いい日、旅立ち
カント
本編
「死ぬなら此処と決めているのです」
二つ隣に座る老人に不意に告げられ、僕は困惑した。
誰でもそうなる筈だ。一人旅の最中、乗り継ぎの駅の待合室で、見知らぬ老人からそんな話を受ければ。
「ほら、此処からだと、通学路が真っすぐ見えるでしょう。晴れの日は、道の先に綺麗に空が広がってね」
「はぁ……でも、なら今日は死んじゃ駄目ですね。曇ってますから」
「そうですな」
最低限の僕の愛想に、老人は笑った。
「『出る』そうですよ、あの駅」
フロントの従業員が、ルームキーを取り出して言った。
「お爺さんの霊でね。悪さはしないそうですが」
「……その日は、晴れてたんですかね」
怪訝な顔をする従業員に、僕は「何でも無いです」と笑った。
いい日、旅立ち カント @drawingwriting
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