16話 ビリビリ食らう
えーと。前回同様、あたしカーヌが語り部です。どうぞよろしく。
ドラジェーンとクエッカの戦いは、それなりに激しくなってきた。そりゃそうよねぇ、あんな大きな動物がビルの立ち並ぶ街中で殴り合っているのだもの。どちらも譲らない。怪獣にも負けず嫌いってあるのね。
でもそろそろ決着を着けないと、街への被害が大変なことになっちゃう。もう十分大変だけど、これ以上になるからね。
「ドラジェーン! いい加減に決めるわよ!」
あたしは相棒に向かって叫ぶ。あの子は口を小さく開けて「ぶもおぉ」と鳴いた。可愛い。こういうの、親バカって言うのかしら?
ドンッ! と地面が揺れて、クエッカが大きく仰け反った。ドラジェーンが強く角で突いたのだ。
「ああーーっっっ!!!」
しまった。とんでもないことしちゃった、あたしたち。バランスを崩したクエッカが倒れ込んだのは、1棟のビルだった。外壁が、窓ガラスが、鉄骨が、砕け散って行く。当たり前よねぇ。こんな街中に怪獣が出現するなんて、これまでなかったもの。どれだけ丈夫な建物でも、怪獣が突っ込んでくることなんて想定していない。こんなことになっては、脆いものよ。
「バカヤローッ! 思いっきりぶっ壊してんじゃねぇか!」
「ごめんなさいーっ。修理代はあたしが出すから!」
「お前だけの金じゃねぇよ。俺たち共通の財産だよ!」
あたしとルーィは泣き叫ぶ。これは完全にあたしたちの、いや2人を撒き込んじゃ駄目ね、あたしの失敗だわ。でも責任を取るということになったら、みんなにも迷惑を掛けちゃう。やっぱりあたし、こうやって戦うのには向いていないわぁ。
しかも、あんなに被害を出しておいて勝てた訳じゃない。クエッカは立ち上がり、ガチャガチャと天に向かって吠えている。まずい。完璧に怒らせちゃたわね。
敵の咆哮に、ドラジェーンも怯んでいる。どうしましょう。このまま押し切るのは、ちょっと難しくなってきたわよ。
ここであたしはあることに気付いた。そう言えば、ジバリは? あの子どこ行ったの? さっきまで怪獣対策の人と連絡を取っていたけれど、いつの間にか姿を消している。避難誘導に加わっているとか? それならそうと言って欲しいわ。今戦っているの、あたしとルーィの2人じゃない。圧倒的な人手不足よ。
「おいカーヌ。お前の相棒に伝えろ! 余計に街を壊すんじゃねぇって!」
「分かってるわよ。ここから先は、より慎重にやるわ」
でも、辺りの障害物が多すぎる。こんな場所じゃあ、どれだけ注意を払っても何かしら巻き込んでしまう。安全に敵を排除するなんて、ぶっちゃけできっこない。
ここで誰も傷つけさせないし、何も壊させないって宣言できるのが、できるヒーローの証なのかしら。だったらあたしはとんだダメ人間ね。
手っ取り早く敵を倒すには、ドラジェーンの電撃光線が1番だけれど、あれは技を撃つまでに時間がかかる。角に力をチャージしている間に、攻撃を食らってこちらが負けてしまうわ。
でもあまり長い時間殴り合っている訳にも行かない。どうしましょう……。
そんな時。
「カーヌ! ちょっとの間でいい、奴を押さえ込ませることは可能か!?」
ジバリが戻って来た。その手には、見覚えのない銃器が抱えられている。
「対策課からこれを借りて来た。僅かな間だが、敵の動きを止めることのできる麻酔銃だ」
わーお。それが通用すれば、勝ち筋も見えるわね。なるほど、ジバリの姿が見えないと思ったら、こんな武器を借りに行っていたのね。感謝!
「分かったわ。ドラジェーン! クエッカを押さえて!」
「ぶもおおおおおお」
いい子いい子。あたしたちの意図を理解したのか、ドラジェーンは敵に跳びかかる。いや、その動きは止めて……。道路がめちゃくちゃ凹む。
ええい! もう自由にやりなさい! 責任は全部あたしが取るから、後でメチャクチャ怒られてみせるから!
「今はあの迷惑ちゃんをぶちのめすわよ!」
クエッカにラリアットを食らわせるドラジェーン。すっごーい。見事に敵がひっくり返った。まぁ、その分周りに被害が出まくってるんだけどね……。
「今よ!」
その隙を突いて、ジバリが前に出る。起き上がるのに苦労しているクエッカの足元まで進み、麻酔銃を撃つ。
「刺さった。1度離れるぞ」
攻撃がヒットしたのを確認すると、後退。様子を見ましょう。
上空に、対策課のヘリが数機飛んでいる。それを見たルーィが不満げな表情になった。
「結局はあいつらの手柄かよ。きちんと俺たちに金は払われるんだろうな」
「悪いが、これのレンタル代として大分持っていかれるかもしれない」
「テメェ、余計なことしやがって!!」
「まぁまぁ。怪獣を街中から追い払わないことには、どうにもならないじゃない」
喧嘩を始めた2人を諌める。普段仕事が少ない分、今日はやることが多いわね。
でもこの態度が失敗だったと、すぐに気づく。ヘリから碇が射出されて、クエッカの身体に突き刺さった。その瞬間、怪獣は麻酔が効いていないかのような機敏な動きで起き上がり、自分を捕まえようとしていた鎖を切っちゃったのよ!
「マズイっ。ドラジェーン!」
あたしはすぐにドラジェーンに支持を出す。あの子はすかさず敵を後ろから押さえ込んだ。でもクエッカの抵抗も激しい。ホントにマズイ。このままじゃ街への被害がさらに増える。
「ねぇジバリ。国はあの怪獣を捕獲したいの?」
「できるだけ殺すことは避けたいんだろうな。殺せば、害獣にも過保護な団体から文句が来る。そうなったら厄介だ」
「そんなこと気にしている場合じゃねぇだろ。あんな馬鹿でかい奴を捕まえるまで粘っていたら、その間に街が消し飛ぶ!」
ええ。ルーィの言うことはごもっともだわ。これ以上の被害が出る前にやっつけないと。
「……駆除代、出なかったらごめんなさいね」
その前置きに、2人はあたしがこれから何をしようとしているか、察したようみたい。
「状況が状況だ。思いっきりやれ」
「もしも金が払われなかったら、いくらでも訴えてやるよ」
アリガト。そして怪獣さん、ゴメンナサイね。
「ドラジェーン!」
「ぶもおおおおおおおおおお!!!」
一際大きな咆哮と共に、ドラジェーンは角にエネルギーを溜めていく。幸い、麻酔がまだちょっとだけ効いているみたい。さっきまでと比べて動きが鈍い。時間のかかるチャージも、これなら間に合いそう。
バチバチと電気が溜まり、角が根元から白く変色していく。全体が真っ白になったらチャージ官僚の合図よ。
あと少し……先端まで変われば……。
「3、2、1……!」
さぁ、チャージ完了よ!
「ビリビリいっちゃって、ドラジェーン!!!」
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
電気エネルギーが発射される。それは真っ直ぐ飛んで、クエッカの身体に突き刺さり――。
バヂン!! と風船を破裂させるみたいに、敵怪獣の身体を木っ端微塵に吹き飛ばした。
突風が吹き荒れ、ビルのガラスが割れていく。アスファルトは削れ、道路が剥がれていく。それはそれで、被害が大きいわね……。ホント、ごめんなさい。
でもこれで、迷惑な怪獣は倒せたわね。うん、お仕事完了、で良いのかしら?
ふぅ。こんなに気力を使うことは珍しいから、疲れちゃったわぁ。
「カーヌ。お疲れ様」
「ありがと、ジバリ。それに、ルーィもね」
労いの言葉をかけてくれるジバリとは対照的に、ルーィは不満げな表情をしている。
「今回は特別に、お前に譲っただけだ。勘違いするなよ、本来の主役は俺だ」
「分かってるわよぉ」
ふふふ。そんなことで拗ねちゃってるのね。可愛いところあるじゃない。
それじゃあひとまず、一件落着ということで…………。
あらぁ? どこからともなく、サイレンが聞こえるわ。誰か怪我でもしたのかしら。でもよく聞くと、救急車の音とは違っている。あまり聞きなれない音だけれど――うん。何だかパトカーに近い気がするわね。何だか嫌な予感。
次第に音が大きくなってくる。これって近づいてきているわよね? まさかとは思うけれど……。
「おい、これってもしかして、逃げた方が良いんじゃないか」
ルーィも同じことを考えたみたい。
「…………最悪だ」
そしてジバリは、この音の正体を知っていたみたい。
ランプを光らせながら走って来る車が見えた。あたしたちはそれとは反対方向に、全力で走り出す。
「どうしてこうなるのよ!!」
こうしてあたしたちは、対策局に追われる身となった。
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