第10話「入学申請」
この世界の子供は、義務教育が無い。それは理解したのだが、それとは別にもう一つ知った事がある。それは私を含めた10代の子供、正確にはこれから12歳になる子供達を対象にした学園があるらしい。
――〈学園アルカディア〉
その学園が、私が後に通う事になる学園の名である。ただ入学試験の仕組みが特殊らしく、貴族だろうが平民だろうが関係無いという制度があるらしい。それ故に試験は平等であり、公平な判断の
そして何より、私が目に入ったのは学べる内容に魅力を感じた。その内容は……――
「お姉様、本当に
「ええ、その方が性に合っていますし、得意分野ですから」
「でもお姉様なら、魔法科も入れるんじゃないかな?一応、試験の為に魔法も習得したんでしょ?」
「しましたけど……んー、やっぱり私にはこれしかありませんから」
私は苦笑しながら、手元にあった木刀をミレイナに見せる。学園まで入学申請をする為に、本人が手続きをする必要がある。街外れに家があるからか、しばらく歩かなければ辿り着く事は出来ない。
「ミレイナ、学園で手続きをした後はどうしましょうか?」
「どうって?」
「何処かでお昼にするのも良いでしょうし、せっかく街に来たのだから買い物をするのも可能ですよ」
「んー、お姉様はどうしたい?」
少し思案を巡らせたが、ミレイナは私に意見を促した。ミレイナ任せにしたかったのだけれど、私が決める流れになってしまった。これは少し、想定外である。
「私はすぐに帰っても良いですけど……うーん、悩みどころですね」
悩みどころです。その言葉に嘘偽りは無いが、正直に言えばすぐに帰りたい気持ちもある。街の中でこの木刀は目立つのか、擦れ違う人々に見られているのが気になっていた。
別に振り回すつもりは無いけれど、それでも女の子が木刀を持っている事に対して不思議に思っているのかもしれない。あるいは、ミレイナが可愛いから見られているのかもしれない。
あらゆる可能性を導きながら、私とミレイナは学園へと辿り着いた。
「あの、入学申請をしたいのですが……何処へ行けば良いでしょうか?」
『おや、可愛らしい女の子が二人。この学園に入る為に手続きをする場所は、入ってすぐ右にある受付でやってるよ』
「あ、有り難う御座います。感謝致します」
『はいはい。そんな丁寧に言わなくて良いよ。それじゃ入学試験、頑張ってね』
「はい」
道を教えてくれた人物は、綺麗の中にも凛々しさを感じる雰囲気を持ち主だった。長い赤髪が風で
「どうしたのですか?ミレイナ」
「ううん、なんでもないよ」
「なんでもないなら、私の背後に隠れなくても良いでしょう?初対面なのに失礼ですよ」
「うん」
「……?」
どうしたのだろうか。いつもなら笑顔を作るのが平常運転のミレイナだが、あの人に出会った時から
「――有り難う御座いました。それでは失礼致します」
「失礼致します」
それから入学手続きをし終えた私とミレイナは、学園を出て街へと戻って来た。やはりあの人に出会ってから、ミレイナの様子がおかしい。慣れない場所で緊張気味で萎縮してしまっているのなら理解出来るが、それでも学園から外に出ている今の状況でも萎縮してしまっているのは引き摺り過ぎている気がする。
「ミレイナ、大丈夫ですか?」
「……」
「ミレイナ?」
私が声を掛けても、ボーっとしているミレイナに反応は無い。歩けばちゃんと着いて来ているから迷子の心配は無いだろうが、それでもやはり心配な物は心配である。
「はい、ミレイナ」
「……お、お姉様?な、何か言った?」
「いいえ。私は何も言ってませんよ。それよりもミレイナ?具合が悪いのなら、私と手を繋ぎましょう?」
「私、別に迷子にならないよ?」
「それは知っていますよ。だから、そんなしっかり者のミレイナに私を助けてくれますか?少し人に酔ってしまったので、手を繋いで欲しいのです。お願い出来ますか?」
「しょ、しょうがないなぁ……お姉様が実は甘えん坊って、私しか知らないもんね」
「そうですね。確かに私は欲張りなのかもしれませんね」
甘えん坊かどうかを分からないが、私は多分欲張りだろうと思う。何故なら、手を繋いで欲しいと願ったのは、ミレイナの気を逸らす為に言った事でもある。だがそれ以上に私は、ミレイナの笑顔が常に見ていたいと願っているのだから仕方が無い。
それ程に私は、妹である彼女を慕っているのである。
「……♪」
「(良かった。いつものミレイナに戻ったみたい)」
「ちゃんと手を握っててね?お姉様。迷子になったら大変だから」
「はいはい。分かっていますよ」
そんな事を言いながらも、私は気付いていた。服を掴んでいたさっきまでとは違い、直接握られているから伝わってしまう。それを気を紛らわしている事に成功している状況で、ミレイナは恐らく無意識なのだろう。
握られた手は強く握られており、微かに震えていたのだ。緊張感に包まれていたのに圧迫されていたのか、それとも道を教えてくれた赤の他人を警戒し過ぎてしまったのか。どちらかは分からない。
けれど私は、この小さな手を守りたい。この笑顔を守りたいと思い、握られた手を握り返すのであった。
「さ、お姉様!帰ろう♪」
「そんなに急がなくても、家は何処にも逃げませんよ」
家族を守る。それが剣を握り続ける理由の一つなのだから――。
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