7話 おんな盗賊ハリリタ
吸血怪獣ジャジャビラーの討伐を終え、街に戻るまでの間、私は眼下に広がる砂漠を眺めながら、さっきまでの戦いを思い出していた。
ルーィさんとジバリさん。普段はあまりそりが合わないような感じなのに、いざ怪獣退治となると、抜群のコンビネーションを見せる。
うん。やっぱり男は、身体で語り合うものだよね。理屈の言葉じゃないんだよ。本能の肉体なんだよ。色々語弊を生む言い方かもしれないけれど、構わない。むしろ歪んだ解釈をしてくれた方がありがたい。察しの良い人は嫌いじゃないわ!
改めて考えると、この2人はどうして一緒にハンターをしているんだろう。あ、怪獣狩りは原則3人以上で行うこと、って法律で決められているんだって。だからハンターはみんなチームを組んでいる。
でも、正確も狩猟スタイルも真逆の彼らがチームになったということは、何か深い事情があるに違いない。結成の経緯は聞いたことがないから、興味がある。ルーィさんとジバリさんだけじゃない。カーヌちゃんとベクティナくんもだ。4人はどうやって集まったのだろう。
私の知らないみんなが、まだいるんだよね。
なんて、物思いに耽っていた、その時だった。
「全員、何か固定されているものに掴まって!」
運転席のカーヌちゃんが声を荒らげる。その指示に従う前に、車が揺れた。
何かにぶつかった!? 分からないけれど、今は空走中だ。遮蔽物のない場所を走ることができる反面、安定に欠ける。強い衝撃を加えられたら、墜落するかもしれない。
窓の外に目をやって、気付いた。周りにも空走中の車が数台いる。
――っていうか、取り囲まれてる!? え、何事!? しかも私たちを囲んでいる車、どう見たって改造車だ。ボディにペイントがしてあったり、めっちゃ高いウィングがつけてあったり。
この世界でも、そんな趣味の人いるんだぁ……。世界共通? なんだね。
「こいつら、ハリー団か!」
ルーィさんが珍しく苛々とした声を上げる。
どうやらみんな、あの車に乗っている人が誰だか知っているみたい。
ん? うわぁぁぁぁ!!??
ドガシャッッ!!!
うっわぁ……、びっくりしたぁ。改造車集団の内1台が、体当たりしてきた! お互い不安定な場所を走っているというのに、なんて度胸だ。
「何なんですかぁ、あの車たちっ!」
少し目を回しながらも、私はみんなに訊ねる。
「奴らはハリリタという女盗賊が率いる、強盗団だ!」
「ほら、
えっ!? あの人相が悪くて指のないヤクザ者たちですか!?
ヤバい連中に囲まれちゃったんじゃないの、これ。今流行り(?)のあおり運転って行為でしょう。異世界怖ぇぇ。ほとんど日本と変わらねぇぇ。むしろ日本よりもハイスペックな迷惑行為だよ。
「ジバリ、応戦はできないのか!?」
「無理だ。数が多すぎる。第一、自分の武器は対怪獣専用だ。人間相手に使用は禁じられている」
「くそォ。刀じゃ届かないしな……」
「人間相手の抜刀も違法だ」
「ちょっと、アナタたちうるさいわよ! 奥歯噛み締めときなさい、これから緊急着陸するわ!」
車内はてんやわんや。みんな焦りまくっている。
もしかして、前に私が盗賊団から逃げきれたのって、運が良かっただけ?
もうダメだぁ、お終いだぁ。
車は墜落にも等しいやり方で着陸。
しかし当然、逃げ切ることなどできず――。あっさりと、盗賊団の車両に囲まれてしまった。
そのうち、最も派手にデコってある車のドアが開く。わっ、すごい。上の方に回転スライドするタイプの扉だ。初めて見た。
あれっ。中から誰かが出て来る。
「やいやいやい、狩猟団! 今日こそ石と坊やを渡してもらうよっ!!」
威勢の良い女の子だ。私と同い年くらいかな。でも外見は私とは正反対で、小麦色の肌に涼しげなショートヘア。健康そのものって感じ。陸上部かバレー部に入っていそうなルックスだ(偏見)。
「ハリリタちゃんも、毎度毎度懲りないわねぇ」
カーヌちゃんがため息を吐いている。ハリリタ? もしかしてあの子が、盗賊団の親分なの?
「礼儀がなっていないね。まずは車から降りたらどうだい?」
彼女はそう言って、銃をこちらに向ける。
いや怖ええよ。降りたら即ズドン! な奴じゃん。
「外に出たら撃たれると分かっていて、降りる奴がどこにいる?」
トランク内からジバリさんが反論。まったく、その通りだよ。
「……そうだな。これならいいか?」
えっ。そこで銃を下げちゃうの!? 素直過ぎない、盗賊団? 親分が下げたら、みんな一斉に銃をしまっているし! あなたたちどれだけイイコなの!?
盗賊たちが武装を解除したことを確認すると、狩猟団のみんなは、
「よっし! カーヌ、今すぐ車を出せ」
「アラホラサッサ!」
一切ためらうことなく、ジェット噴射をしながら車を再度浮上させました。
何と汚いやり方!
「環。こちらの世界の言葉を1つ、教えてやろう。『勝った者勝ち』だ」
「どこのジャイアンだよ!?」
と、いう訳で私達は戦線離脱。嵌められたことに気付いた盗賊団は、慌てて自分たちの車に乗り込んでいる。
「待て卑怯者! 我らハリー団から逃げられると思うな!」
「やれやれ。人気者は辛いな」
「別にお前を狙っている訳ではないだろう」
「悪いなジバリ。俺はあらゆることを、俺の都合の良いように考える」
「自覚はあるのか――――」
「待てって言ってるだろぉぉ!!」
後方で、ハリリタさん? が拡声器を持って叫んでいる。すごい、こっちは盗賊団から逃げているだけなのに、まるで警察に追われる逃亡犯みたい。
もちろん、待てと言われて車を止めるカーヌちゃんではない。
「全員、しっかり何かに掴まっていなさい。全速力で逃げるわよ!」
私たちの乗っている車が加速。盗賊団をあっという間に離してしまう。よしっ。これならすぐに街に着けるはず――。
「待たんかこらぁぁ!!」
うおお!? 執念深いね、あの子! 見てみると、ハリリタさんは自分でハンドルを握っている。すごいなぁ。私と歳そう変わらないのに。運転できるんだ。私も大学に入ったら、免許取ろうかな。帰れたらだけど。
「逃げるなら、石と坊やを置いていけぇぇぇぇぇ!!」
おおー。拡声器が音割れを起こしている。どんだけ叫んでるんだ。
アレ? でもどういうこと?
石っていうのは、怪獣探知機の役割を果たす『青い瞳』のことだよね。私があれを拾った時も、わざわざ異世界にまで来て奪おうとしていたし。
でも『坊や』って、誰のこと? この中でそれに該当しそうな人物は、ベクティナくんくらいだけど。
「ボクのことですよ」
「ありゃ。また声に出てた?」
「はい。あの女盗賊は、ボクのことも狙っているみたいなんです」
どうしてだろう。盗賊団に迎え入れるなら、ルーィさんやジバリさんの方が腕っ節も強いし、良さそうなのに。
「何でベクティナくんが?」
「たぶん連中は、ボクの持っている怪獣の記録が欲しいんだと思います」
「そりゃまたどうして?」
「情報って言うのはね、時として金品以上の価値を持つのよ」
ベクティナくんに代わり、運転中のカーヌちゃんが答えた。
「奴らがどこの町と――もしかしたら国と、通じているかは分からない。でもベクティナの持つ情報をどこかに売り込もうとしている可能性は高いわ」
「そんなことをしてどうするの?」
「盗賊団なんて稼業は危険が付き物だからね。バックが欲しいのよ」
そういうものなのかなぁ。むしろ犯罪者って、自分の存在が公になることを避けるんじゃないの? そんな偉い人に売り込むようなことするかなぁ。ここも私の世界と、価値観の違いかな。
うん。ごめんなさい。私には理解できないや。
でも……何か違和感がある。私の持っている倫理と違っていることは否定しない。むしろこの世界じゃ、私の方がズレている。
でもさでもさ。あの子が必死になっている理由は、違う気がするんだよね。何だろう、乙女の勘?
首を傾げていた、その時だった。
発砲音と、破裂音。
「あのバカ野郎共、撃ってきやがったぞ!」
いつもおおらか? なルーィさんが、珍しく動揺している。てか本気で焦っている。
「そりゃあ盗賊なんてやっている連中だ。法に縛られると思うな」
ジバリさんは落ち着いている。でもこちらも抵抗して攻撃する訳にはいかないから、どうにも動けない。
こういう時って、どうするのがいいんだろ?
バコン!!
何か、嫌な音が……。
バックミラーを見たら、煙が上がっていた。
「命中させやがったぁぁぁぁぁ!!」
「みんなぁ、落ちるわよぉぉぉぉぉ!!!」
「楽しそうに言わないでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
はい、そうです。最悪の事態が発生いたしました。
我々の愛車は、悲運にも墜落していったのです。
私たちを乗せて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます