雄大
唐突に胸が締め付けられて雄大は呻き声を漏らした。苦しいとかそんなことより、ここが自室で良かったと安堵した。
「雄大、入るわよ」
入らないで、そう言おうと思ったのに声が出なかった。懇願虚しく無情にも戸が開き母が入ってくる。
「夕飯呼んだんにどうしてはようこんとね」
ずかずかと無遠慮に母は雄大に詰め寄った。そして、雄大の顔色がよろしくないことに気がついたのだろう、負けず劣らずなほどに母も青ざめた。
「また発作が起きたの⁉︎ なんで呼ばんとか⁉︎ いつも言っとるやろっ。なんのために部屋にインターホンつけたと思っとるとよ。使って、言いよるやろ。……あんたまでおらんならんでよ………頼むから」
雄大は生まれた時から心臓病を患っている。父もそうであったから遺伝であろうと思う。
「わかった。気いつける」
「前もそう言うたやないの。……あんたの父さんもそうやった。勝手に一人で大丈夫や、大丈夫や言うて無理重ねて、病気や知った時にはもう………………」
父は雄大が三つの時に亡くなった。心臓病だということはずっと隠していたそうだ。それが母の心の負い目になっていることはよくわかっている。でも。
「わかっとる。わかっとるけん」
「わかっとるように思えんっ」
「あと二日、あと二日やけん、俺を自由にさせてや。卒業したら治すこと優先にするけん。お願いや………」
せめて卒業まではみんなと一緒にいたい。卒業したら本当に離れ離れになってしまうのだから。せめてそれまで。
雄大の必死な哀願に母は黙り込んだ。
「ご飯もすぐ行くけん、ちょっと待っとって」
母は渋々ながらも部屋を出て行った。その突如切り裂けるような痛みが雄大を襲う。呼吸が乱れて、胸は痛くて。声が漏れた。
自分がいつまでもつかなんて知らない。運動をしたわけでもなく、心臓が痛くなるようになったのは最近のことではある。でも、何かを成せるほどもつとは思ってない。好きな人が出来たとてその思いを告げることはないだろう。悲しませ、苦しませるだけだから。見ているだけで幸せだ、そばにいるだけで胸がいっぱいになる。
思いを告げたりはしないから。
それ以上を望まないから。
どうか……。
どうか。
「……あと少しだけ、猶予を」
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