あの花束を持って学園へ行く訳にはいかない。その為の対処法だったのだが、まぁ良いだろう。
この世界にやって来て、初めての学園。友人は出来るだろうか。勉強は何をするのだろうか。どんな人が居るのだろうか。そんな様々な想像をしながら、私は拍手をしてくれる両親へ向き直った。
「お父様、お母様……それから皆さん、行って来ます」
「行って来ます!!」
『行ってらっしゃいませ。お嬢様方』
私とミレイナの言葉を聞いたメイドが全員、私たちが通りやすいように道を開ける。その間を通りながら、私は内側に眠る感情を落ち着かせている最中だった。これから何が起こるのか、それが楽しみで仕方が無い。
やがて屋敷から出た私とミレイナは、学園へ第一歩を踏み出す。そんな事を思いながら、互いに学園へと向かう為の歩を進めるのであった。
「そういえばお姉様、入学に間に合って良かったね」
「ん、あぁ……これですか?」
「うん。お姉様の剣、お姉様の黒い髪と同じで綺麗だもんね」
「そう?ありがとう。私の半身だから、そう見えるのかもしれないわね」
「お姉様は、学園で何がしたい?」
さっきの質問を返すようにして、私の顔を覗き込みながらミレイナは問い掛けて来た。私がしたい事……有り過ぎて訳が分からないという感覚だが、しかしまずはこれから始めようと思う。
いや、最初はこれから始めようと思っていた所なのだ。だから、その問いに対してはこう応える事にしよう。
「……私はまず、友人を見つけたいですね。対等であり、対極であり、同じ騎士科である友人を」
その後、私はサーシャという少女に出会う事となる。ただ私は知らなかった。この少女が、貴族の中でも特別という事を――。
【騎士の半身編 終】
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