リンゴは冷やして美味しく

最終戦争とのちに呼ばれることになる戦争のあとのことである。

人類はついに古代文明の遺物を発見した。

住処にしていた洞窟の奥深くに偶然高度な文明の痕跡が発見されたのだ。


「コレ、押す。肉、出る。」

「肉。冷たい。気をつけろ。」


なんともありがたいことに「肉の棺」と長老が名付けた装置に格納されている肉は現在の人口から考えれば無尽蔵ともいえるほどだった。

しかし、聡明な長老は肉の奪い合いで大きな争いとなることを予見し、緊急時と過ぎ越しの祭りの他に「肉の棺」を開けることを禁止した。


大方針を定めた長老の慧眼か、2度ほどの大飢饉の他には大きな問題もなく、順調に人口は増え、「肉の棺」は減っていった。


別の部族との大きな争いの時である。

ある若者がふと思いついた。

空の「肉の棺」を分解して武器に使えば強い武器を作れることに気が付いた。

その若者は神の怒りに触れて死んでしまったが、遺された人々は目的を果たした。

無事、戦いに勝った方の部族は、負けた方の洞窟の奥で手付かずのままになっていた「肉の棺」を発見し、接収した。


こういったことが世界全体で同時期に起こり、人類の「肉の棺」と古代文明の痕跡を奪い合う歴史の大きな流れが始まった。


町が街となり、拠点を築き、都市を築き上げた。

ますます人口は増え、一方で正常に動作する「肉の棺」は減っていった。


どれだけ文明が発展しても原始の本能が「肉の棺」を求めることを止められなかった。代替品があっても、やはり「本物」が必要だった。

人口は増え、戦いは大規模になり、未発見の「肉の棺」は減っていった。


そうして、現在発見されている中で最後の「肉の棺」が消費された後で世界大戦が起こるべくして起こった。再生不可能な資源である「肉の棺」の大集積地と予想される土地を巡ってのことだった。

人類は、最終戦争という前例を知り、古代文明を理解するに至っても、否、古代文明を理解したからこそ戦いを止められなかった。


世界大戦が終結し、人類が導き出した古代文明を解読した結果、以下のようなことがわかった。



“結論から言えば冷凍睡眠装置は完全に作動して、かつて100億ほどもいた人間はついに次世代へと命をつなげたのである。”



その人間たちがホモ・サピエンス・サピエンスかどうかは些細な問題だろう。

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