おそらくは人類3番目の職業

人類の歴史上最古と言われる職業はおよそ3つか4つあって

売春、料理人、盗賊、そして金貸しと言われる。

それぞれ吟味してみよう。

ここでは、日がな一日その職業に関することをこなせば特に何も異変が無ければその時その時の平均的な寿命を全うできる仕事を「職業」とする。


売買春はおよそアルファリーダーがハーレムを形成するタイプの哺乳類には割と一般的とも言っていい行動で、アルファ雄だけでなくアルファ雌に対しても行われうる。

よって、人類成立以前の職業?と言ってもいい。


次に料理人、人類が火の使い方を覚えた後の職業である。

火には他の獣を寄せ付けないことと、加熱によって食味を増し、副次的に可食部が増えること、人によって火や食材の扱いの上手下手があったことから職業として成立したと思われる。最古の職業の一つとしても良いと思われる。

海水によって芋を洗う猿はそれのみで生計を立てることができないので、とりあえず今回の「職業」としては無視する。


それから盗賊。

ライオンがハイエナの狩りをした獲物を奪うことは良く知られている。

これもまた人類以前の職業?である。


最後に金貸し。

非常に知性的とされる霊長類のボノボや一部のペンギン、或いはチスイコウモリなどには「恩」の貸し借りがあるとされる。

しかし、現物を命の対価としてやりとりするまでであって、金が金を生む状態になって職業として成立するまでには至らない。

人類の持つ未来的な展望あっての職業と言えるだろう。

これもまた、最古の職業としてふさわしい。


では、人類3番目の職業とは何だろうか。



それは遥か太古より存在した。

法を決めるもの、統治機関。

古くは力あるものがそうだった。


一番勇気と知恵のあるものが一族の長となる。

一族の長と長が1対1で決闘して物事を決める。

負けた方は新たな長に従う。

王の占いの結果によって今年の動きは決まる。

王に拝謁する際の服装や仕草。

貴族同士のあれこれ、国と国との間の約束。


全ての源流はおそらくは人類3番目の職業だった。


そして今……。



3062年 昔、日本と呼ばれていた地域。


「はい、で、このような場合ARモードをオフにして太陽系の公転面に対して45°傾けるのがマナーとなりますね。」

「先生、ARをオフにするのは一般的にはマナー違反とされますが大丈夫なんでしょうか?」

「いい質問ですね。太陽系出身のお偉方にはお金でどうにでもなるようなアバターよりもむしろ現物の入手、維持の困難な義体を自慢するという文化があります。」

「なので、義体の善し悪しがわからなくともARをオフにするという慣習を知っていればそれだけでもアピール力が変わってきますよ!」


「はい、よくわかりました。ありがとうございます。」


「……そう、流石ですね。私が辺外とはいえ太陽系出身なのを見逃さず即座に実践できたのはお見事です。この調子で続けてください。」


おそらくは人類3番目の職業「マナー講師」

人類が人類である限り、ルールとマナーを定める限り、太古より存在し、そして遥かなる未来にも……。


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