10話 そこに尊さがあるから

「いいかい? 尊さっていうのは理屈じゃないんだよ。意味とか普遍的な価値を求めたらおしまい。分かるまで何度も言うよ、『やおい』っていうのは、『山なし』『落ちなし』『意味なし』の略なの。そこからも見て取れる通り、第三者から見ればなんの価値もない。それが私たちのような腐女子が追い求め続けている世界なの。


 まぁ、1番言われるジャンルはBLだよね。BLってのはボーイズラブを略したものでね。男の子同士の恋愛模様を描いたものだよ。そんなことあり得ないって? ハァ――――――ッッ! 古い、そんな化石みたいな価値観は捨てておしまい! いい? ボーイズラブってのは、違うね、BL含めた同性愛っていうのは、今はもう普遍的な存在なの。誰の中にも眠っている感性だよ。


 確かにさ、差別とかはあるかもしれないよ。まだまだ公表している人は少ないし、実生活で多少心苦しくても折り合いをつけなくちゃいけない場面もある。それでも、誰かを想うことを止めるなんてできないんだよ。


 そう! 誰かに恋をするのに、性別なんて要素は一種の性癖でしかない。ほら、足フェチとか短髪好きとかいるでしょ? その内の1つでしかないんだよ、男性が男性を、女性が女性を好きになるなんて、当たり前の一種なのさ。


 話が逸れたから元に戻そう!


 そうだね、今更感があるけれど、私は自他共に認める腐女子だよ。婦女子じゃないよ? 一緒にしちゃダメ。失礼極まりない。


 でさ、私はそのBLが好きなワケ。そういったジャンルの漫画や小説を持ってる。二次創作、いわゆる同人誌だね、それも持ってる。まぁ、たまに解釈違いで作者をぶん殴りたくなる時もあるんだけど――。


 いやこれ結構深刻な問題なんだよ? 攻めと受けの関係性1つとっても、戦争の火種になるんだ。相手をぶん殴るのにこの上ない正当な理由になる。――――やめやめ! ここについて触れるのはダメだ、私の心がもたない。



 えっとね、あぁ、私がBL好きってところだよ。


 今も言ったように、この世界には二次創作という活動があるんだよ。あ、違うや。この世界じゃなくて、私の生まれた世界。でもこっちにもそういう考えはあるのかな?


 とにかくさぁ、人は自分の大好きなものを、より大好きになれるように、理想に近づけようとするものなの。私の場合は、それがBLなんだ。うん、その理想の形だよ。


 もちろん私自身、恋がしたくない訳じゃない。できない訳でもないよ。好きな男の子くらい何人もいるよ。……大体二次元だけど。いや、三次元は関わることが少ないからね。二次元の男の子は、私が会いたい時にいつでも会ってくれたから。だから好きなんだ。私を独りにしないの。生身の人間と恋をしたらそうはいかないでしょ? 会えない時間もあるんだよ。


 そんな理由でさ、私は二次元の美男子たちにのめり込んでいくんだけど――。


 でも途中で思うようになっちゃったんだよね、これ私いらなくない? って。

 むしろ私は傍観者に徹底すべきじゃないかなって思ったの。そうすれば男の子たちが直接絡むことになるじゃん! まぁ、ゲームのシステム上それはできないんだけどさ、でもその2人は一旦私を中継して、絡んでる訳でしょ? じゃあ私がいなくなれば直接ぶつかりあえるよね、って発想に至ったの。


 我ながら虚しいね。独り寂しいのが嫌で、乙女ゲーなんて始めてみたのに、自分が1番邪魔になっちゃうなんて。


 それで、だからゲームだとそうはならないから、私は自分の頭の中で男子2人の世界を描くようになった。


 いやぁ、楽しいよ! そこは私の理想の世界なんだもの。私が作ってるんだから当たり前っちゃ当たり前だけど。


 その世界に浸ることが私の楽しみなの。


 あぁ――でもどうしてBLなんだろうね、自分のことなのに、今更そこが疑問に思えてきた。んー……。分かんないや。やっぱり理屈じゃないんだよ。感覚、フィーリング、信じた者勝ちなの。私にとってそうやって心をときめかすことのできるものが、BLだったてだけだよ。


 それで、BLの良さなんだけどさ……。


 まずはやっぱり、イイ男たちが絡むところだよね。あ、絡むと言っても、スケベなことばかりじゃないよ? もっとこう……心の葛藤があってさ。まぁそこから身体を使ってちちくりあう場面があれば100点だけど。


 イイ男っていうのも、顔の問題じゃないんだよ。ただのイケメンじゃ駄目。むしろ、自分のことをイケメンだと思ってる男が1番イタイ。え? ルーィさんは良いんだよ、実力を伴っているし。ちやほやされるだけで満足してるアイドル崩れとか、1番クソだね。


 いやまぁ……顔がイイに越したことはないんだけど。それでも身体が貧弱とかだったらがっかりじゃん。女の子は適度にぽっちゃりしてる方が男受けが良いとか言われるけど、逆もまた然りだよね。スレンダーよりもがっしり系。いや、もうガチムチとかの方が、いっそのこと良いかもしれない。あ、私個人の主観だけどね。


 その点、ルーィさんとジバリさんは完璧だよね。普段から怪獣を狩ってるから、身体も鍛えているし。私が猫だとしたら、あの2人はマタタビなの。どちらか片方いるだけでも大興奮さ。


 しかもさ、あの2人って性格が真反対じゃない。ルーィさんは軟派でちょっと軽めだけど、言葉巧みで気が利くし。ジバリさんは堅物で超マジメ、それでいて素直な優しさを持ってる。うん、共通項も持ちつつ、基本的には正反対。これって超超萌える組み合わせじゃない?



 いやぁ…………。初めてこっちの世界に来た時にビビッと来たね。この2人は運命の、そして私の理想のカップリングだって思った。あの瞬間の興奮はすごかったよ。初めて色違いの〇ケモンをゲットした時よりもずっと上。


 でもまぁ問題があるよね。2人ともナマモノ――実際に生きている人だから、妄想が難しい。もちろん私の頭の中で2人の仲を進展させることはできるけれど、現実は何も変わっていない、距離なんて縮まっていないままなんだから、辛いね。


 それにちょっとだけ罪悪感みたいなものも覚えちゃうよ。本人たちの意志を無視してのことなんだからさ。


 いや、私だってそんな感情を持ってるよ! 申し訳ないくらい思うよ!


 でもまぁ……それでもやめられないんですわ。1度火が点いちゃったらもうダメだね。どうやったら燃え尽きるんだか。


 そう! そこなんだよ、どれだけ燃やしても尽きない情熱! それが我々オタクの生きる糧――いや、そんなもんじゃない、生きる意味だよ!


 もちろんさ、1番大切なのはあの2人の意志だよ。私のこんな劣情を伝えるのはご法度。押し付けちゃいけない。むしろ私自身は介入しないで遠くから見つめているだけでいるべき。


 うん。そうだよね。卑猥な妄想は私の脳内だけで完結させちゃわないと。


 本当にやべーやつってのはさ、自分の妄想と現実がごっちゃになって大変なんだよ? 私の世界ではさ、たまに犯罪者の家からゲームやアニメグッズが押収されたってのがニュースで取り沙汰されてね。それでよく偉そうな心理学者? か何かの先生がワイドショーなんかで「あんな趣味をしていると精神に異常を来たすんですから。やってる人間は碌な精神構造をしていません(要約&偏見&嫌悪)」なんてコメントしていてさ。ホント頭にくる!!


 オタク=犯罪者じゃないんだよ! 犯罪者になった奴がオタク趣味を持っていたってだけでしょ? それをなんだ、世の中の無知な連中は、人の趣味にケチつけやがって!! それこそ妄想と現実をごっちゃにしてるじゃん。


 人の生き甲斐をドラッグみたいな呼び方して、G虫みたいな目で見やがって! 他人の趣味を知ろうとする努力すらせず、とりあえずディスっとけば立場上みたいな顔しやがって! そうやって1部の人間を追いやることを趣味にしていることの方がよっぽどやべーやつなんだよ!


 なんかちょくちょくブーメラン発言してそうだから、そろそろ黙った方が良いかな?


 うーん……あと語っていないことはあったかな……。


 うん、まあそうだよ。私にとっては生きる意味の1つなんだ、BL妄想っていうのは。そして私の理想のCPがこの世界で見つかった。それだけで今、私は幸せなの。胸の奥がぎゅーんとして、下腹部がぐっとなって、顔が熱くなる。最高の感覚!


 全部を理解してとは言わない。ちょっと特殊な好みだっていうのは分かってる。もう、異端と呼ばれても仕方ないかもしれない。


 それでも私は好きだと叫びたい! 薔薇BaLaが好きだと胸を張って言いたいの!



 私は! 男の子同士の!! 尊い行為が!!! 大好きです!!!!」




「もういいだろ!!!」

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