15話 都心部SOS!
今回の語り部はあたし、カーヌです。
でもまぁ、非難しちゃった環ちゃんじゃこの状況を語ることはできないし、あたしが代役になります。よろしく。
「ビビリ野郎が。暴れるのは地下だけで、姿は現さないつもりか?」
ルーィが道路に空いた巨大な穴を覗き込みながら、そう悪態を吐く。まぁ苛立つ気持ちも分かるわぁ。これだけ被害を出しておきながら、あちらさんは人の目の届かない所に引き籠っているんだもの。ずるーい。
でもね。そういう相手ほど誘い出すのは簡単だったりするのよ。
「ドラジェーン! お家を荒らしてやりなさい!」
あたしの可愛子ちゃんは、素直に言うことを聞いてくれるいい子なの。あたしの指示を受け取るや否や、地面の穴に角を突っ込んだ。そうして何をするかって? ビリビリいっちゃうのよ!
突然の雷轟に空気が揺れる。ドラちゃんの得意技はね、大きな角からの放電なの。巣穴を荒らされちゃあ、出て来ざるを得ないわよねぇ? さあいらっしゃいな、地震怪獣クエッカさん?
「グャオオオオオンン!!!!」
崩れかけの道路が爆ぜた。その内側から、巨大生物が姿を現す。
そいつはドラジェーン同様に2足。全身がゴツゴツとした岩肌みたい。まさに地底に住んでいて、地震を起こす怪獣って感じね。尻尾は短め。背中からは珊瑚礁みたいな突起がたくさん生えている。そして頭は小さくて、眼球はない。その代わり、額に長い角が生えている。
あらぁ。角怪獣同士の対決って訳ね。
「来たわよぉ。お2人さん、今日はサポートをよろしくね」
あたしはルーィとジバリに向かってウインク。2人とも素直に頷いてくれた。
「仕方ない。今日ばかりはお前に主役を譲ろう」
「あらアリガト」
さぁて。あんまり軽口叩いている暇はないわね。とっととやっつけちゃいましょう!
「ドラジェーン! そいつをボコボコにしちゃって!」
「ぶもおおおおおおおお!!」
うん。今日もいい声してるわよ。ドラジェーンが殴る。すかさずクエッカも殴り返してくる。お互いに巨大だから迫力があるけれど、ただ交互に殴り合うだけの戦いって、何か地味ね。街中であんまり派手にやり合う訳にはいかないから、これが最適なんだけど。
2大怪獣が戦いを始めた、その時だった。見慣れない飛行機が飛んできたわ。
「あれは……!」
ジバリは何か知っているみたい。と言うことは、お国の飛行機かしら?
『民間人は早く非難してください!』
何か声掛けをしている。避難誘導かしら?
あれ、でももしかして……。
『そこの3人! 早く非難しなさい!』
あ、やっぱり。あたしたちに呼びかけてるわね。あたしたちはお仕事でここにいるっていうのに。
「カーヌは戦いに集中してくれ。奴らには自分が言っておく」
「流石は元職員。お願いするわね」
怪獣対策課の飛行機については、ジバリにお任せしましょう。あたしとドラジェーンは、あの怪物に集中集中。
でもどうすれば良いのかしら? 地面の中に戻して帰ってもらおうにも、また移動に合わせて小さな地震が起きるでしょ。地盤が脆くなった地域だと、今度も無事だっていう保証はできない。
かと言って、こんな街中で倒すのも、それはそれで問題山積みになるしねぇ。困ったわぁ。
「おい。あんまり長考していると、街への被害が大きくなるぞ」
「あらぁ、ルーィ。あなた、意外にそういうところ気にする人なのね」
「仕方ないだろ。普段なら郊外でこっそり狩ればいいが、今度は目撃者が多い。今後の狩人の信用に関わる」
ホント、意外だわぁ。この子がそこまで考えているなんて。ごめんなさい。あたし、あなたのことを甘く見ていたかもしれない。流石はチームのリーダーを自称しているだけはあるわね。
ふと視界の端に、どこかに電話をかけているジバリの姿が映った。きっとさっき言ったように、お国に掛け合ってくれているみたい。ありがたいわ。
考えてみれば、普段はあたしが1番何もしていないわよね。運転だけ。ルーィとジバリは直接戦っているし、ベクティナは怪獣について解説してくれる。ああ、環ちゃんはまた別ね。
それで、もしかしなくても、あたしとドラジェーンが活躍できるのって、今回みたいなケースに限るのよね。相手が規格外の大きさをしている時くらい。えっと多分、今日で3回目かな。
よぉーし。普段みんなに頼りっぱなしな分、今日は張りきっちゃうわよぉ!
「もおおおおお!!」
あらあら。あたしの気合、ドラジェーンにも伝わったかしら。
よぉし、それじゃあ、思いっきりやっちゃって!
× × ×
えー。ファルコン1、ファルコン1。こちらファルコン1……、じゃなかった。
誰に向けたものかよく分からないアナウンスはこの辺にして。
私とベクティナくんは、警察や自衛隊みたいな人たちの誘導に従って、避難所に向かっていた。
「みなさん! 落ち着いてください。避難所はまだ十分に収容できます。焦らず、周囲に気を付けて歩いてください!」
身長2メートルを超す、大きな人が逃げる群衆にそう呼びかけている。あの人もどこかの職員なのかな。
あちこちで、押し合い圧し合いの大揉めだ。私たちははぐれないように、固く手を握り合っている。
「本当に大丈夫なんだよね!? 私らここで怪獣同士の戦いに巻き込まれてお陀仏とかないよね!?」
「えっと、死にたくないというのは伝わってきました……。きっと大丈夫ですよ、あの3人がヘマするなんて考えられませんし、緊急事態ということで国も動いていますからね」
「きっとなんて言わないでぇ。絶対大丈夫って言ってぇ」
「絶対大丈夫ですよ」
うわー。めっちゃ棒読み。この子もうちょっと私に優しくしてくれてもいいんじゃないかな? 私の尊みについて熱弁していらい、ベクティナくんが私にやや冷たくなった気がする。
私が心の中で泣いていた、その時。
また地面が大きく揺れた。避難者たちが悲鳴を上げる。それを宥めるように、職員さんたちも声掛けをしているが、彼らも焦っていることが伝わってくる。
私たちがさっきまでいた方を見ると、2大怪獣が殴り合っていた。動きが人間みたいだな。巨人のスーツアクターが入っている可能性って、ある?
「環さん、立ち止まっちゃ駄目です。行きましょう」
「う、うん。ごめん。避難所もうすぐそこだもんね」
ベクティナくんに手を引かれて、前進。
私たちはようやく、避難所(普段は体育館みたいな場所)に辿り着いた。
ここまで来ればとりあえず安心かな。そう思ったのに。
「アンタ……、何してる訳…………?」
聞いたことのあるような、ないような声。いやある。どこかで会った人かな? そう思って私は、声のした方へ首を回す。
「ヒィ!?」
そこに立っていたのは、前にベクティナくんを狙って私たちを襲って来た女盗賊・ハリリタだった。
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