#15:考慮する
もやもや感が、僕の頭の中に巣くっている。パソコンを借りたのは、本当に調べものをするためであって。だってまだ左手しかまともに動かせないんですよ? との弁明をしようと考えるものの、いや左手動けば充分じゃないの? との返しに対して、僕は何も言葉を持てないわけで。
「……」
9月23日、シンヤの来訪とその他諸々により、著しく心を乱されてしまった僕だが、「作戦」のため、行動を起こすことを恐れていてはいけない。
パソコンと共に貸してもらったキャスター付きの小机を、車椅子に乗った状態で向かうことの出来る、負担の少ない高さに調節してもらう。これで準備は整った。僕は車椅子とそのパソコンの乗った机を操って、さくらさんからの視角に画面が入るところまで体の向きを調整してから電源を立ち上げる。電源やらLANやらのケーブル類は、結構長さに余裕のあるやつを貸してもらっていたので、ある程度は場所の自由は利く。僕は殊更に自分はいかがわしいことはしてないと、潔白を証明しつつ画面に向かうのであった。
「……」
シンヤの「警告」……それに関してはこの際、無視することに決めた。実際に会ってみって分かったからだ。さくらさんが僕を騙そうとしているなんて、絶対にありえない。例え何かしらの情報を僕に伏せているのだとしても、それは僕の現況を鑑みてのことのはずだ。シンヤが僕をさくらさんから遠ざけようとしているのは、やはり、彼女のことを狙っているからなのだろう。いい年して、幼稚なやり方だとは思う。しかし、奴のことを……僕は以前から、いや、以前は知っていたのだろうか。その時のこの三人の関係性は?待て待て、そこまで突っ走ることはないか、考えすぎだ。そして今考えるべきことでも無い。
「……」
差し当たっては、僕の切り札「自動書記予言」が、どれほどまで有用なのか、どれほどまでの強力な武器になるのか、を見極めなければいけない。さくらさんにも、シンヤにも伏せているこの「ジョーカー」……本当の予言なのか、はたまた僕の脳の異常が引き起こした単なるバグなのか。
<予言1>
<9が つ22にち はじめてさ くらさ んとあうぼ くにとっ てのはつ デート かなりき んちょうしたさく らさんはむ らかみは るきがすき だそう でぼくとおな じだう れしかった>
<予言2>
<9がつ30に ち さくらさん とえいがを みにいっ たさくらさ んはいんでぃじょ -んずがすきだそ うでぼくはそれほどだっ たけどすご くたのしめたそ れよりもふ たりででかけられ たことがう れしかった>
「予言1」については、既に現実のものとなっている。それだけを考えると予言の本物感は増すはずなんだろうけど、これにはバイアスがかかっている。つまり、「僕は予言1について事前に知っていた、それに沿って行動した結果、予言1のとおりに事が運んだ」ということだ。9月22日、僕はさくらさんと事前に会話をし、中庭で会う事を強く提案した。これは予言があったからだ。予言を試す意味合いもあった。ただ、予言に沿おうとしたら、その通りにうまく事が運んだことも事実だ。
「……」
このことから何が導かれるのだろう。予言とはいったい何なのか、まだよく分からないところがある。例えば予言をまったく無視したらどうなるんだろう。うーん、それはちょっと試してみたい衝動に駆られるけど、予言を知ってしまった今、それをあえて行動に移すのはちょっと怖い気持ちがある。せめて「予言2」はきちんと遂行した上で、その結果をもって考えたい事柄だ。じゃあ、予言2への対策はどうする? 「インディジョーンズの映画をさくらさんと二人で出掛けて観に行って、僕はそれを楽しんだ」ということをどう実行すればいい?
「……」
そのためのこのパソコンだ。今は何も妙案は頭に無いけど、調べていくことで何か出てくる可能性はある。いや、何か出そうな予感が既に僕にはしていた。この予言の、現実を引き寄せる力……それに僕は期待しているだけなのかも知れなかったし、それに縋り付きたいだけなのかも知れなかったけど。
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