第6話「粛清開始」

 盗賊が拠点としているらしい洞窟へと辿り着いた私は、小さく息を吐いて洞窟の中を見据えた。この洞窟の奥には、盗賊が数人。それこそ、メシアさんを傷付けた人数よりも多く潜んでいる可能性だってある。

 私とシェスカさんでは、足りない可能性だって浮上する。けれど、それを根本的に覆す方法がある。消費する魔力量が凄まじいが、炙り出す為には必要な処置と言えるだろう。


 「炙り出すと言っておりましたが、具体的には何をなさるおつもりですか?」

 「洞窟というのは岩や土、壁に囲まれた密室空間となってます。それは太陽の光も入りませんし、風は一方向からしか入ってきません。別の出入り口がある可能性もありますが、それでも多少の奇襲にはなるはずですよ」

 「まさかとは思いますがお嬢様、今の時点で盗賊の人数を減らすおつもりですか?」

 「はい。こちらの人数差を考えると、これが一番ベストだと思います」


 私はそう言いながら、洞窟の入り口で中空に手を伸ばす。構えた位置に魔法陣が出現し、その魔法陣の色は赤色に輝いている。この時点で恐らく、シェスカさんの頭の中で予想が出来ているはずだろう。

 私が考えている事はただ一つ。洞窟とは、謂わば半密閉空間となっているのは必然。いくら穴を掘っていたとしても、空気の流れは極端に少ないし酸素も薄いはずだ。


 「火の精霊よ、我が声が聞こえているのならば答えよ。大地を焦がし、草木を枯らし、我が前に立つ全ての者を滅せよ。――」

 「(火属性の魔法で、密閉空間に火を……お嬢様も酷い事を致しますね。けれど、効果は確かに絶大でしょう)」

 「――全てを焼き尽くせ!ブラストフレアッッ!!」


 私が詠唱を終えた瞬間、構えた魔法陣から火で作られた球体が洞窟の奥へと飛んでいく。私よりも大きいそれは、奥へ奥へと進んで行く。その様子を見据えた私は、後ろへと下がってシェスカさんに言った。


 「防御系の魔法を強めに展開して下さい。私も初めて使う魔法なので、威力が予想出来ません」

 「畏まりました。――はぁ!」


 魔力で展開された壁が現れた数秒後、洞窟の奥で爆発音が耳に響いた。完全な密閉空間ではない以上、衝撃が私たちの方へと飛んで来るのも計算したつもりだ。しかしそれでも、洞窟を貫く程の魔法を放ったつもりは無かったのだが……


 「ブラストフレアは、対人では使えそうにありませんね」

 「既に対人に使ってはおりますよ、お嬢様」

 「あはは~、ですよねぇ」

 「ですが、これで盗賊の方々が少なくなった可能性もあります。火が消えるまで待つおつもりですか?」

 「いえいえ……まだですよ」

 「お、お嬢様、まだ障壁の中へ」

 「シェスカさんはそのまま障壁の中に居て下さい。私は次の段階に移りますから」


 シェスカさんが展開してくれた魔力障壁から出た私は、少し熱さを感じる洞窟の入り口に再び立つ。次は両手で構えを取り、魔法陣を展開させる。その魔法陣の色は翠色で輝いている。

 まだ洞窟の中には火が充満しているはずで、中に人間が居た場合は呼吸困難で命を落とすか焼死体となっている可能性があるだろう。正直、死体を見た事が無い以上、見たくないというのが本音である。


 「……風の精霊よ、我が敵を薙ぎ払え。――サイクロン!」


 洞窟の中へと竜巻を発生させ、先程の爆発で開いた壁から火と重なった竜巻が発生している。遥か上空へと逃げたそれらは、洞窟内から消失したらしい事を確認した私はシェスカさんに問い掛ける。


 「ではシェスカさん、行きましょう」

 「はい。(あのお二人の間の子供ではありますが、考えて実行するという行動力は奥方様譲りですね)」

 

 前座は整えた。これで盗賊の数が減っていれば、多少なりにも勝算が上がる。可能性が低い状態だった場合、私とシェスカさんでは負ける可能性がある。それを回避した状態であれば、二人でも十分に戦えるというものだ。


 「随分と深く掘っているのですね。手で掘っているとすれば、相当な重労働ですね」

 「そうですね。最初から作られたとなれば楽なんでしょうけど……それでも暮らすにはそれなりの準備が必要ですもんね」

 「私としては、こんな場所で暮らしたくは無いですね」

 「それは私も同感です。シェスカさん、あの奥は怪しく無いですか?」


 しばらく奥へと進んだ先で、看板と焦げたカーテンが目に入った。看板も黒ずんでいて、文字が良く読めないが盗賊のアジトかもしれない。この先に居るとなれば、もうすぐで遭遇するという事だろう。


 「シェスカさん、どう思いますか?」

 「十中八九間違い無いでしょう。相手側もお嬢様の魔法を受けていますから、攻めるのであれば今しか無いでしょう。ですがお嬢様、くれぐれも無茶をしてはなりませんよ」

 「分かってます。私自身、目的を達成出来ればすぐに撤退するつもりですよ」


 メシアさんの作ってくれた武器。それを返してもらうのが、今回の目的だ。深追いをするつもりは無いが、相手が私たちを逃がそうとするかはまた別の話だ。相手がその気で来るのであれば、私にも行動に移らなくてはならない。


 「そうですか。では、参りましょう。私が先導致しますので、お嬢様は数秒後にお願いします」

 「大丈夫なんですか?」

 「おやおや、お嬢様に剣を教えたのは誰なのか。もうお忘れですか?」

 「そうですね。では、お願いします」

 「畏まりました。では――」


 そう言ってシェスカさんは突入した。負傷している相手だとは思うが、万が一に備えて私も魔法の展開準備をしておく。だが壁から覗き込んだ私の視界には、シェスカさんが数人を前にしている姿が目に入るのであった。


 「――おやおや、随分とお元気そうですね。当てが外れました」

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