オカルトブログ

「ねえ、このブログ見た?」

「ああ、それ本気でヤバイらしいよねー」


 そんな風に話をしているのは、クラスメイトの女子二人。

 今は高校の昼休み。私達は一緒にお昼を食べていたんだけど、友達の一人がスマホを眺めて、何やら騒ぎ始めたのだ。

 どんなサイトを見ているかは、何となく想像がつくけど。きっと私が苦手なやつだ。

 そう思ったから、会話に参加できずにいたのだけれど、友達の方から話をふってきた。


「ほら、亜子も見てみなよ。大好きなオカルトサイトだよー」

「ーーッ!」


 画面に映し出されていたのは真っ黒な背景と、滴り落ちる血を連想される赤い模様。私は決して、オカルトが好きな訳じゃない、むしろ苦手なのに、友達は時々こうやって、からかってくるのだ。

 昔ほど怖がりではなくなったけど、それでも苦手なものは苦手だっていうのに。


「止めてよ。こういうの苦手だって知ってるでしょ」

「亜子は本当に怖がりだねー。心配しなくても、こんなの見たからって呪われたりしないって」

「さっき本気でヤバいって言ってなかった?」

「あれ、そうだっけ?」


 あっけらかんに言う友達を見て、少し恐怖が和らいだ。

 嫌だと言ったところで、どうせ話に付き合うことになるのだろうと思った私は、観念して二人の話に耳を傾けることにする。


「で、それってどんなサイトなの?」

「ブログだよ。毎日どっからか仕入れた怪談話をのせてて、結構人気あるんだよ」

「これスゴいよ。前にここで紹介されていた呪いの方法を試したら、マジで知り合いがケガをしたってコメントがあるよ」


 そのコメントを信用して良いかどうかは分からないけど、呪いでケガさせたなんて、あまり良い話じゃない。私だったら遊び半分でも、絶対にやったりしないだろう。


「ええと、今日の更新分は……『あぶくたった』? 何これ?」

「えっ、『あぶくたった』って、あの?」


 懐かしい言葉に、ついビックリしてしまった。人からこの名前を聞いたのは、保育園以来かもしれない。


「何、亜子知ってるの?」

「昔、保育園の頃やってた遊びで、そう言うのがあるんだけど、知らない?」

「初耳。どういうの?」

「ええとね……」


 私は丁寧に、『あぶくたった』の遊び方を説明していく。どんなルールなのか、どんな動きをするのかを、一つ一つしっかりと。

 途中、声に出して歌を歌わなきゃいけなかったのは恥ずかしかったけど。もちろん小声だったけど、事情をよく知らない周りの人達からは、急に歌い出した変な人って思われないかと心配だった。

 それでも何とか歌い終えて、二人を見る。


「こんな歌なんだけど、聞いたことない?」

「うーん、有るような無いような……あ、そうだ亜子」

「何?」

「じゃんけんぽん!」

「えっ?」


 理解する暇もなく、私はグーの形に握った手を出してしまった。対して友達は、パーを出している。何だか知らないけど、私の敗けだ。


「どうしたの、急に?」

「ちょっとね。さっきの話だとこの遊びって、まずじゃんけんで鬼を決めた後、皆で歌うじゃん」

「うん、そうなるね」

「ブログに書いてあったんだけどね。皆じゃなくて、一人で歌を歌って、その後じゃんけんで負けたら、『あぶくたった』の呪いがかかるんだってさ。歌って、じゃんけんで負け人が今夜寝た後、怪物が家にやって来るって言う呪い」

「ええっ!?」


 それって、まんま私じゃないの!

 詳しい話を知りたくて、慌ててスマホをのぞき込む。

 そこにはこの歌は、実は怪物を封じ込めた歌で、本来の遊び方とは逆の手順で事を進めると、封じられていた怪物が解き放たれて、夜家にやって来るといった説明がされていた。


「酷いよ。なんて事してれたの!?」

「ちょっとした冗談じゃない。そんなに怒らないでよ」


 友達はそう言ったけど、冗談でも呪いをかけられただなんて、いい気持ちはしないよ。


「亜子は本当に怖がりだねー。心配しなくても、呪いに掛かった時の対処法も、ちゃんと書いてあるから」

「対処法って……」


 もう一度スマホを見てみると、確かにそこには呪われた時にどうしたら良いかが書かれていた。

 それによると、怪物は家に来た際、歌と同じように、『トントントン』と、家のドアを叩くそうだ。その時すかさず、『風の音』とか、『郵便屋さんが来た音』とか、怖くない音を答えると、怪物は中に入ってこれない。ただし間違って、『鬼が来た音』、なんて言ったらその時はアウト。怪物が家の中に入ってきて、食べられてしまうらしい。

 ドアを叩くのは何度か繰り返されるけど、その都度怖くない音を答えなければならない。そして注意しなきゃいけないのが、同じ音は二度言ってはいけないこと。間違って同じ音を言ってしまったら、やっぱり怪物が中に入ってきて食べられてしまう。怖くない音を何度か言っているうちに、怪物は諦めて帰っていくから、それまで頑張って言い続ければいいって、そこには書いてあった。


「もし本当に怪物が来ても、これで安心だね」

「本当に来た面白いのに。もし何かあったら教えてよ」


 友達二人は他人事だと思って、のんきに笑っているけど、私は過去のトラウマを思い出して、笑う気にはなれなかった。

 それにしてもこの、怖くない音を言って、家に入ってくるのを防ぐ話、どこかで聞いたとこがあるような……


 少し考えて、そして思い出した。たしか昔同じことを、浜田先生が言っていたんだった。

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