雷牙

「ただいま」

「どこいってたのよっ。早く荷物をまとめなさい」

「だから、卒業式まで待ってっていっとるやんか」

昨日、父が帰ってきた。五年前蒸発して、もう関わり合いになどならないと思っていた大嫌いな父が。父は酒癖が悪いだけでなく、競馬にどっぷりとはまっていた。当然金遣いは荒く、しこたま借金を抱えていたのだ。その父が押し付けた借金を、日々の生活を切り詰めて切り詰めてようやく完済しきったところであったのに。この男は災厄だ。禍を呼ぶとしか思えない。父は新たに借金をこさえて、且つ姉をその担保にしたと言ったのだ。即金で返せる額ではなく、母が出した結論は夜逃げすることだった。無論、今度こそ父ときっぱり縁を切って。だが、雷牙はすぐに出たくなかった。姉の安全、もとい家族のことを考えるのならば今すぐにでも一刻も早く逃げたほうがいいに決まっている。けれど、あと三日で卒業式。あと三日だけで卒業なのだ。せめて義務教育は卒業しておきたいというのはあるけれど、それだけじゃない。きっと卒業後には誰にも会えなくなる。みんなバラバラの進路。雄大も叡司もはっきりとした校名を上げようとしない、このまま消えたら本当にそれだけなのだ。何も残らない。それはひどく悲しい。だが、しかし……。

「……どうすりゃいいんだよ」

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