47、休み明け
休み明けの学校は、いつもと少しだけ、でも確かに様子が違った。
月末に中間試験を控えているからか、先週までなら居眠りをしていた生徒も、授業を真面目に受けている。
心なしか先生の授業を進めるスピードも上がっている気がする。
そしてもう一つ、いつもと違うことが。
ちらりと、可憐の席を見る。
そこに彼女の姿はなかった。
休み前の、可憐との最後の会話が脳裏をよぎる。
『もしね、私がハルに告白していたら――』
「――っ」
揚羽とのピクニックで薄れかけていたその記憶に、思わず拳に力が籠る。
西条先輩の相談を受けて、変に首を突っ込んだせいで彼女を傷つけてしまった。
あれから、ボクは一度も可憐と話をしていない。
現実で会うことも、ニャインで会話することも。
そうだ、事の発端は西条先輩の相談だった。
可憐におかしなところがないか教えて欲しいという彼の力になろうとして、可憐に余計なことを訊いてしまった。
「流石に西条先輩には言えないよね……」
あの日の彼女の様子、言動。変に伝えれば勘違いされるかもしれない。
なら、全てを水に流してしまった方がいい。
あの日の雨のように。
◆
色々と様子が違う学校内だけれど、彼女はいつも通りそこにいた。
昼休み。屋上に上ると先についていた揚羽がパッと顔を上げて手をぶんぶんと振ってくる。
隣に座ると、忙しなく弁当箱を取り出した。
「そういえば今日可憐が休みだったけれど、何かあった?」
取り留めもない雑談を交えて昼食を摂りながら、ボクはさりげなく切り出した。
もしボクのせいで休んでいるのなら、今日の帰りにでも寄らないと。
揚羽はご飯を頬張ったばかりの口をモゴモゴと動かしてから、「ほねえちゃん?」と小首を傾げた。
「体調が悪いんだって。微妙に熱もあるみたい。この間びしょ濡れで帰ってきたみたいだから、きっとそのせいだね。心配しなくてもお姉ちゃんならすぐに元気になるよ」
「そう、ならよかった。でもこの時期に風邪ってのはちょっと大変だね」
「もうすぐ来週中間試験だもんねー。あ、そうだそうだ! ハルくん、今日あたしの勉強見て!」
「今日?」
「ん、この間約束したじゃん。一緒に勉強しようって」
「したけど……」
確かに先週そんな話をしていた。
まさか休み明け初日からそんなにやる気に満ち満ちているとは思いもしなかったけれど。
ボクとしても揚羽と一緒に勉強をしたい思いはある。
けれど、可憐のことを放っておくのは罰が悪い。
どうしたものかと考えていると、揚羽が切り出した。
「ね、あたしの部屋でしようよ! 可愛い彼女の部屋で勉強会!」
「それを自分で言うのかぁ……いや、まあ否定しないけれど」
「そ、そこは否定してよっ」
ボクの反応が思っていたものと違ったのか、恥ずかしそうに顔を背けている。
相沢家にはよく足を運んでいたこともあって、揚羽の部屋には何度も入っている。
だから彼女の部屋で、という特別感は薄いけれども、他に最適な場所がないようにも思える。
学校の図書室だと周りに人がいるし、何より小さな声でしか話せない。
一人で勉強をするのには最適な場所だけれど、勉強会には適していない。
それに、揚羽の部屋なら可憐の様子を見ることもできる。
都合が合えばその場で謝っておこう。
「うん、わかった。じゃあ揚羽の部屋で。昇降口に集合でいいかな」
「いいよ! じゃあ放課後にね!」
約束を交わした後、残るご飯を食べ進めながら揚羽の学習状況を聞く。
そんなものも勉強したなーと懐かしい気持ちになれて、少し楽しかった。
揚羽と別れて教室に戻る道すがら、前方から西条先輩がこちらに歩いてくるのが見えた。
挨拶だけでもしておこうと彼に向けて会釈をしようと体勢を整える。
ボクが頭を下げると西条先輩もこちらに視線を送ってきた。
一瞬だけ目が合って、すぐに逸らされる。
すれ違い際、一瞬だけ見えた西条先輩の表情がどこか気まずそうにしているように感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます