名探偵くんくん君
僕の名前は名探偵くんくん君。
名前も過去も家族もない。そして、もう一つ人間として大事なものも。
あの日、警察学校の入学式に起こったテロ事件で多くの物を失った僕は手術を受けて奇跡的に回復。その時の嗅覚回復手術とその後の訓練で常人の数百倍相当の鼻を手に入れた。犬の嗅覚と表現してもいいくらいだ。
そのことを知った国の機関によって、警察庁所属という表の身分を与えられた。
おかげで、本来就職したかった地元県警からは煙たがられる存在となってしまった。
まあ、込み入った事情は置いといて、この嗅覚というのはとんでもない事件を嗅ぎ当てることもある。この前の案件のように。
某日、大物演歌歌手が自宅で死亡した。
自筆遺書に本名でサインしており、訂正印は押してあるものの、特に不審な点はなかった。また、関係者やマネージャーとの関係は良好で特筆するほどの悪癖もなかったため、自殺として処理されそうだった。
しかし、遺書のサインに違和感を持ったこの歌手の初期からのファンであるお偉いさんが僕をねじこんだ。とそんな感じだ。
写真を見ただけではわからなかったが、サインが初期の頃の物に戻っているのを不審に感じるのだそうだ。
現場に急行して聞いてみたところ、マネージャーと本人の使用しているボールペンが同じものということがわかった。
さらに件の遺書を聞いてみる。
確かにこれはおかしい。
書かれた順序がおかしいのだ。
一番右下にある本名のサインが最初に書かれている。
それ以外の文章は左上から右下に流れているのにである。
インクの揮発具合から考えて、十数分からせいぜい一時間くらいの後先の話ではあるが、こすれて汚れることを気にするなら名前のサインが完全に乾いてから文章を書くんじゃないだろうか。
つまり、白紙にサインが書かれた後で文章が書かれたことになる。
これは写真を見てもわからない発見だった。
もし、本格的な科学捜査に回したらそれまでに乾いてしまってわからなかったんじゃないだろうか。
マネージャーと初期の自筆文書をもう一度洗ってください。
と、お願いをした。県警に対してはお願いしかできない微妙な立場なのである。
数日後、やはりというか売れてからの自筆文書は全てマネージャーが書いていたことが発覚した。今回の遺書で言えば、文章部分は全てということだ。
売れてから忙しくなったのと、歌手本人が自分の字にコンプレックスを持っていたことが大きな理由らしい。
犯行の動機に対してマネージャーは
「疲れていた。」
とだけコメントをした。
終
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