21話 とあるメル友の情報提供
みんながホテルに帰ってきたのは、3日後のことだった。
「おかえり~。大変だったねぇ」
私はスマホ(こっちの世界で買った)を弄りながら、部屋の扉に目を向けることなく挨拶した。
帰ってきたのは、ルーィさん、ジバリさん、カーヌちゃんの3人。みんな無事だったみたい。良かった良かった。
「良くないわよ! あなた、もうちょっとは心配して頂戴! なんか寂しいわ!!」
帰宅(家じゃないけどね)できたことで安心して緊張が緩んだのか、カーヌちゃんは泣き出してしまった。おおう、ちょっとやめてよ。あなた最年長じゃない。どう慰めればいいのか分からないよ。
「せめてこっちを見て!」
「ああ、うん」
私はスマホを枕元に置き、3人の方を向く。3人揃って、ちょっとやつれていた。相当大変な思いをしたみたい。
ちなみに、彼らがどうしてこんなに帰るのが遅くなったかと言うと――。
巨大怪獣が出現 → ルーィさんたちがその討伐へ → 国の怪獣対策局を差し置いて前線に立つ → カーヌちゃんが自分の相棒である巨大怪獣を呼び出して、敵と戦わせる → ジバリさんが対策局から麻酔銃を借りる → 3人+1頭で協力して怪獣を倒す → カーヌちゃんの怪獣さんもそれなりの被害を出してしまった&ジバリさんが麻酔銃を借りてきた件がきちんと伝わっていなかった → 3人揃って対策局に追われることに → ルーィさんが局員に余計な手を出したせいで捕まり、あとの2人も一緒に取り調べを受けることになった。
こんな流れである。まぁ彼らはこれまでも国から依頼を受けて怪獣狩りをしてきたという実績があったため、そんなに罰は受けなかったみたい。だからすぐに帰ってくることができたんだ。負うことになった罪は、それぞれ公務執行妨害罪、建造物損壊罪、窃盗罪。良かったね、協力したことがきちんと認められて。
「まて
慌てて訂正するジバリさん。ごめんなさい。私はてっきり、みんな揃ってしょっぴかれたのかと……。
「何も特別、罰は受けていない。自分を含めて、みな無罪となった。これまでの活動も政府公認のものだった。今回も、クエッカを撃退した功績が認められたんだ」
「せいぜいあたしが『砂漠地帯ならまだしも、街中であんな巨大な怪獣を呼び出すな。そっちの被害総額の方が高くつくかもしれない!』って怒られたくらいだね……」
出した被害の賠償はいいのかな……。色々ツッコみたいところだけど、難しい大人の事情が絡んでいるんだろう。これ以上の詮索はよそう。引き籠りJKには理解できない世界が広がっていそうだ。
「ああその通りだ。深追いはよすんだな。大人の世界は怖いぞ」
以外なことに、3人の中で1番へばっているのはルーィさんだった。普段は最も余裕そうなのに。
「だから言っているだろう。これ以上聞くな、ってな」
「この子、追ってきた役人と乱闘繰り広げて、ちょっと厳しめに怒られたのよ」
わーお。そりゃそうですよねー。
「それ立派な公務執行妨害ですよ」
「だから、拘留されなかったことが驚きだわぁ」
本当にまぁ、3人揃って無事に帰ってきたものだ。正直、私は楽観していた。みんななら心配することないだろうって。協力な怪獣と何度も戦ってきた訳だし、帰りが遅いけれど問題ないって、そんな風に思っていた。
まさかこんな大変な目にあっているとは……。
何も気にしないでいて、申し訳ない。
「仕方ないさ。自分たちだって、あんな大物を相手にするのは初めてだ。どんな結果になるかなんて、誰にも予想できなかったよ」
「あ、ありがとうございます……」
ジバリさんが気遣ってくれる。嬉しい。イケメンで優しいのね、嫌いじゃないわ!
でも私がこの3日間、特に何も考えずに過ごしていたのは事実だ。ベクティナくんとたまにだべって、ハリリタちゃんとメールでやりとりして、彼らのことなんてちっとも気にかけていなかった。オタク失格だ。
「そんなことはない。むしろ、心配する必要ない、とまで信頼されていることの方が嬉しい」
「おいジバリ。お前さっきからやけに環に甘いな。どういう風の吹き回しだ」
ニヤニヤしながら訪ねるルーィさん。待って! それってどういう……。
鏡を確認した訳じゃないけど、自分で分かる。今の私は非常に気持ちの悪い表情をしている。だってほっぺが痛いんだもの。そうとう口角を上げなくちゃこうはならないよ。それに顔面全体が熱い。ああ、真っ赤になってるんだろうな。何を期待しているんだか。
「ルーィ。お前はもう少し心配されるようになれ。何をしでかすか分からない奴だと思われろ」
「やっぱり俺には厳しいんだな」
あぁ~、いいっすねぇ。この2人の距離感、関係。私好みだ。
ルーィさんとジバリさんの微笑ましい(私にとって)やり取りを見ていたその時、シャワーを浴びていたベクティナくんが、バスルームから出てきた。
「あ、みなさん。お帰りなさい」
ピリピリしている2人をよそに、カーヌちゃんが手を振る。
「ただいま。大丈夫? 肉食系女子にDT奪われてない?」
おい。そりゃ誰のことだ。私はナマモノでも興奮できるオタクだけど、実物に手を出すなんて愚かなことはしないよ。むしろ自分が触れて神聖なものを穢すことを恐れるタイプだよ。
「そこの人ではありませんが、襲われかけましたよ」
「マジで何があったの……?」
うん、色々あったんですよ、カーヌちゃんたちが戦っている間に……。
盗賊団のみなさんと仲良くなったことを話すと、みんな唖然としていた。まあ当然だよね、これまでずっと仲が悪かったんだし。
「なるほどそんなことがね――。でもそれで余計な妨害が減るのであれば、良いんじゃない? うちの子を襲ったことは許せないけど」
「ぼくもまだ警戒してますよ」
多分ベクティナくんが言っているのは、ハリリタちゃん個人についてだと思う。そりゃショタコンはそう簡単に治るものじゃないからね。きっとまだこれからも狙われると思うよ。でも安心して! 私が守るから。ベクティナくんの純潔を守るために、そしてハリリタちゃんが人の道を踏み外さないために!
そんな時。噂をすればなんとやら、だ。私の携帯が震えた。ハリリタちゃんからメッセージが届いている。それを確認してみると……。
『北の村付近で珍しい怪獣が確認されたって。村人の目撃情報によれば、そいつは空を捻じ曲げて現れたんだとか。もしかすると、レア中のレアな、ゾンムバルかもしれないよ』
「えっ……?」
ゾンムバルとは確か、私の暮らしていた世界と、このビエルェンのある世界を繋げた怪獣じゃなかった……?
私の胸の鼓動が早くなる。私が元いた世界に帰ることができるチャンス。それはあまりにも突然、やって来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます