残り二日

「ねえ、ふゆき。明日のお洋服どれがいい? ハンガーにかけとかなきゃシワシワだから」

「んー、赤のスカートがいい。それに黒のタートルネック合わせる」

「あ、いいね、可愛い。それに合わせて明日リボンもつけようよ」

「やった! ふふん、セカイいちプリチーな女の子はだーれだ?」

「それはもちろん、お姉ちゃんですっ」

「えー」

「なんてね、冗談冗談。ふゆきだよー」

「わざとらしい、もう一回」

「世界一可愛い妹はふゆきだーーー」

「パードン」

「世界、」

「ワンモア」

「せ」



◆◇




「楽しかった。花一匁とかかくれんぼとかってもう何年ぶりよって感じ」

緋色の影の伸びる坂道を下り、香は同じく帰路をたどる雄大へ視線を投げる。

「本当に久しぶりやったもんね」

この指とまれ、をするたびに誰にも指に止まってもらえていなかった雷牙を思い出し、雄大は笑った。

「ね……………でも、もう明日だけか。みんなでいられるん」

影を見つめる香。その姿は涙をこらえているように思えて痛々しかった。

「卒業式はカウントしとらんの」

「卒業式は残り零日なんよ。だからあと一日」

香の歩く速度が落ちた。ゆったりと名残惜しそうに一歩一歩を踏みしめる。分かれ道の十字路はあと三つ家を通り過ごしたところで、ここからは結構あるのに。

「黒板にいつも書いとんの香やもんな」

「寂しく、なるね。今までずっと六人でいたんに」

「だね。離れ離れになったことなんてこれまでなかったもんやけん」

初等部からずっと六人一緒。他の誰かがいたこともなかった。入学した時から学校が廃校になることは決まっていて、六人が最後の生徒で。香の双子の妹はもとより頭の良い私立の学校だったから。

涙声になってきていた香はしんみりとしてしまった雰囲気を飛ばそうと空元気を出した。

「しっかしよく綺麗に進路別れたよね。私は県立の高校で、雄大は全寮制の男子校、やっけ。叡司は偏差値高い進学校で、綾乃は国立。雷牙は親戚のやっとる会社手伝いながら二部制の学校行くって言っとって、結希は言わずと知れたお嬢様学校」

「ほんと不思議やな。特に結希。陸上強くて、駅伝も上位常連校のあこ行くかと思っとったんに。………賭け金二百円……」

雄大がふざけているのか、本気で落ち込んでいるのか香にはわかりかねたが、これだけはわかった。ただの馬鹿だと。

「賭けしとったんかいっ。ちなみに誰と」

「雷牙」

予想どうりすぎる名前に香は呆れを通り越して阿呆らしくなった。

「賭け金なくなったって雷牙が勝ったん? 珍し」

「んにゃ。引き分け。雷牙も別の高校に賭けとったけん。やけん賭け金は全て結希の元へ〜」

結希が胴元⁉︎ 驚き、香は目をまるまると見開いた。

「勝てるわけないの目に見えとんのに、ばかやんなー」

「それ、あんたにもそっくり返せるけんな」

あはは、と笑う雄大をみて香は、負けるのなんかわかっててわざと賭けに乗ったのではないかと思ったが、すぐ振り払った。――あり得ない。だって雄大と雷牙だから。

背中が熱いと感じるほど辺りの色が朱になる。思わず香が後ろを向けば、雄大もつられて向いた。空はまるで白雪姫に出て来る林檎のように、なんとも言えない毒々しさを孕んだ赤さだった。

「夕日、綺麗やね」

「……そうやんな。まるで泣いとるみたいや」

「目にしみるね。痛いほど」

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