第3話 君と過ごす終末。

 ~前書き~

 まずはじめに、ここまで読み進めて頂いた画面の前のあなたに感謝を! 本当にありがとうございます!


 ここからが本題です。今回から日記形式ではなくなります。また伏線の数も今までと比べますと大変少なくなっております。あらかじめご了承ください。


 それでは第3話、お楽しみください! ───────────────────


「魔法って本当にあると思うかい?」


「……急にそんなことを聞くなんて……道端に落ちてるモミジでも食べた?」


「いや、なんでモミジなのさ……他にもっとこう……クローバーとかムカデとかあるだろ……」


「だってモミジって人間が食べるものじゃないくらい激マズでしょ? あまりの不味さに頭が委員長化したのかなと思って」


「いや、どういうことだよ!」


 一般的(?)なカップルの日常会話が繰り広げられる中、とある薄幸な青年がすごくつよい地雷(クレイモア)を踏みぬいた! 


「ところでなんだけどさ……陽の教会って知っ」


 尋常でない速度で女が青年の背後をとる。 


「……どこでそれを知ったの? 10秒以内に答えて。愉目(ゆめ)君。まだ殺したくないはないわ」


 ……青年の明日はどっちだ! 

 ────────────────────


 どうしてこんなことになってしまったのだろうか?

 首筋に当てられた”氷の刃”から滴る赤い筋をぼーっと見つめながらそんなことを考える。


「10……9……」


 (なるほど……魔法は本当にあったんだな……。質問に動揺していたのは自分自身が魔法使いであることを勘付かれたと勘違いしたためか……。いや、自称”魔法少女”だったっけ?)


「8……7……」


 (てか不味くね? 普通に命の危機なんですけど? 馬鹿正直に言って本当に信じてもらえるか?) 


「6……5……」


 (「世界が滅亡するのを2回夢の中で体験した」なんて言って信じてもらえるのか?)


「4……3…」


「待って! 待ってくれ! 夢の中で見たんだ! 信じてくれ!」


「……詳しく聞かせて」


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 「あなただけでも……生きていてくれて……良かった……」


 それは、愛する人に先立たれ、世界の理不尽を嘆く青年の記憶。


 「どうして……教えてくれなかったんだよッ……」


 それは、何も変わらなかった”2回目”の世界で、愛する人が遺した日記を見つける青年の記録。


 ”空は画用紙を貼り付けたかのように澄み渡り、

 海は美しい白と青のコントラストを奏でる。”


 これは残酷なまでに美しく、


 ”木々は新しい緑に燃え、

 太陽は今日も神秘的な半円を描く。”


 そして悲劇的なまでに”愉快”な話。


 ────────────────────


「じゃあなに……『自分は滅亡した世界を2回やり直してきました』って言いたいわけ?」


 はたから聞いたら「妄想乙」と言われても仕方が無い、イタイ中二病患者も真っ青な話を聞いて、鬼気迫る面持ちで質問を切り返してくるのは、私の彼女「深観 想理(しんがん そうり)」その人である。


 ……こんな話をすぐに信じるとは……今すぐ精神科に叩き込んだほうがいいんじゃないか?(特大ブーメラン)


「いや、そうじゃないんだよ想理」


「じゃあどうなのよ。重見(えみ)君」


 アッ。ご紹介が遅れました本作主人公の”愉目 重見(ゆめ えみ)”です。よろしくお願いします。ってそうじゃなくて。


「正確には夢の中で”体験”したっていうのが正しいと思う。……たぶん」


「たぶんって言われても……ねぇ……」


 考える人、立ちver.みたいな恰好で思索にふける彼女。ちなみに首筋に突き付けられた刃は水蒸気になって消えました。傷もあっという間に消えました。テ〇ファールかな?


「でも、なんでこんな荒唐無稽な話をすぐ信じたんだい?」


「なんでって、あなたが知りえない魔法の事とか、私たち陽の教会のことを知っていたりするからよ。更に言うと見る人が見れば人が嘘をついているかいないかなんてすぐに分かるの。汗腺とか呼吸、心拍数といった生理的な部分まで完全に操れたらそれは人間じゃないもの。それにね、」


「それに?」


「”重夢見(かさねゆめみ)”っていう伝説上の能力があるの」


「”かさねゆめみ”ぃ??」


「そう重夢見。これは自分が望まない結末を”夢”として処理することで世界をやり直すことができるっていう能力なのよね。ところで、エイプリルフールの伝統が出来た経緯は知ってる?」


「知ってる」


「そんなことまで知っているのね……。でもそうしたら話は早いわ。大昔、夜の教団の野望を打ち砕いたのも愉目家の先祖、ファニーアイズ(Funny eyes)家の”重夢見”持ちの人間だと伝えられているの。本来の愉目家、正統後継者であるあなたがその能力を持っていたとしてもおかしくはないわ」


「もしかしなくとも、今の俺ってけっこうヤバめな状況?」


「かなりヤバいわね。でも安心して。教会に報告する気は今の所ないわ」


「なんで?」


「なんでって……私は世の為、人の為と言っても恋人をホルマリン漬けにするつもりはないわ。それとも、実験動物として一生を終えたいの?」


「(終えたく)ないです」


「それはそうとして……想理って俺と付き合うまで友達すらいなかったんだな……。あと、”~祝☆不思議系喪女ついに告白される~”とか流石にイタイと思うぞ……」(詳しくは2話冒頭)


 おぞましいほどの殺気とともに再度刃が放たれる!


「なにか言ったかしら?(暗黒微笑)」


「(言って)ないです」


 もう彼女に対してボッチいじりはやめよう。そう思った瞬間である。


 ────────────────────


 ボッチいじり事件~ドキッ☆刃だらけの週末~から数週間後、夢で見た通りの世界滅亡の予言を軽く聞き流し、我々アルファチーム(勝手に命名。というか2人だけ。犬に追いかけられて古びた洋館を発見しそうである。)は独自に調査を続けていた。


 陽の教会は全世界に股をかけるほど大きな組織だったため想理1人が「この騒動の元凶は愉目家本邸の火事によって解き放たれた神性の一柱だ!」と言っても中々聞き入れてくれず、歯がゆい思いをした。


 しかし、今年の4月1日に影響が出始めた事を知っていた我々はその知識をもとに丹念な証拠探しを続け、”前回”よりも3か月も早く邪悪な神性の存在を教会に認めさせることができた。


 今回の一件を経て想理が対策委員会のようなものの委員長になったことや、親しい人からの”言葉”によって邪悪な力にある程度対抗することが出来るという我々の情報提供によって自殺者を大幅に減らすことに成功した。しかし、


「いったいぜんたい神性の本体はどこにあるの? その正体は? その本当の権能は?」


 そう、肝心の神性本体についての情報が何一つないのだ。想理曰く、本体を見つけない事には神性の破壊や封印といった最終的な解決の糸口が見つからず、このままだとじり貧になってしまうらしい。


「せめて……参考資料の1つや2つでもあればいいんだけど……」


 今回の騒動にはもう1つ2つ3つ困ったことがある。その正体、権能、信仰、由来など一切不明なことだ。幸いにも言葉が良く効くということは分かっているが、具体的になぜ効くのか、他にどのような対抗策があるのかといったことは分かっていない。


 これは通常マウスに行う実験を最初から人体実験しているようなものだ。


 さらにいうとこの騒動が”時限式”であるということも事態の深刻さに拍車をかけている。”1回目”と”2回目”の世界においても言葉を用いた対処法がとられていたが、時間が経つにつれて心が侵食されていき、最終的には想理や私でさえ狂気に身を落とすことになった。


 そう、事態は好転しつつあるように見えて何1つ根本的なことは解決していないのである。


「重見君。なにか思いつくようなことはない?」


 しかし 愉目に 電流走る――!


「実家」


「ん?」


「俺の実家だよ!」


 そう、調べていないかつ、一番情報がありそうなところがまだ残っているではないか!


 両親が火事で亡くなり、身寄りのない自分を引き取ってくれた叔父と叔母から

「絶対に行ってはいけないよ」と念には念を押され、思えば今まで1回も行った事が無かった私の実家。せめて場所だけでも……と思い探りを入れてみたが全く情報は手に入らなかった。


「あぁ愉目家本邸ね。でもあそこはもう何もないと思うわよ。魔法的、科学的どち


らで調べてみてもオールフラット。神秘の”し”の字すらなかったわ」


「もしかしたら……俺が行くことで何かが起こるかも……?なんて……」


「あなた、ただ行ってみたいだけでしょ」


 ジト目の彼女に図星を突かれ、情けない顔をさらしてしまう。


「まぁ……でも行ってみましょうか」


「ゑ!? なんで!?」


「あなた、最近ずっと暗い顔してたじゃない。きっと『また今回も”前回”とおなじようになってしまうかも』とか考えてたんでしょ?」


 またまた図星を突かれる。なさけねぇ男だ。


「『なんでわかったの?』って顔ね。当たり前じゃない。何年あなたの彼女やってると思ってるのよ」


「1年半です」


「うっさいわね。と も か く!ずっと暗い顔してた人が子犬みたいに顔を輝かせて『自分の家行きたい!』なんて言ってるんだから、一緒に行ってあげるわ。ちょうどあの辺りは観光地なはずだから”観光デート”とでも洒落込みましょ」


「メインディッシュは放火事件現場だけどな」


「あらあら……素敵な冗談を言うことも出来るのね……(暗黒微笑)」


 彼女の”スゴク クラーイ ビショーウ!”一瞬で男の周囲の大気ごとSAN値を氷結させる。男は死ぬ。


「申し訳ございませんでした。ですのでその右手に握られた刃をお納めください」


 不思議ちゃん設定はどこに行ってしまったのだろうか? これでは暴力系ヒロインではないか! 


 ────────────────────


 SAN値直葬事件(コイツいっつも事件に遭ってんな)から3日後。私たちは私の実家に来ていた。なぜ来るのに3日もかかったかというと、愉目家本邸にかかっている隠蔽や人払いの魔法、魔法的な警備の対策に時間が掛ったためだ。


 教会所属の想理はともかく、一般人ということになっている私は、一般人が入れないようになっている本邸に入るための抜け道を用意してもらう必要があったのだ。


「まったく……今はもうただの火災現場なんだからこんな厳重な警備をする必要なんてないのに……おかげでこっちはもうヘトヘトよ」


「本当にお疲れ。ほら、この後夢の国、ネ〇ミーランドに一緒に行くって約束しただろう? 元気出せって」


 私の為に頑張ってくれた想理にねぎらいの言葉をかける。


 不思議な色をした魔法のゲートを通るとそこは、


「ここが……俺の実家……」


 大部分が崩れている灰色のレンガで組まれた中世の砦のような建物。てっぺんには旗が立っていたのかな、と思わせる天に伸びた4つの尖塔。


 かつては立派な庭だったのだろう。涸れた噴水や、もともとはバラのアーチが形造られていたと思われる手入れされていないイバラが伸びっぱなしで放置されていた。


「おかしいな……5歳までここで生まれ育ったはずなんだが……何一つ……覚えてない」


「……ご両親を亡くしてから教会はあなたが生まれてから当時までの家族に関する記憶を消す事を決定したの。覚えていなくても無理はないわ。気に病む必要なんてないのよ」


 物悲しい顔をしている私を気遣ってくれているのか、彼女は優しい言葉を掛けてくれた。


「ありがとう」


 ────────────────────


 手がかりを探し始めてから早2時間。肝心の捜査はというと……


「疲れた。もうネズ〇ーランド行かない?」


「えぇ……(困惑)」


 上が想理、下が私である。(どんだけネズミーランド行きたいんだよ)「いざ、探すぞ!」と気合を入れてきた私だったが、崩れた足場などに体力をとられ、すでにヘトヘトだった。


「もうなにもないのよ……教会がさんざん探しつくした場所なのよ? ミクロのスケールでまで調べつくした所で証拠が見つかったら世紀の大事件よ」


 もう帰るか。そう思った矢先だった。


「ん? 待てよ?」


 崩れたレンガの中に一筋の光が見えたような気がした。


「どうしたっていうのよ!」


 大慌てで光源に駆け寄り、そのあたりの瓦礫をどかし始める。


「これは……! 愉目家の家紋!?」


 瓦礫を退けた先にあったのは、ナイフが刺さった目が印象的な文様だった。

 自分の手がまるで自分の物じゃないかのように文様に吸い寄せられていく。


「ダメ! 触らないで!」


 彼女の忠告も空しく指先が文様に触れる。

 とたんに触れた場所から下に続く階段が形成され始める。


「なんで触ったの!? もしかしたら命を落としていたかもしれないのよ!?」


「いや……ちがっ……手が勝手に……」


 彼女を見ると、透明な筋が奇麗な赤みのさした頬を伝っては落ち、伝っては落ちた。


「……今回は許すけど、良く分からない魔法ほど危険な物は無いの! 今度から絶対に、ぜぇったいに迂闊に触っちゃダメなんだからね!! 目の前で関わりのある人を亡くすほど悲しいことなんて無いんだから! あなたも”前回”と”前々回”とやらで経験したことあるでしょ?」


 そういえば……想理は2週間前に一緒に仕事をしていた仲間が亡くなったと言っていた。「お仕事柄こんなことは日常的にあるの。そこまで気にする必要はないわ」なんて言って気丈に振舞っていたが、それは見た目だけだったようだ。


 魔法が使えるといってもその本質は普通の女の子と変わらない。改めてそう感じさせられた。


「いつまでもシクシクしていちゃダメよね……ほら探しに行きましょ? 世界を救うための鍵を、私たちの2周年記念日を光に満ちたものにするための太陽を」


「あぁ」


 そうして私たちは階段を下り始めた。


 ────────────────────


 階段を下りた先は、小さな部屋だった。その時……ふと視線を感じたような気がした。


「だれかいるのか!?」


「どうしたの重見君。私たち以外にこの部屋に誰もいないわよ?」


「なんか視線を感じたんだけどなぁ」


 視線なんて感じなかった。そう思うことにした。


 小さな部屋に置かれた小さな机、その上には一冊の物々しい雰囲気をまとった本が。


「待って。私が先に確認するわ……暗号化されてるわね……ここでは解読作業が出来ないから一度家に戻りましょう」


 ────────────────────


 部屋には本と机以外何もなかった。念のため机と本にも私自ら触れてみたが何も起こらなかった。


 入ってきたときと同じように、厳重な警備の魔法群に抜け道を開けてもらい、外へ出ると


 1本の弓矢が想理に突き刺さった。


「へ?」


 膝から崩れ落ちる彼女。気づくと辺りにはずたぶくろのようなものを被った黒ずくめの集団が。


「あなたたちは……っ! 夜の教団!」


 苦し気な彼女を手際よく縛り上げる黒ずくめ達。何を言うことも、することもできず茫然と立ち尽くす私の目の前に一人の黒ずくめが降り立つと、おもむろにずたぶくろを脱ぎ去った。


「夜の教団長、アグネス・ファニーアイズ。愉目君。”重夢見”正統後継者である君に話がある」







 ────────────────────

 ~後書き~

 夜の教団はアップを始めていたようです。


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