第2話 あなたと過ごす週末。
~前書き~
1話を読んで頂き本当にありがとうございます!
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2019年 4月1日 天気:晴
~祝☆不思議系喪女ついに告白される~
なにが起きたかというとサブタイの通りである。「顔はいいんだけどね……」とか「浮世離れしてる人はちょっと……」とか「ねぇねぇママ。なんであの人変な可愛いドレス着てるの?」「ああいう人に関わっちゃいけませんよ」とか言われてきたけど友達をすっ飛ばして彼氏が先にできました。
彼の苗字は「愉目(ゆめ)」というらしい。よりにもよってエイプリルフールの午前中に告白してきたから「お前も英国式なのか!? メシマズの民はちょっと……」とか思ったけれど、あの心拍数と尋常じゃない冷や汗を見て「コイツはモノホンだな」って確信したね!
ん? なんで心拍数が分かったのかって? よくぞ聞いてくれました! (聞いてない)
実は私、魔法少女なんです。(突然の告白)特に深層心理専攻の私にかかればちょちょいのちょいってもんよ。
今まで顔面偏差値及び普通の偏差値オーバー70、お嬢様属性持ちの私に友達すらできなかったのは魔法を扱う人々が持つ超然とした空気感に一般ピーポー(死語)が耐え切れなかったがためなのだ。
しかも魔法行使の補助になるゴスロリ風のドレスも相まって余計に敬遠されてしまったのだ。コノミジャナイヨ。ホントダヨ。
しかしなぜ彼は私に潜在的な恐怖感を抱かなかったのだろうか? それに「愉目」という苗字にも聞き覚えがある。少し調べる必要がありそうだ。それにしても愉目君カッコいい。好き。……(以下延々と彼に対する記述が続く)
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2019年 4月20日 天気:曇り
乙女の秘密の情報網を漁った結果、私の彼氏が魔法の始祖といわれる家系の息子だということが分かった。「愉目」という苗字に聞き覚えがあったのにも頷ける。魔法の事について探りを入れたけど、何にも知らないようだった。
無理もないだろう。彼は五歳の時に「夜の教団」とかいう私達「陽の教会」と敵対関係にあるカルトの襲撃を受けて両親を亡くしていたのだ。
通常魔法の伝授は10歳から行われる。深層心理を操り超常的現象を起こす「夢」の魔法行使に幼い精神が耐えられない為だ。当時の教会幹部は自らの家系について何も知らない彼を一般人として扱うことにしたらしい。
少人数ながらも強大な力を持つ愉目家を没落させたかっただけにも思えるが……。
カバーストーリーとして”大規模な火事”が用意されたあの襲撃。邪悪な神性や悪魔といった存在の「管理庫」と言われた場所の崩壊。それによって解き放たれた者共が吹き荒れる場所から生き残った彼が私程度に恐怖感を抱かなかったのは当然だろう。
……違う違うそうじゃない。こんな悲しい事を書く予定ではなかったのだ! そう! 今日は諸々予定が合わなくて今まで行けなかった記念すべき初デートの日! ものすごくたのしかった! (小学生並みの感想)……のだが、「お前の恰好まじやべぇよやべぇよ(意訳)」と言われてしまい好みの真反対を行く服を買われてしまった! 私の好みじゃないけど彼が買ってくれたものだし……。……(以下服に対する葛藤が続く)
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2019年 8月15日 天気:晴
今日は終戦記念日。そんな中行われた初のおうちデート! 「一緒に映画見よう! 」と彼が持ってきた映画は、かの有名なラブロマンス……
ではないけど名作の「黒い雨」だった。確かに終戦記念日だったけども……。普通「彼女と一緒に見るかぁ」なんて思わないだろ!! まあ一緒にいられるだけでも楽しいし、思いのほか面白かったから良かったのだけれども! 彼も私に負けず劣らず変人らしい。
今度一緒に映画見る時は恋愛系が良いな……。
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2020年 4月1日 天気:晴
彼と付き合い始めて今日は一周年記念日! と元気に言いたいところだけれども、出かける前に耳に入ってきた報道が頭に染みついて離れない。
「新たな4の月を迎える時、闇に包まれるべき穢れた醜い青に染まった天蓋は陽に包まれ、古き世界は淘汰されるでろう! 現在我々人類は滅亡の刻にいる! 与えられえた日常に疑問を抱くのだ! 真実を、そして正義を体現するのだ! 」
夜の教団が掲げる野望の内容に酷似している。上に掛け合ってみても辺鄙な日本の事だと一蹴されてしまった。「世界は闇に覆われるべきである」そんなバカげたことを抜かす集団だが「夢」に関する技術が一般人から秘匿される直接の原因を作ったやばい奴らに対する危機感が欠如しすぎではないだろうか?
「4月1日には嘘をついてもいい」社会に浸透しているエイプリルフールの伝統だがその明確な起源はいまだ明らかになっていない。それはなぜか? ヤツらが「夢」の力が最大になる4月1日に世界を闇で覆ってしまう程の邪悪な神性を生み出してしまったからだ。
愉目家の先祖はもともと「夢」の魔法を用いて人々を楽しませるサーカス団のような事をしていたが、この一件を重く見て夜の教団の討伐および今後このような事件が起こらないようにと一般人から魔法に関する記憶を消した。その後、愉目家は”夜を照らす組織”として陽の教会を設立。そして現在に至る。
しかし、記憶は消えても4月1日に起こった数々の不思議な事象の記録は残ってしまう。
結果的に4月1日の不思議な記録を見た人々は「これは嘘の記録だ。違いない」と断定。→「この日は慣習的に嘘をつく日なのか」と勘違い。→「4月1日は嘘をついても良い」という流れが出来上がった。これがエイプリルフールの真実である。
……なぜ私は急にこんな説明口調になっているのだろうか? まあいいや。消すのめんどくさいし。
幸いにも彼には動揺を気付かれてはいない。彼は何かと不幸に直面する事が多い。護身用に何か用意しておいた方がいいかもしれない。
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2020年 6月3日 天気:曇り
定期的に何かしらの事件を起こしていた夜の教団が不気味なほどに沈黙している。それどころか教団の関係者が次々と自殺し始めたではないか!
「間違えるな。」という謎のメッセージと共にご丁寧にも隠れ家の位置も自ら発信して命を散らしていく狂信者ども。何か危険な物が残されているかもしれないため教会の者が逐一、現場に向かっているが何か目立った奇妙なところは無く、メッセージに関しての手がかりもない。
悲惨な事件が起こらない事はいつも後手後手に回るしかない私達にとって喜ばしい事ではあるが、これから何か大変なことが起こるような気がしてならない。最近は働き詰めで疲れた。今日はもう寝よう。
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2020年 12月20日 天気:曇り時々雨
やってしまった。増え続ける自殺者。夜の教団は事実上壊滅したもののついに教会内で自殺者が出てしまった。このような状況に追われ疲れ切った私は彼についぽろっと最近の悩みを打ち明けてしまった。
彼が超常的存在について知っていなくてよかった。邪悪な神性がどうちゃらこうちゃら言っても彼は私の頭がおかしくなったと思っただけのようだ。超常的存在はその存在を知っている者に特に大きな影響を及ぼす。
ある程度の耐性があるといっても一般人の彼は真性の邪悪な神性に侵されてしまえば対抗する術はないだろう。
危うく私のミスで大切な彼を失う所だった。これから先は一つの過ちが即命に関わってくる。まずは私を精神科に診させようとしている彼を説得しよう……。
そういえば今回の騒動についての原因が分かった。
我々はその存在を便宜上”4月1日の悪魔”と称することにした。「保管庫」つまり愉目君の実家が崩壊したときに解き放たれた未収容の超常的存在の内の一柱。
細かな調べによりその神性による影響が初めて発現したのが今年の4月1日だと判明したためこのような名前が付けられた。そう、あのテレビで報道された謎の終末論を語る男だ。やはり私の予感は正しかった。
肝心のその存在の能力だが、”暗闇を増幅させる”という事しかわかっていない。夜の教団にとってはおあつらえ向きな存在である。恐らくここ最近出ている自殺者は心の内の自殺願望という”暗闇”が増幅されてしまった結果自ら命を絶ったのだろう。感染経路、感染方法はともに不明。
だが劇的に効くわけでもないが、明確な対抗策が発見された。それは”言霊”である。親しい者や家族からの言葉に最も効力が有り、事実状、自殺してしまった方の統計をとると天涯孤独な人や独身女性、田舎から都会に一人で出てきた人の割合が多いことが分かる。……私と彼がもし付き合っていなかったら今頃二人ともこの世にもういないかもしれない。
あとは神性の本体を見つけてソイツを処分するなり、封印するなりすればこの騒動も収まるだろう。多大な犠牲を今まで払ってきた。身に宿った狂気を抑えきれずに散っていった仲間たちの為にも、彼との幸せな将来を築いていくためにも必ずこの問題を解決してみせよう。きっと上手くいく。
……まただ。また自分がする必要がない”説明”をしている。まるで思考が操られているような気すらする……。
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2020年 1月5日 天気:雨
なぜだ!? なぜなんだ!? ローマ支部の人間は何をしている!? ローマ教皇が亡くなった。数々の魔法的防御を施したあのお方がなぜ亡くなったのか? 私には分からない。なんの罪もない人々が後追いで次々と死んでいく。教会でも多数の死者が出た。指揮系統は滅茶苦茶。暴動や紛争に巻き込まれて死んでいく仲間たち。既に教会は組織としての形を保っていられなくなっている。
かくいう私も自分自身と彼を守ることで手いっぱいになっている。”4月1日の悪魔”はどんどん力を増していっている。彼が食料を調達しに行き私が一人になったとき……
気づけばいつか手に入れた護身用の拳銃を自らの額に押し付けていた。
ちょうど彼が帰ってこなかったら今頃私は真っ赤な花を咲かせていただろう。
心の内にヤツが住み着いているのを感じる。とっくのとうに私も手遅れになっていたのだ。あれは私達人類がどうこうできる相手じゃない。彼を放射線から守る結界を生成し続けていなければ私もすでに狂気に身を落としているだろう。去年見た映画がこんな形で役に立つとは……。
楽しかった思い出が脳裏に浮かんでは消える。この終末の中で最後に確かな愛を育めたことが嬉しかった。
幸いにも彼はまだ悪魔の影響を大きく受けていない。呪いを身に宿した人間は周囲にまで影響を及ぼす。私がもうどうしようもないほど狂気に侵された時の為に、自決用の”仕掛け”を自ら仕込んでおこう。
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終わりの時が来た。
細胞の一つ一つまでが呪いに侵されているのが分かる。
なるほど。そこにいたのか。気づくわけないじゃんか。
まぁ……。みんなが気づかなくてよかったかな……。
願うならば……。あなたと……もう一回……デートに行きたかったな……。
意識が沈んでいく。
暗転。
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「な…………悲し…で、…んで悩んで……期待して…………」
何か声が聞こえる。
「そっ…ら……っ! よろこ…で、笑って、憧れて、好んで愛して満たされて……」
言葉が届く。
「生きろ!」
何かが頬を伝った気がした。
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「うっ……私は……」
水底に沈んだ意識が回帰する。
「全部終わったんだ! 何もかも全部! もう心配する事なんてない! ほら、外を見てみろ! あんなにも美しい夕焼けが広がっている! 俺たちを遮るものなんて何もない! 」
無性に愛おしいその声が私の鼓膜を震わせる。”仕掛け”が起動し始める。
「今日は2周年記念日だ! 食料は少し心もとないけど今日はパーティーにしよう! 」
幾筋もの水路が走る君の赤い頬に手を伸ばす。胸に飛来した感情。愛が心を満たす。
あなたの前で私は旅立つ。あなたは何も知らないままこれから生きていく。あなたならきっと私無しでも大丈夫でしょ?
「なぁ!? なんで泣いてんだよッ!? 」
”仕掛け”が完成する。いつか見た黒い雨。申し訳なさと切なさと悲しみと後悔とそして……希望の雨がどこかで降り出した気がした。
「あなただけでも……生きていてくれて……良かった……」
さようなら。
「は?」
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泣き疲れ、生に疲れ、希望に疲れた少年は黒革の日記帳を見つける。
「どうして……教えてくれなかったんだよッ……」
彼が本当の”真実”を知るのはまた別の話である。
かくして、運命の歯車は回り始めた。
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~後書き~
まだまだ続きます。
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