4話 異世界進出! 原因は怪獣だった!

 目が覚めるとそこは、ベッドの上だった。きちんとシーツをかけてもらっている。私は一瞬、ここが異世界であることを忘れていた。まるで自分の部屋のような、それくらい違和感のない環境だ。


 部屋の中は静かになっていた。狩人である彼らは、どこかへ出かけたみたいだ。


 私は天井の電灯をぼんやりと眺める。

 ルーィ様とジバリ様。――――良かったなぁ……。

 私は自身が幸せになることより、推しキャラが幸せになってくれる方が嬉しいタイプの人間だ。だから私に関して揉めるよりも、2人が直接ぶつかってくれた方が良い。その方が熱いし尊い。


「まさかこんなところで理想カプを見つけるとはなぁ……」


 自覚しているけれど、私は独り言が多い。思ったことをすぐにポロっと言ってしまう。今回はそんな癖が、仇となった。


「目が覚めたか」


「うおおぉ!?」


 まさか人がいるとは思わなかった。しかも、ベッドのすぐ脇だ。そこに椅子を持ってきて、ジバリ様は腰かけていた。

 すげぇ。気配が全くしなかった。だって、その距離30センチくらいだよ? 普通気づくでしょ。これが灯台下暗しってヤツですか。


 そんなジバリ様は、椅子をずらして私の顔の方を向いてくれる。やっぱりイケメンだ。


「大丈夫か? 急に血を噴いて倒れた時は、どうしようかと思ったぞ」


「いえ、あれはあまりの尊さに当てられて……」


 多分言ってること分からないだろうなぁ。この世界って、BLとかの概念は存在するんだろうか? いや、そもそもあっちのオタクカルチャーが花開いているとは考え難い。こっちはこっちで、別の文化が市民権を得ているのかもしれないけど。


「うむ……。よく分からないが、健康そうでなによりだ」


 やっぱり伝わっていなかった。


「改めて言おう。すまなかった、ルーィのせいで君を巻き込んでしまった」


 深々と頭を下げるジバリ様。そんな彼の姿を見て、私は申し訳なくなる。


「顔を上げてください! 抵抗しなかった私も悪いんですから」


 うん。間違ってはいない。あまりにシチュエーションが素敵なものだから、私もちょっと調子に乗った。ぶっちゃけ楽しんでた。

 でもなんだか、それは伝えてはいけない気がする。彼が余計に気を揉んでしまうような、そんな気がした。まぁ、見ず知らずの男性に抱えられて異世界に連れ去られるのを楽しんでいる女なんて、どう考えてもやべーやつだからね。


 今はそれよりも、どうして私のいた町とこの世界が繋がってしまったのか、それを訊ねるべきかもしれない。


「あの。ここは一体どこなんですか? 私さっぱり分からなくて」


「ここは振興国家ビエルェン。その中心都市だ」


 パッと見、あまり日本と変わらないんだよね、この国。変わった人とか動物、乗り物は見たけれど、建物の感じとかはそっくり。このホテルの部屋もそう。だからあんまり、異世界に迷い込んだって気がしない。


「これを見てもらうと、分かりやすいかもしれないな」


 そう言ってジバリ様が取り出したのは、スマホに似た装置だ。て言うかスマホそのものだ。科学の発展の仕方が似ているのだろうか。


 彼は画面に地図を映し出した。確かに。見てみると、日本とは別の国であることが分かる。まず島国じゃない。大陸の、西に当たる方角にある、大きな国だ。ただ、国の領土が緑色で示されているのは理解できるけど、それ以外の場所はほとんど赤くなっている。いや、まばらに緑色はあるけれど、大陸の大部分が赤なの。


「人が暮らしているのは、この緑色で示されている場所。赤く塗られている場所は、怪獣無法地帯だ」


「怪獣無法地帯!?」


 そう言えば。ジバリ様は自分を怪獣ハンターと名乗っていた。やっぱり何か出るのだろうか。


「改めて説明すると、自分たちは怪獣を狩って暮らしている。依頼を受けて、危険な怪獣を駆除する、そんな仕事だ」


「ほえ~。やっぱりモンハ〇ですな」


「???」


 いかんいかん。また心の声が漏れていた。モ〇ハンなんて言っても分かる訳ないでしょ。


「近頃怪獣の出現、人への干渉が増えてきてな。狩人の需要が高まっている」


 なるほどなるほど。なんだか、現代ファンタジーみたいな世界なんだね。嫌いじゃないわ!

 そうだよね。色んな異世界があるよ。全部が全部、イメージするようなドラ〇エやファイ〇ーエ〇ブレムみたいな世界じゃないよね。


 それで、この世界(というか国)のことは分かったけれど、そもそも私はなぜにここに来られたの? それ以前に、何でルーィ様は私の町に来られたの?


「どうしてこの世界と、私のいた世界が繋がったんでしょうか?」


「そうだったな。先日我々は、ゾンムバル、という怪獣を追っていた。通称ワープ怪獣と呼ばれている」


「ワープ怪獣?」


「そうだ。奴は空間を歪ませ、異なる座標に瞬時に移動できる。その討伐の最中だった。ベクティナが持っている『青い瞳』という石が時空の歪みに吸い込まれてしまったんだ」


『青い瞳』。私が拾ったあの石のことだ。私は何も考えずに、いやウソ。ちょっとよこしまなことを考えながら、あれを拾った。そうだ、その直後だ! あの変な男たちに取り囲まれたのは! あの石のせいで、私は今こんな目に遭っているに違いない。


「その石を追って、盗賊団の連中とルーィは、時空の狭間に飛び込んで行った」


「時空の先が、私の町だった……?」


「察しが良いな。――ここまで語れば十分に察せられることか」


「そして私は、ルーィ様と一緒にその時空の歪みを通ったから、こっちの世界に来ることができた!」


 思わず指さし確認なんてしてしまった恥ずかしい。

 だがジバリ様は優しい。そっと頷いてくれた。


「だからもう1度、ゾンムバルの作り出した時空の狭間を潜れば、君は元居た世界に帰ることができるはずだ」


 なるほど。それじゃあ私は、その怪獣に会いに行けばいいんだね。


 ………………うん?


 それってもしかして、みなさまの怪獣退治に同行しなくちゃいけないってこと? 大丈夫、それ。私絶対足手纏いだよ?


「だが難しいことに、ゾンムバルはなかなか姿を現さない。この前もやっと見つけたところを、逃げられてしまったんだ。まぁ、ルーィが異空間に飲まれてしまい、それどころではなくなった、ということもあるがな」


「じゃあもしかして、私が帰れる可能性って、めちゃくちゃ低いですか?」


「……ああ。そもそも奴に遭遇できるかも怪しい」


 うっわぁ。やばい。もしかして私、残りの人生ずっとこっちで生きることになるかもしれない?


 どうしよう……。お母さん、心配するよね。お父さんも。仕事が終わって家に帰ってきたら、私がいなくなっていて。夜になってもどこにいるか分からなくて、そのまま行方知れずになって――。想像しただけで、怖い。ごめんなさい。そもそも私が変な気を起こしてあの石を拾ったのが悪いんだ。売ったらお金になるかも、なんて考えてしまったから、バチが当たったんだ。


 それに帰れなかったら、2度と直子なおこちゃんに会えない。謝れないよ。


 つぅ――と、涙が頬を伝った。

 ジバリ様はすぐにそれに気づいてくれて、私の頬を拭ってくれた。すごい。手が温かい。


「本当に申し訳ない。ルーィがこんなところに連れてきてしまって……。いや、あいつだけの責任ではないな。あの時自分が、きちんと『青い瞳』を掴んでいれば、そもそもあいつが君の世界にいくことはなかった。俺も責められるべきだ」


「そんな! それなら私だって……」


「君に悪いところなんて、1つもない。全て自分たちの落ち度だ」


 ジバリ様が、再び深々と頭を下げる。私は、今度は何も言うことができなかった。


 どうしよう。イケメンに囲まれることはもちろん嬉しい。理想のカップリングになる男性を見つけたのも嬉しい。

 ……こういうこと考えているからだめなのかな?


 でも、家に帰れないこと、家族に会えなくなることは、その嬉しさを上回る辛さを私にもたらす。


 ずっとここにいるなんて、それは寂し過ぎる。私は長女だけど、耐えられる気がしない。多分、簡単に挫ける。


「……1つ、提案がある」


 ジバリ様が顔を上げる。

 彼が言いたいことは、何となく想像できる。ていうか、ついさっき私もそれを考えた。


「自分たちの怪獣討伐に、同行して欲しい」


「やっぱり、そうですよねー」


「君もそれを考えていたか。ゾンムバルには、いつ、どこで遭遇できるか分からない。だから常に、自分たちと一緒にいて欲しいんだ。無理は承知だ。だが君が帰るためには、これが1番の方法だろう。安心してくれ、危険な目には合わせない。必ず自分たちが君を守る。約束しよう」


 そんなこと言われたら、承諾するしかないじゃない。

 私って、ホント単純バカ


「どうだ。決めるのは君だ。自分は君の意志を尊重する」


 私は息を1つ吸い、


「もちろん、付いて行きます!」


 はっきり意志を伝えた。


 その回答に、ジバリ様はふぅと息を吐く。


「次、怪獣が出現したら、その地へ赴く。覚悟しておけよ。えっと――――」


たまきです。浮島うきしま環」


「よろしくな、環」


「ア゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛――――――!!??」


「!!?? どうした突然!?」


 やっばい。思いっきり声に出ちゃったよ。絶頂したのがモロバレじゃん。やっちまったぜ。


 だってこんなイケメンにさらっと名前を呼ばれることなんて普段ないもの。何なら人生初体験だもの。そりゃ全身あちこちがビクビク痙攣を始めるよ!


「大丈夫です。このくらい平気です」


 全然平気じゃないけどね。


「やはりまだ本調子ではないのだろう。ゆっくり休め」


 乱れたシーツを直して、私の格好もきちんとしてくれるジバリ様。優しい。

 ルーィ様には普段どんな接し方をしているんだろう。さっきは言い争っていたけど、いつもあんな感じなのかな。でもああいう関係って、1度落ちちゃえば泥沼だよね。知ってる。和解イベント来ないかなぁ、できれば私がこっちにいる間に。


「眠れ。安心していい。こちらにいる間は、自分たちが君の家族だ」


「いや、そんな、いいです。ペットくらいの感覚でいてください。家族とか無理ですしんどい無理みがある」


「まぁ男ばかりで不安かもしれないな。大丈夫だ、君に危害を加えるような奴はいない」


 そう言う問題じゃないんですよ。ん? 間違ってはいないか。男だらけの生活に免疫がないのは事実だし。


 ヤバい。また緊張してきた。頭がぽーっとする。


 ジバリ様に頭を撫でられ、気付くと私は、また眠っていた。

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