第13話
翌日からは夏休み前と同じように、雨の日はバスで一緒に登校して、晴れの日は学習ラウンジで集合して一緒に勉強をするようになった。
それまでと変わらないはずなのに少しだけ何かが違っていた。
テキストを真剣に見ているセンパイの横顔を見ると、胸の奥のやけどがチリチリと痛む。バスで隣に座ると以前よりも少しだけ緊張した。
センパイと目が合う回数が増えたのに、目を逸らしてしまうことが多くなった。
センパイと一緒に過ごす時間は楽しい。それは以前と変わらない。それなのに少しだけ何かが違ってしまっていた。その答えが見つからなくてもどかしい。
「あの、センパイ」
私は勉強を早めに切り上げてセンパイに声を掛けた。
「もうすぐ文化祭ですよね」
「うん、そうだね」
「センパイのクラスは何をやるんですか?」
「三年はクラス発表がないんだよ」
「そうなんですか?」
三年は受験で忙しいからだろうか。私なら高校最後の文化祭になるのだから、張り切って参加したいと思ってしまう。けれど三年になるとそんなことも言ってはいられないのかもしれない。
「紫蒼さんのクラスは?」
「ウチのクラスは迷路です」
「迷路?」
「教室の中に段ボールで迷路を作るんです」
「へー、面白そうだね」
「三年は文化祭にも参加しないんですか?」
「参加は自由だよ」
「センパイはどうするんですか?」
私は思い切って核心に向けて話を進める。
「まだ決めてないけど……その日は学校を休もうかなって」
「そうですか。やっぱり勉強が忙しいですよね」
こうして話し掛けてセンパイの勉強の邪魔をしてしまったことに罪悪感を覚える。
「日本の大学みたいなテストがあるわけじゃないから、勉強は別に大丈夫なんだけど……」
「それならどうして休むんですか?」
「うーん、ちょっと雰囲気が苦手というか……」
センパイは口ごもる。これは本当に嫌な感じだろうか。それとももう少し押せば大丈夫だろうか。でも、せっかく口に出したのだからと用意してきた言葉を伝える。
「文化祭、ちょっとでもいいので一緒に回りませんか?」
「え? 私と?」
「はい。ダメですか?」
センパイは口もとに手を当てて考えはじめた。それほど深く考えなければいけないことでもないような気がする。だけどセンパイは、メッセのときもかなり悩んでいた。何かセンパイにとって悩むべき苦手なことがあるのだろう。
「お返事、また今度でいい?」
「あ、はい」
まさか返事を後日に保留されるとは思わなかったけれど、即座に断られなかったのなら少しは期待できるかもしれない。
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