いつかの夢
「ゆっちゃんみーけたっ。あとはあきちゃんだけやな」
日がだいぶ傾いた夕闇に染まる神社にあどけない少年の声が響く。隠れているのは残すところあと一人。少年が勝つのは時間の問題と思えた。しかし、いくら探しても最後の一人が見つからない。
「あきちゃーん、あきちゃーん。どこにおるとやー」
次第に少年は怖くなり、声を荒げた。日はもうとっくに沈んで海の下。辺り一面が水底のように青みがかった。鬼の少年だけでなく、捕まった子らも叫びをあげる。
「あきちゃぁん! あきちゃぁん! おるなら返事してや」
高く声を上げた少女は泣き出した。
「どうしよう、どうしよう。あきちゃんおらん」
「こんな暗くなっとるのに……。どこへ隠れとるんやろか」
「どないしよう」
焦燥と不安に駆られて、六人の子供はそこらを走り回って探した。草根をかき分け、なめ尽くすかのごとく。……けれど、見つかったのは探し人でなくその子の赤い靴だった。
「ちょっとこれ…………」
「それ、あきちゃんのやん……。どうして……」
最悪の想像をして六人の子供らは頭を振った。--違う。ありえない。きっと落としただけだ。それがたまたま崖の縁だっただけで。
「先帰っちゃったんだよ。きっと」
「そう……そうだよねっ」
「もう暗いし帰ろうや」
何もなかった。きっと帰っただけだ。不安は見なかったことにして。でも、みんな心の中では思っていた。あきちゃんはもう……。
平気な顔をしていながらも六人の足はガタガタと震えていた。六人の中で一番動きが剣呑な少年が蹴躓いて祠に倒れかかる。ベキッ、と嫌な音とともに祠は崩れた。中の御神体も無事ではなかろう。
「あ……」
「ええて、ええて。あとで大人に言っとけばいい」
「それよか、はよ帰らんと」
足早にその場を後にした六人には、地を這うような、はたまた轟くような、禍々しい音は聞こえなかった。
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