第12話「リーサVSシェスカ」
魔法使い同士の戦闘を見た後、ミレイナの生き生きとした様子を見れて安心した。それと同時に込み上げて来た感情は、密かに私の中で闘志として静かに燃えている。それを感じながら、私は目の前で軽く空を斬って笑みを浮かべるシェスカさんを見つめる。
「では、リーサお嬢様……準備は宜しいでしょうか?」
「ええ、大丈夫です」
この世界に来て、妹が出来て、優しい両親の間に産まれる事が出来た。それだけで幸せなのだが、やはり私の奥底に眠る闘争心は抑える事が出来ないらしい。幼い頃から積み上げてきた物は、生まれ変わったとしても覚えている物らしい。
ミレイナにも、ルルゥさんにも、シェスカさんにも……誰にも負けたくないと思ってしまう。私はこの人に、心の底から勝ちたいと願ってしまうのだ。
「まだお父様から一本を取る事は出来ていませんが、シェスカさんからはそろそろ取りたい所です。知っていますか?シェスカさん」
「……っ?」
「私はこれでも、負けず嫌いなのですよ」
「(お嬢様の纏う空気が、冷たくなっている?先程までとは明らかに……困りましたね。これは私も、多少本気で行かなければいけないようですね)」
――始めっ!
頭の中で再生された開始の合図。振り下ろされた腕と同時に踏み込み、反撃の隙を与える事を許さない一撃。それを放つ事だけに集中した攻撃は、完全にシェスカさんの間合いに入り込む事に成功したようだ。
「っ!」
「くっ……」
だが成功しただけで、それをシェスカさんへ届かせる事は失敗している。ならば、そこから距離を作り、横へと流れるステップをしながら斬り掛かる。
「真横からの一撃ですか。速度は十分ですが、踏み込みが甘くなっていますよ!お嬢様っ」
「自覚していますよ。今までのは、様子見ですから……――っ!」
瞬時に作った距離を再び詰めて、回転斬りを放つ。勢いの乗った攻撃ならば、例え受け流したとしても反動で体勢を崩す事ぐらいは出来るだろう。だがしかし、回転斬りを放った直後の事だ。
私の視界から、シェスカさんの姿が無かったのである。
「っ……(見失った!?)」
私は周囲に警戒網を張り詰め、木刀を構えてシェスカさんの気配を探る。だが範囲が狭過ぎるのか、私の警戒網の中にシェスカさんの気配を見つける事が出来なかった。
「様子見であれば、私も様子見をする必要がありますが……まだ私の方が一枚上手のようですね。リーサお嬢様」
「っ!?(ま、真上からっ?)――くっ!」
真上から振り下ろされた剣戟を受け止め、空かさず体勢を低くして地面を転がりながら回避した。だが起き上がった瞬間、私の視界には次の行動へと移っているシェスカさんの姿があった。
真っ直ぐに見据えられた瞳には、ただ一点に狙いを定められている視線が刺さる。
「っ(マズい、直撃コースっ!!)――火の精霊よっ、我が敵の侵攻を防ぐ為の壁を作りたまえ!」
「火属性の魔法ですか。ですがお嬢様、その速度では及第点すらあげられません。――雷撃よ、一閃を放て」
限りなく、速い一撃が来ると予想の出来る一点突破の構え。それを見た私は、瞬時に防御系の魔法を発動しようと詠唱を始めた。だがその最中、私の視界がやけにクリアに見えるようになった。
全ての物の動きが遅くなり、私の思考がクリアとなった。この感覚は初めてではないと感じながら、私は無我夢中に次の動作に入っていた。
それは防御系の火属性の魔法の他に、魔法を放つ為の準備である。
「――風の精霊よ、汝、我が
その詠唱が終わりを迎える寸前、その元の速度へと世界は移り変わった。
「
「ファイアウォールッ!!」
「やはり火の壁を生成しましたか。ですが、この技はあらゆる壁を貫きますよ」
急接近するシェスカさんがそう言うと、火で作られた壁を越えてくる。だが私は焦らずに、もう既に次の動作に入っていた。抜刀の構えをしながら、シェスカさんが火の壁を越えるのを待っていたのだ。
「――っ!?(誘い込まれた?!まさか、今のファイアウォールはブラフ!?)」
「良かったです。シェスカさんが最後まで、私を油断しないでくれて……でも、誰だって焦った行動を見れば、いくら強い人でも油断の一つや二つしますよね」
私はそう言いながら、力強く木刀を握り締める。やがて私の周囲に風が吹き始め、握り締めた場所から木刀も包み始める。満遍なく包み込んだと悟った瞬間、私は思い切りその木刀を抜刀するのであった。
「――ウィンドスラッシュ!!」
シェスカさんが放った〈雷光〉と私が放った〈ウィンドスラッシュ〉が衝突し合った。その衝撃波は、周囲の物を宙に撒き散らす。ルルゥさんは魔法の壁を作り出して、屋敷とミレイナを守ったようだが……衝撃波が無くなった頃には、私とシェスカさんが立っている場所は草が剥がされて地面が見えていた。
私の木刀は半分になってしまい、シェスカさんは折れた木刀の端をギリギリで回避したのだろう。頬に切った傷が線を作っている。
「……っ、シェ、シェスカさん頬に血がっ!早く手当てしないと」
「お嬢様っ!」
「は、はい!」
傷の事を言おうとした私はあたふたとしていたが、シェスカさんの大きな声で動きを止めた。そしてシェスカさんは私の前へと手を出し、軽く微笑んで私に告げるのだった。
「……リーサお嬢様、私の負けで御座います。おめでとう御座います。良くここまで鍛錬をなさいましたね」
「……勝った?私が、シェスカさんに……?」
「はい。私の剣は、リーサお嬢様に傷一つ与えておりません。がしかし、お嬢様の剣は私にダメージを負わせております。この頬の傷が、その証拠で御座いますよ」
「…………っ」
すぐに理解が出来なかった事により、事態を把握した瞬間に私の胸はドクンと大きく脈打った。勝った。勝利した。そんな単語が胸の奥で木霊し始め、やがて自分の手を眺めてしまう程に感情が込み上げて来た。
「や、やったぁぁぁぁ!!!」
「……」
「あ……えっと、えへへ。今のは忘れて下さい///」
私は嬉しさのあまり雄叫びを上げてしまった事を、苦笑いをしながら誤魔化している時に思っていた。この胸の中を熱くする感覚が、〈勝利〉なのだと噛み締めていたのである。
こうして私は、試験前にシェスカさんに勝利を収める事が出来たのであった。
「(それにしても、あの感覚は一体……前にも似たような、まぁ良いか)」
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