第3話「先客」
『――お姉様の友人になりたい。という殿方の方が多いようです』
ミレイナの言葉が頭から離れる事が無いまま、私は頬杖をしながら授業を聞いていた。
魔法の使用可能な攻撃範囲と主な効果の比例。という戦闘時でしか必要の無い授業内容だ。
魔法にも様々な適性があり、その用途は属性や目的によって異なる。という話になるのだが、そんな物は魔法だけではなく、様々な道具にだって適用される事だ。
「……」
だがしかし、その授業中でも頭からミレイナの言葉が往復しているのだ。殿方、つまりは男性が私と話したい。友人になりたいと思っている。
そんな事を聞いた時は嘘では無いかと思ったが、どうやらそれは本当らしい。
その証拠に、授業中に何人かと目が合うし、廊下でミレイナと話してる最中にも見られている感覚があった。
「はぁ……友人になりたいのなら、素直に話し掛けてくれば良いのに」
「お姉様、それは多分無理ですよ?」
「どうしてですか?友人になるくらい、誰にでも出来る事では無いのですか?」
「あぁ……うん、そうなんですけど。あはは」
あはは、と苦笑気味に笑みを浮かべるミレイナ。そんなミレイナの表情を見つめていた時だった。
「何か言いたそうな顔ですね」
「ええっと……お姉様は堅物ですからねぇ。殿方からしたら、話し掛ける事すら難しいという事を把握して差し上げて欲しいです」
「他人に話し掛けるのに私が配慮しなくてはならないんですか。はぁ……随分と面倒な事を考えなくてはならないんですね。ふむ、ミレイナは友人は居るのですか?」
そう問い掛けた瞬間、ミレイナは鼻を鳴らして腰に手を当て始めた。その仕草だけを見れば、勝ち誇ってる事が伝わってくる。正直に言えば、若干イラッとした。
「私は友人いますよ。えっへん♪」
「へぇ、ミレイナの友人ですかぁ。……大丈夫でしょうか?」
「どういう意味ですか!!それ、私はともかく私の友人に失礼ですよ!?お姉様」
「確かに失礼ですけど……だってミレイナの友人ですよ?その方々に迷惑を掛けてないか心配です」
「むむぅ……だったらお姉様、後で私の教室へ来て頂けますか?私の友人を紹介致します。今日は丁度、実技訓練もありますので」
「実技訓練……?」
私はその言葉に疑問を覚えたが、少し楽しみと感じている私が居た。何故なら、この世界に来て両親とミレイナ以外、同年代や他人と関わる事が出来ないという状態が続いていたのだ。
生前の暮らしとほぼ変化の無かった日常だった事もあり、正直に言えばただの日常の繰り返しに飽きが来ていたというのもあるのだ。
だからこそ、私が他人との関われるという状況が出来る事が嬉しく思ってしまうのである。
「……分かりました。私は時間まで暇を潰していますね。ミレイナの準備が出来次第、呼びに来て頂けますか?私は恐らく訓練場に居ますから」
「訓練場ですね。分かりました。皆にも伝えておきますね!ではお姉様、また後でお会いしましょうね」
「ええ。先に言っておきますが、ご友人に迷惑は掛けては駄目ですからね?」
「分かってますよ♪」
ミレイナは笑みを浮かべた状態のまま、その場から去って行った。私は食堂で一人残った状態で、黙々と食事の続きに箸を動かす。ただミレイナが居なくなった途端、妙に視線を感じるようになったのは気のせいではないだろう。
友人になりたい、という存在が視線を送っているのかもしれない。だがしかし、私から話す理由が無いという事もあり、あまり他の生徒と関わる事が無いのである。
「……」
ボーっとしたまま、私はその場から立ち上がって食事を終える。食堂から足早に出ると廊下には、数人の生徒がこちらを眺めているのに気付いた。だがやがてバラバラに三々五々に散らばり、私から距離を取るようにして離れる。
これだけ見れば、私は他人に嫌われているのかと思うだろう。そして勿論、私は少なからず今までそう思っていたのだが……ミレイナの話では、これは話をして良いか分からないという感情から出た行動だという事らしい。
話したければ話せば良いのに、などと思ってしまうのは私だけだろうか。
「……はぁ……まぁ歩きやすくなった。という事にしておきましょう」
溜息混じりにそんな事を呟きながら、私は通りやすくなった廊下を進む。自分の教室へと戻れば、落ち着く事も出来るだろう。だがしかし、自由参加である為か出る生徒は殆ど居ない。ならば、自分がもっと有意義になる過ごし方をした方が得策だろうと私も思う。
「大図書館……も有りですが、やはり……あの場所が一番ですね」
小さく微笑んだ私は、軽い足取りで歩を進める。やがて辿り着いた場所には、珍しい事に先客が居た。そこは訓練場と呼ばれる場所で名前の通り、実力を鍛える場であるのだが……滅多に生徒が使う事は無い。
にもかかわらず、今回は違ったらしい。私以外にこの場所を利用する生徒が他に居たとは、正直に言えば驚いてしまったのだった。
「……?」
誰だろうかと眺めた時だった。僅かな動きの最中、ふと目が合った。
「もし、そこのあなた……」
「私、でしょうか?」
「あなたしか居ませんでしょう?少し相手をなさって下さるかしら?組手の相手が居なくて困っているのよ」
「っ……!!」
私はその言葉を受けた瞬間、自分の中から込み上がる感情がある事に気が付いていた。それは恐らく喜怒哀楽で言えば、『喜』と呼ばれる感情だった。私はその嬉々感を覚えながら、その生徒の元へと近寄るのであった。
「リーサ・アルファード・アルテミスです。宜しくお願いしますっ」
「サーシャ・リーベル・テイルよ。宜しくお願いしますわ」
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