18話 愛のうったえ

 えーと、あの、はい。ベクティナです。諸事情により、ここからはぼくが語ります。


 簡潔に話すと、避難所に行ったら、よくぼくらの邪魔をしてくる盗賊団がいて、その頭領にたまきさんが吹っ飛ばされて、直後にぼくが攫われました。


 そして今。避難所の奥にある個室、なんでしょうか。ここは。ぼくはこの部屋の真ん中で、棒立ちしています。なぜかって、目の前で年上の女性が土下座をしているからです。こんなものを見せられて、どんな顔をすれば良いんですか。


 とりあえず、事情を訊くのが正解ですかね。


「あの……。顔を上げてください。何でぼくはここに連れて来られたんですか」


「お願いします。あーしのものになってください」


 えぇ…………。意味が分からない。


 いえ、訂正します。意味を理解したくありません。どういうつもりなのでしょうか、この盗賊さんは。『青い瞳』が欲しかったのでは? どうしてぼくが求められているの?


「帰っていいですか」


 特に縛られている訳でもないので、部屋を出て行くのは容易です。目の前にいる彼女を避けて、扉に向かいます。


 しかし、足を掴まれました。痛い。


「行かないで! これからはずっとあーしと一緒にいて!」


 えっ。嫌なんですけど。ぼくは怪獣ハンターの一員です。こんな盗賊団と慣れ合う気はない。丁重にお断りして、みんなの所に行きたい。


「ごめんなさい。ぼくはあなたといることはできません」


 もう1度扉に向かって歩こうとするけれど、彼女は足を放してくれません。


「お願い何でもするから絶対に君を幸せにするからだからあーしのものになって毎日抱き締めさせてできれば童貞を奪わせてこの心を癒して可愛い男の子だけがあーしの心を満たしてくれるの!」


 何だか怪しい気配しかない懇願の言葉ですが、大丈夫ですよね? 身の危険しか覚えないんですけど。


 まさか環さんのことが恋しくなる日が来るなんて、思いもしなかった。普段は頼りないし、間違いなく変な人なんですけど、こんな状況でいないと心細いです。お願い! 早く助けに来て! このままだと食べられる!


「あーしね。君ぐらいの時に、盗賊になったんだ」


 急に身の上話が始まりました。これ、ぼくはどんな表情で聞くのが正解なんですかね。


「生まれた村が凄い貧しいところでさ。きちんとした職に就くことができる人は、ほんの僅かだった。ザコ怪獣を狩って、非合法の店に売りに行くこともあった。それでも生活は苦しくって、盗みを行った。あーしの村は、そうすることでしかみんなが生きられなかったの」


 そうか。盗賊団にも、そんな事情があったんですね。でもそれとこれとは話が別ですよね? 何でぼくが連れ去られなきゃならないんですか。


「それでさ。子供もあんまり育たないんだよ。食い扶持が増えるのを嫌がって産まないとか、生まれてもすぐに死んじゃうとか。だからあーしは、自分以外の子供を知らないで育ったんだ。だからあーしからすれば、きみはとっても眩しい存在なんだよ」


 何だか今、凄い同情を引こうとされていないでしょうか。ぼくの気のせい?


「だからね。友達からでもいいから……。この関係、始められないかなぁ?」


 どんな関係なんですか! できることなら断りたい。けれど、「ごめんなさい」と言ったところでこの手を放してはくれないでしょう。とすれば、今この場では許可して、解放された後にみんなに助けてもらう。ぼくが取ることのできる選択肢は、これくらいです。


 他人任せになってしまうようで情けないですが、時には仲間に全てを委ねることも大切です! と自分に言い聞かせる。


 すぅ、と1つ深呼吸。意を決して、彼女の願いに応えようとします。


「それじゃあ、お友達からなら――――」


「よっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


 ビックゥゥ! と背筋が伸びました。いや、こんな至近距離でこんな大声を出されれば、誰だってそうなります。


 びっくりしたぁ。凄い喜びようだ。この方、本当に子供時代に憧れがあるんですかね? いや、その言葉に偽りはないように思えますが、何だか意味が違っているような。


「よぉしよぉし。それじゃあ早速親睦を深めていこうか――」


 ひぃ。目が怖い。肉食獣に追い詰められた小動物って、こんな気持ちなんでしょうか。


 流石に取って食われたりはしませんよね……?


「あの、ちょっと、怖いです」


「大丈夫だよ~。怖くないからねっ。お姉さんが優しく手ほどきしてあげよう……」


「いやいやいや! 取って食う気マンマンじゃないですか!」


「そんなことはない! 食べたりしないから……ちょっと咥えるだけだよ」


 どこをだよ。どうしよう。この人、怖いくらいに目が据わっている。早く帰りたい!


 ぼくの足首を掴んでいた盗賊の手が、徐々に上にずれていく。ふくらはぎから太ももを通り、なぜか一瞬お尻を揉んで、それからベルトに手がかけられた。


 えっ。あの、冗談ですよね? ストップ! これ以上は本当に危ないですから!


「やだっ……、やめて……」


 怖すぎて涙が出て来た。しかしそれは、彼女してみればより扇情的だったようで……。


「やばい、たまんないぜコレ――。フォッフォウ」


「何ですかその息の仕方!?」


 ベルトが外され、いよいよズボンに指がかけられ。


 もうお終いだと思った、その時でした。


「こんのショタコンヤローがぁぁぁぁぁぁ!!!」


 バン! と勢いよく僕らのいる部屋の扉が開きました。そして聞こえて来たのは、覚えのある叫び声。


 頼りにならないくせに、恋しくて仕方なかった、環さんの声でした。

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