第7話「神様との約束」
約束。それは私にとって、互いに求め、誓い合うという意味だという解釈だった。 『だった』というのは、私の家では約束という言葉ではなく、ルールや規則といったもので定着していたと思うからだ。
いや、もっと違う言葉。そう、あれは恐らく命令だっただろう。
「……では聞かせていただけますか?その約束とやらを」
だから今回も、相手が誰であろうとその規則に従うのみ。従っていれば私に害は無いし、僅かな我慢だけで済む話となる。
そう思っていたのだが……
「まずはそうじゃな。妾はお主に謝らなければならない。——すまない」 「っ!?」
突然に下げられた頭。私の記憶では、いや私たち日本人の中で、最も大きな謝罪方法だと思われる姿を見て、私は言葉を失った。
それは正真正銘、土下座だった。
「か、神様っ!?な、何をしてるんですかっ?」
「焦るでない。たかが頭を下げただけじゃ、気にするな」
「気にしますよ!私はただの人間ですよ!?そんな存在に神様が頭を下げたら駄目ですよ!」
「駄目ではないぞ。妾も元は人間じゃった存在なのじゃが、失敗なんて数え切れない程にしてきた。それが例え今は無くとも、妾が謝罪をしなければならない時があるからするまでだ。それ以上でもそれ以下でもないのじゃよ」
「でも神様は私に、謝らなければいけない事なんてしてないですよ!」
「本当にそう言えるのか?妾とて、お主一人の人生を全て知っている訳ではない。その知ったかぶりをしている妾が、たかだか一部を見た程度でお主の人生を変えるのじゃ。もしかすれば、お主の今後の未来は明るい未来だったかもしれないという可能性を潰したのじゃ。それは妾だけではなく、全神に共通する罪じゃ。罪ならば謝らなければならない。償わなければならない。それがこの世の理じゃよ、理沙」
真っ直ぐに見つめられたその瞳は、強く、信念を持って輝いていた。目の奥にまで芯があるように感じて、私はその目に心を奪われた。
私はその瞬間、自然と立ち上がって頭を下げていた。こんなにも自分の事を考え、そして決断してくれた存在。
そんな存在は恐らくそう多くは存在しない。出会えるかすら分からないからこそ、私もまた頭を下げて言うのだ。
言わなければならない。これが、心からの言葉なのだから、伝えなければならない。
「——ありがとう、ございますっ。神様」
「アルファ」
「え?」
「妾の名はアルファじゃ。真名を呼ぶ者はそう多くは無いが、お主には呼んで欲しい。妾をアルファと呼んでくれるかの?」
「っ……はい!アルファ様」
喧嘩してた訳では無いが、これで私と神様の間に隔たりが無くなった。そう思えるように感じた時、神様……アルファ様は口を開いた。
「こほん。さて、そろそろ本題に入るとしようかの。お主のこれからについて、話す事があると妾は言ったな?」
「その為に約束して欲しい事があると聞きました」
「ならまずは、これからの方から話そう。まずお主には生まれ変わってもらうのじゃが、希望している事はあるか?」
「希望している事、ですか?」
「うむ。容姿をこうして欲しいだの、異性になりたいだの、金持ちでありたいだの様々じゃ。そのお主にとっての幸せがどのようなものかは分からぬが、それを決めてもらうのが一つじゃ」
「では、このままの容姿でお願いして良いですか?私は別にこうなりたいというのが無いので、今のままの方が過ごしやすいと思います」
「そうか。なら妾が出来るのは、お主の暮らす身分や能力を決めなければならないな。何か希望はあるかの?」
身分や能力?そんなものが必要な世界なのだろうかと思いつつも、私は必要そうなモノを想像し始める。
「んー、何でしょうか。今よりも身体能力が高くて、健康体を保つ事が可能な体が良いです。私は多分、剣を振るうしか分からないので」
私は苦笑しながらそう言うと、アルファ様も笑みを浮かべて頷いてくれた。そしてアルファ様は、私の肩に手を置いて目を閉じて言った。
「お主は妾の友人となった人間じゃ。妾はそんなお主には幸せになってもらいたいと思っておるが故、妾はここに神の加護を与える。妾の命の一端じゃが、持って往くが良い」
「私が……光ってる?」
発した言葉の通り、私の身体が輝いている。内側から光を生んでいるかのように、私の身体が神々しく見える。
だがやがて光を消えていき、これが自分の身体であると再認識した。
「アルファ様。アルファ様の命の一端とはどういう意味なのでしょうか?」
「そのままの意味じゃ。妾の命の輝きをそのままお主へと譲渡し、そして加護として身に付けさせたのじゃ。心配しなくとも、お主が思っとる事にはならんから安心せい。妾に寿命という概念は無いんじゃからな」
「そ、そうですか。良かった……」
私はそれを聞いて安堵し、引き続きアルファ様からの助言を受けていた。約束を含めたそれは、およそ数十分という短さだった。だがしかし、私にとってその時間はとても長く、尊い物と感じていたのであった。
「——以上が、お主に守って欲しい約束事じゃ。守れるか?」
「勿論です」
「うむ、良い返事じゃ。さて、最後の晩餐と洒落込もうではないか。のう、お主らっ!!」
「っ!?」
『おーーーっ!!』
カランカランと氷のぶつかる音。コップ同士が当たる音。そして他の神様たちの歓声が上がった瞬間、私は唖然としてしまった。
いや、違う。驚いたと同時に私は多分、楽しいと思えたのかもしれない。そして、やはりここに居たかったなどと考えているのかもしれない。
だってこの人たちは、皆、優しく温かいのだから——。
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