第6話「神様の部屋」
榊原理沙の人生は、子供にしては過酷な物を強いられている。それを知ったのは、ついこの前の事。
それ以前については詳しくは無いが、フリードが彼女を見つけ、保護を
「フリードよ。
「そうではありません。が、しかし彼女の生い立ちはあまりにも……」
「あの者の人生を肯定するつもりも、ましてや否定する権利は妾たちには無いのじゃぞ?それを踏まえた上で言っておるのであれば、
「しかし……」
「ならぬ。妾とて一つの命を
神である妾にも、妾としての存在意義がある。それを覆してしまえば、他の神にも示しがつかない。
それどころか、妾自身の神として権利を
「許せフリード。お主の願いを叶える事は、酷く難しいのだ。仮にあの人間の人生を変え、良い人生となったとしても、その周囲の者が不幸となる。それが代償であり、妾が叶えられない理由の一つじゃ」
「……」
フリードは膝を付けたまま、その場で微かに深呼吸をする。どうすれば良いかなどではなく、どうしようも出来ないというのが世の
世界のバランスを担っている以上、たった一人の為に労力を費やすには代償が大き過ぎる。
せめて妾ともう一人、もう一人神が居れば不可能を可能に出来るのだろうが、生憎と妾には人望が無い。
——許せ、フリードよ。
「
「うむ」
フリードはそう言って、身を
「私が貴女の為という行動でなければ、神である貴女に害は無い。そうでしょう?我が主君」
「っ……ば、馬鹿な事は止さんか!お主が行動を起こしても、他の神々が始末しに来るのじゃぞ!?いくらお主でもそれは
完全に気を抜いていた。日々、平和。それつまり、
そしてそれは思ってもいない事。予想をしていない事が起きれば、忽ちそれは表へと出向いてくる。
感情……焦りとして——
「では、行かせていただきます」
「ならぬ!ならぬぞフリード!お主のしようとしている事は、この世の
フリードが何をしようとしているのか、妾には分かったものではない。だがしかし、これからやろうとしている事は
仮に成功したとしても、神々への
「無論、私の命ですなぁ。クハハ」
「笑い事ではないわ!」
高笑う。無邪気に笑うフリードを妾は気に入っておるが、それでも止めなくてはならない。
だがフリードは、こうしている時には確信がある時だけだ。
「はぁ……フリードよ、お主は何を企んでおるのじゃ?」
「戦士の加護を付与する為、私の命を以って彼女を救ってみせましょう。将軍の名に懸けて」
フリードは心臓に手を添えて、妾を見据えた。成功する確証は無いのにもかかわらず、大した自信である。
「仕方ないのう。妾が止めても聞かぬというのなら、他の神の足止めは妾に任せよ。しかしやるからには、必ずお主は戻って来なければ許さぬぞ」
「御意のままに。我が君」
——……そして今、妾の元へ戻ってきた。
「理沙よ、食事が手に付かぬのなら妾に付き合え」
「え?は、はい」
そんなほんの少し前の事を思い出しながら、妾は理沙を呼んで他の神から離れた場所へと連れて来た。
「ここは?」
「妾の部屋じゃよ」
「え゛!?わ、私が入って良いんですか?」
理沙は驚いた様子でそう言って、扉からササっと距離を取った。そんなに驚く事でも無いだろうに。
「妾が良いと言っておるのじゃから、遠慮せずに入らんか。それとも妾と二人きりは嫌か?」
「それは嫌じゃありませんけど……神様と二人きりって、良いんですか?なんか黒服来た人に囲まれたり、船の上でジャンケンカードをさせられたり、ビルの間を一本の鉄骨を辿って渡る。なんて事されませんよね?!」
「お主、それはどこの世界の話じゃ?……妾とて、無垢なお主を取って食おうとは思っておらんよ。妾はただ、これからの事を話したいと思っておっただけじゃよ」
「これからの事、ですか?」
そう、これからの事だ。ここは神界であって、現実世界ではない。つまりは榊原理沙という魂が、一時的にこの空間に滞在しているに過ぎない。
そしてこのまま滞在すれば、恐らくは魂自体が消滅するという結果を生むだろう。それだけは避けなくてはならない。
「このままここに居る事は不可能、という
「……お主の物分かりの良さは、年不相応のものじゃな。確かにそうなのじゃがな?妾から話すのは
「輪廻、転生?」
「簡単に言えば、生まれ変わりじゃな。または違う人間の姿となり、その人間として新しい命を得る。第2の人生という奴じゃ」
「それが輪廻転生ですか。さっき話に出た時はもしかしたらと思いましたけど、本当にそんな事が可能なんですか?」
可能か不可能かどうかという問いは、この年頃の子供であれば抱かない疑問だろう。
もし抱いたとしても、それはほんの
「可能じゃが、リスクはある」
「リスク、ですか。何か支払う物があれば、それを可能にするという事でしょうか?」
「支払うと言っても、何かお主から貰う訳ではない。これは
「約束、ですか」
「そう、神との約束じゃな」
意地が悪かっただろうか。あえてこういう言い方をすれば、強張った表情になるのも身体が硬直するのも必然だと思われる反応だ。
そのはずなのだが、彼女は——榊原理沙は、やはり他とは違うらしい。何も表情を歪める事なく、妾の方を見て言うのである。
「では聞かせていただけますか?その約束とやらを——」
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