19話 私って、ホント馬鹿
ショタコン盗賊ハリリタとやらに、私たちの大切な仲間である、ベクティナくんが攫われました!
「あーもう、めちゃくちゃだよ!」
私は彼を連れてどこかへ逃亡した盗賊女を探して、避難所の中を駆け回っている最中でございます。
私の世界で言う体育館のような形状をしたこの避難所には、大勢の人が集まっている。街では超デカイ怪獣が暴れているということもあって、外出は禁止。だから施設内のどこかにいると思うのだけど、なかなか見つけられない。いや、人がいっぱいいるから、誰かに「可愛い男の子と変態女を見かけませんでしたか?」て訊けば、中には答えてくれる人もいるかもしれない。でも無理なんだよ! それができないんだよ! しばらく引き籠っていた陰キャで喪女な私が、見知らぬ人に声を掛けられる訳がない! いや、別に引き籠り期間は関係ないな。前から店員さんにものを訊ねるのが苦手だったし。極力自分で解決したい派だ。
そう言ったら格好いいかもしれないけど(そうでもないか?)、要は他人に頼ることが怖いだけだ。ダサいことこの上ない。
しかし、私は独りではなかった。ん? ハンターのみんなかって? 違うよ。カーヌちゃんたちはまだこっちに来ていないから、手伝ってもらうことなんてできない。今回私に手を貸してくれているのは、ハリー団という盗賊の一味だ。名前を聞いてお察しの通り、ハリリタの子分たちである。親分の残念な趣味が(私のせいで)知れ渡ったため、みんな彼女を心配している。
「あんなカシラは初めて見たぜ……」
「まさかお宝よりも子供を優先するなんてなぁ」
「あんな歳の離れた子をさらうなんて、盗賊よりもよっぽど外道だぞ。それはやっちゃいけねぇよ」
散々な言われようだ。いや、児童誘拐も盗賊も、罪としてはどっちも同じだよ。外道も何もないよ。
あれ。何かが引っかかる。外道がどうのじゃなくって――。
そうだ、歳の離れた、って? あの人私と同じくらいだよね。私が17で、ベクティナくんは13(地球の暦で)。4つしか離れてない。それ程の差ではないと思うのだけど。まぁ、合法じゃないのは確かか。
「あの、お頭さんておいくつなんですか?」
コミュ障がコミュ障なりに訊ねてみる。いや、「ああん?」とか言ってこっちを見ないで。あなたたち顔怖いんだから。引きこもりには刺激が強すぎる。
「ハリリタさんなら27だぞ」
わーお。思ったより歳行ってた。地球換算とそんなに変わらないから、そのまま27歳と受け取っていいだろう。まぁ、私よりも10コも上だったのね。そりゃ間違いなく違法だわ。ショタコン罪で裁かれるべきだ。
それにしても、さっきから避難所のあちこちを走り回っているけれど、一向に発見できない。どこに行ったんだよ!
ほとんどの部屋は開放されているから、隠れられる場所なんてないだろうし。まさかトイレ? 犯罪臭が濃すぎる。
え、ホントにどこに行ったの?
「……ダメ元で行ってみようかな」
私は「ここじゃありませんように」と心の中で願いながら、大部屋を出て、廊下の奥にあるトイレに向かう。頼むからまだ健全な状態であっておくれ。後でみんなに怒られるのは私なんだから! いや間違いなく私にも落ち度はあるけれど!
早足で向かう。心臓がバクバクと鳴って痛い。物理的な痛みと精神的な痛み、両方が私の胸を苦しめる。
さて、トイレの前に到着――――。
「最悪だ」
なぜだかトイレの前に、人だかりができていた。まぁ、赤ちゃんを抱えた女の人が2人だけだけど。ああ。もしやとは思ったけれど。あの中では見るも無残な姿になったベクティナくんが……。
あれ? よく見ると違う。2人がいるのはトイレの正面ではない。その隣にある、授乳室の前だ。
「あ、あの……。どうかした、んですか……ね?」
怪しい感じで、私は2人に訊ねる。するとお母さんたちは、こちらを見るや否やビクッ! と顔を引きつらせていた。
酷い! そんなにビビることないじゃん! 確かに怪しさ全開だけどさ! 傷つくよ、そんな顔されたら。女の子だもん!(関係ない)
だけどよく見ると、その視線は私よりも後ろに向けられている。それに従って私も後ろを向いてみたら、ハリー団のみなさんもいた。ああ、そりゃビビるわ。
お母さんたちは、(1番話しやすいと思ったのだろう)私に事情を説明してくれる。
「あの、子供にご飯をあげようと思ってここに来たら、扉が閉まっていて」
試しにドアノブを捻ってみるも、確かに施錠されている。
「それに、中から薄っすら、言い争うような声が――」
扉に耳を付けて中の様子を伺うと、何かが聞こえてきた。これは――泣き声? 悲鳴? 何かそんな感じの声だ。もっとよく聞こうと、右耳に全神経を集中。
「や、やめて――――」
「やばい、たまんない――――」
! 捉えた! 私の耳は、しっかりとその声を捉えた! 泣いているのはベクティナくんだな。そして息を荒くしているのがあのショタコン盗賊女だ。
あの女、ベクティナくんに何をしようとしている!? 最悪の事態になる前に、あいつをぶん殴らなければ!
私は再びドアノブを握る。鍵がかかっているのは、分かっている。それでも、突入しなければならない。お願い開いて! 今度は手に全神経を集中。すると何やら、カチャカチャと音がしてきた。まさかの火事場の馬鹿力? 私、この扉ブチ破っちゃう?
全身が熱くなったその途端、ガチャッ! とノブが回った。突入できる!
「こんのショタコンヤローがぁぁぁぁぁ!!!」
絶叫しながら部屋に入った私が見たのは、今まさに犯罪が行われるといった場面だった。
* * *
よっしゃああああ間に合ったあああああ!
すんでのところでベクティナくんの救援に駆けつけることができて、私は私を誇らしく思う。
それにしても凄いな。鍵のかかった扉を開けちゃうなんて。私のどこにそんな力が秘められていたんだろう?
何だか色々と舞い上がった気分で扉の方を振り返ると、盗賊団員Aさん(名前が分からない。ごめんね)が針金を持って立っていた。あっ(察し)。あの人がピッキングしてくれたのね……。それでドアノブが回ったんだ。別に私の力じゃなかったのか……。ちょっと残念。
てか当たり前のように犯罪技を披露しないでよ。おかげで助かったけどさ。
まぁ、盗賊なんだし、それくらいできて当然か。
はっ! 今はそんなことを考えている場合ではない! ショタコン女に穢されそうになっているベクティナくんだ!
「このロリババア! 早くその子から離れろ!」
「誰がババアだ! 小娘があんまり調子に乗らないでよ!」
わーお。そこに食いついたか。でも意外ではないか。そういうのに敏感なお年頃だよね。そこは私の配慮が欠けていた。申し訳ない。えっと……何かフォローしなくちゃ。
「大丈夫だよ。童顔だし、そんなおばさんには見えないよ」
「あなたねぇ。それが何のフォローにもなっていないこと、理解してる?」
あらら。これじゃ駄目みたい。それじゃあこれ以上は、何もフォローできないです。褒めたつもりなんだけどなぁ。いいじゃん、ロリ顔。大半の男は好きだよ。なるべく若い感じの方が良いよ。相手がおは――じゃなくて、熟女好きでもない限り行けるって。
まぁベクティナくんはロリ好きでもBBA専でもないと思うけど。なんとなく。そういやこの子、どんな女性がタイプなんだろう。今度時間がある時訊いてみよ。
「いいよねあんたは――。“今度”この子と“話す”機会があるんだからさ!」
「えっ、あっ。何、そこで怒るの!?」
うん。悪気はないんだ。私は、思ったことをついつい口に出してしまう性格なだけなんだ。悪気がない分、余計に質が悪いとも言われそうだけど。いや、絶対に分かってやってくる奴の方が厄介でしょ。私の方がマシだって。ねぇ、そうだよnブフォアアア!!
「醜女にはそれ相応の制裁が必要なんだよ」
また殴られた。酷い。私も一応女の子なんだよ。顔に痕が残ったらどうするの。化粧で傷痕を消す技術なんて、私持ってないよ!! 基本的にはすっぴんだよ! 高校生だし仕方ないね。まぁ今の私は引きこもりなんだけど。
「さて……流石にこれでもう懲りたよねぇ?」
バキバキと指を鳴らしながらハリリタさんは私に歩み寄ってくる。怖あ。いや、これ子供泣くって。振り返って、今のこの状況をもっとよく見た方がいいよ!? ほらベクティナくんも引いてる!
「あなた。いい加減に黙った方がいいよ」
がしっと胸倉を掴まれた。痛い。
「いや、ちょ。お姉さんやめちくり~」
「もうふざけるのも大概にしてくれないかな」
さーせん。ホント、さーせん。いやでもふざけている訳じゃないんだよ!? 勝手に喋っちゃうんだよ。語録って言っても分からないだろうけどさ!
どうしよう。涙が出て来た。我ながら情けない。別に煽るつもりとかじゃないのに。
どうしてかなぁ、私。直子ちゃんと喧嘩した時から全然変わってない。思ったこと全部口に出して、相手の神経逆なでして、怒らせて。私って、ホント馬鹿。
ボコボコにされても仕方ない。ハリリタさんが拳を振りかぶる。私は覚悟を決めて、両目を閉じた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます