13話 硬派男子の流儀

 ジバリさんは、PCルームにいた。何か調べものかな。でも、パソコンなら部屋にもある。今は誰も使っていない。それなのに、どうしてわざわざここへ?


 私はこっそり背後に迫っていく。


「……何か用か?」


 うおお。ここでも気づかれてしまった。流石は怪獣ハンター。生き物の気配には敏感なんですね。


「あの、今ルーィさんともお話ししていたんですけど、2人がチームを組んだきっかけというのは……」


「何だ。そんな話を聞きに、わざわざ来たのか?」


「えへへ…………」


 何だろう、この可愛さの欠片もない愛想笑いは。


 けれどジバリさんは、こんな私のこともキモがらずに受け入れてくれる。


「ほら。そんな所に立っていないで、ここに座るといい」


 そう言って隣のデスクの椅子を差し出してくれた。やっさしい。私はありがたく、そこに腰を落ろす。


「奴から聞いたのなら、もう分かっているだろうが、自分は元々ハンター管理協会の人間だ。あいつとは、監視員と違法者という関係で出会った」


 設定(事実だけどさ)からして萌えるよね。元は正反対の地位にいたのに、今はこうして背中を預け合う仲に――。


「別に。奴に背中を預けるほど、気を許した覚えはない」


 うおおお。気づいていたか、この感想に。ごめんなさい。


「まぁいいさ。周りから見れば、自分たちの関係はそういったものなのだろう」


「そんなに嫌ですか? ルーィさんが……」


「ああ。自分はあいつが嫌いだ。それにあいつも、自分が嫌いだ」


 はっきり言うなぁ。どうして互いがそんな風に思っているのに、チームになったんだろ。単独で狩りを行っていたルーィさんを監視するっていう、その任務の延長?


「……確かに。最初に自分が奴を知ったのは仕事でだった。四六時中奴を監視していた。正直、怠いぞ」


 そんなぁ。私だったらいくら眺めていても飽きないなぁ、あんなイイ男。


「だが1つだけ、奴を監視していて興奮したことがあった」


 ガタッ。来た――ッ。その話題を待っていたよ。興奮してきたな。


「それって、どんな瞬間ですか?」


「奴が刀を振るっているのを見た時だ」


 ほうほう。なるほど。確かにルーィさんは独特の剣術を使う。豪快に振るっているように見えて、計算高い。あの戦い方は、彼の無二のものだろう。


 そこに惚れちゃったということですかな?


「否定しがたいな……。だが自分が奴の太刀筋に畏敬の念を抱いているのは、紛れもない事実だ」


 はあ……。ジバリさんは、何にでも真面目に、まっすぐ答えてくれるなぁ。


 てか、さっきから私の心の声ダダ漏れだね。全部聞かれている。


「自分は、今でこそ銃を使っているが、昔は剣術のトレーニングをしていたんだ」


「そうなんですか? それじゃあ、どうして今は剣を握らないんですか?」


「適正がないと判断された。仕方ないな。自分は遠くから全体を見て判断することは得意でも、近距離で一部を見て動くのは苦手だった。どうやら自分は、全体像が見えないと考えられないらしい。だから遠距離で戦える道具に転向した」


「でも元々は、剣で戦いたかった?」


 ジバリさんは深々と溜め息を吐く。私、あまり語りたくない所まで踏み込んじゃっているかな。


「構わない、聞いてくれ。自分はルーィが羨ましいんだ。あんな不格好ながらに、鮮やかな立ち振る舞い。真似できるものではない」


 ルーィさんのことを褒めるのが、そんなに苦しいのかな。ジバリさんったら、眉間にめちゃくちゃ皺を寄せている。


「自分が奴を嫌っているのは、半分は嫉妬なんだ。まぁ、もう半分は人間性が本気で嫌いという話なんだが」


 まぁ……それは分かるよ。そうじゃなくちゃ、あんなに悪口言えないしね。


「チームを組んでからは、あの剣裁きを傍で見られることに喜ぶ一方、奴と付き合わなければならないストレスもあった。だから怪獣の研究をしているという、カーヌを誘った。まだ幼いベクティナも共に来ると言うのは、正直意外だったな」


「でもベクティナくん、私含めてこのチームの中で1番賢いですよ」


「それは間違いない」


 くふり、と笑みをこぼすジバリさん。良かった、私が昔話をさせたせいで苛々させちゃったんじゃないかと、ちょっと不安だった。


「頼む。自分が今話したことは、あいつには言わないでくれ。どうやったって面倒くさいのが、目に見えている」


「もちろん、私たちだけの秘密です!」


「そうしてもらえると助かるよ」


 くっふっふぅ。他言できる訳ないじゃないですかぁ。そんな素敵な話、気軽にホイホイ口にできるものじゃないね。


 しっかしまぁ、妄想の捗る過去があったもんですよ。ジバリさんはルーィさんに、嫉妬と憧れを抱いている。矢印はジバリ→ルーィこういう方向なのね。


 でもカップリングの上下で言えば、ルーィさんがタチせめでジバリさんがネコうけだよね。


 私はあんまり年下×年上の関係性は好まないのだけど、この2人についてはこうとしか考えられない。積極的なキャラが上に来るのは常識だよね。


 ――直子なおこちゃんにないのは、そういうところだよ。何でもかんでも邪道に行きおって。


「何度も言うが、自分は奴の人間性は嫌いだ。奴は女と金のために生きていると言っても過言ではない。ルーィ曰く『金は唯一の信頼できるもので、女は唯一の癒しを得られるもの』なんだと」


「そこに男も加わらねぇかな……」


「何だって?」


「何でもないです」


 あっぶない、声に出てた。心の声が漏れやすい自覚はあったけれど、こんな大事なことまで口に出しちゃうなんて。こればっかりは、本人たちには何が何でも隠し通さなきゃいけないことなのに。


 どうしよう。そろそろ退散した方が良いかな? これ以上ジバリさんと話していると、ボロが出そうで怖い。


「それじゃあ、私はこの辺で。えっと……」


 あれ。そう言えば、ジバリさんはここで何をしているんだろ?


「ごめんなさい、私、何かお仕事の邪魔をしてしまいましたかね?」


「いや。別に大したことではない。観測局のデータにアクセスして、この近辺での怪獣出現情報を探っていた」


「そうだったんですね。また近いうちに、狩りに出ますか?」


「うむ……。これと言って被害を出している怪獣はいない。だから討伐の必要もないだろう。だがな……」


 ジバリさんがPCの画面を点ける。そこには怪獣とは異なるデータが表示されていた。地震の情報だ。


「この街からそう遠くない距離で、身体に感じないくらいの小型地震が頻発している。しかもそうとう地下深くでな。こんなことは有り得ない。何もなければ良いのだが」


 あぁ、そっか。日本だと地震なんて毎日のようにどこかで起きているけれど、ビエルェンでは珍しい現象なんだ。こんなところで日本と異世界の違いを感じるとは。


 とりあえず、怪獣関連のことはないみたいだ。


 けれどジバリさんは、もう少し調べてみると言う。


「おやすみなさい。ジバリさんも、早く寝てくださいね」


「ああ。おやすみ、環」


 挨拶をして、私はみんなで泊まっている部屋に帰った。

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