【screen.7】
もぎりをしていた男女は、「ありがとうございました。またお越しくださいませ」と挨拶をする。
どうしようもなくなり、小屋にいる初老の紳士の元へ向かった。
初老の紳士は、客がいないにもかかわらず、窓口から一点をただ見つめている。
僕は思い切って話しかけた。
「あの、ここはどこですか?」
「こんにちは、こちらをどうぞ」
またも、話を遮りチケットを渡してくる。
でも、僕は食い下がる。
「僕は、元の世界に帰りたいのですが、どうすれば?」
初老の紳士は一点を見つめ続けながら、でもこれまでとは違う様子で話し始めた。
「あなたに、帰る場所などありません。あなたの居場所はここなのです。さあ、そのチケットを使い7番スクリーンに向かいなさい。さすれば道は開けます。次のお客様が待っておりますので、いいでしょうか?」
またも、いつのまにか僕の後ろには行列ができている。
仕方なく、僕は2本目を見ることにした。不思議と疲れなどはない。
普通、1本見るだけでも疲れそうなものだが、一本目を見る前と同じ気分だった。
またもあの男女が待つ元へ向かうとこれまでと同じ調子でチケットを回収した。
「ごゆっくりどうぞ」
機械的なそのセリフにすこし違和感を感じる。
まるで感情などないかのようだった。
7番スクリーンに向かう。
座席の数は少なめで、一ブロックしか設置されていなかった。
僕の席は真ん中の少し後ろめ。
その席の前には、若い学生の男女が座った。
「景君、楽しみだね」
「う、うん。楽しみ」
あちゃー。ガチガチに固まってる。
友達以上恋人未満、といったところだろうか。
なせが、体がこそばゆく感じた。
「ね、ねえ、なんでこの映画見たかったの?」
「え?うーん。なんとなくだよ」
「へ、へーそっか」
一方女性は余裕がある。
あれ?景君?
一本めのあの子と呼び名が同じだ。
これは偶然か、はたまた必然か、
上映がスタートした。
その映画は、またアニメで、大手のスタジオがつくっていたレース映画だった。
ファンシー調な絵にたくさんのキャラが登場する。
みんな絵が異なり、二次元のキャラがいたり、3Dだったり、二頭身だったり八頭身だったり様々だ。
人ではない者もいる。
各々の心の葛藤を乗り越え、成長する、素晴らしい映画だった。
映画が終わり、パラパラと観客が帰っていく。
その男女はまだ帰っておらず、僕はいたたまれなくエンドロール中に席を立った。
長い廊下を渡り、トイレに向かう。
用を足している間にチケットを持っていないことに気づいた。
一応、あれしか持ち物はないのだから大切に持っておかなきゃ。
僕は7番スクリーンに戻った。
すると、とびきり大きい声が聞こえてきた。
「俺と、付き合ってください!」
え?告白?ここで?
僕は行くに行けず、その場に立ち尽くしていた。
「その、ごめんなさい」
ああ、景君、ドンマイ!
僕はそそくさとチケットを回収し、出口を出た。
ラッキー7のスクリーンであえなく撃沈。
アンラッキースクリーンだね。
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