5.
それからは毎日、家に帰ると歌を歌った。ただしたいように歌うのは気持ちが良かった。ますます曲が好きになる。たまに録音して、上手く歌えたら投稿する。私も所詮は他と同じただの人間で、歌によりアイデンティティを確立させたとしてもそれは変わらないのだけど、それでも自分を主張することがこんなに楽しいなんて思いもよらなかった。誰が聞いてるかはあまり気にしなかった。しかし2ヶ月くらい経って思いたち1番最初の動画を開くと、再生数は想像よりずっと多く、低評価もあれば高評価も沢山ついていて、やけに嬉しくなってしまった。コメントを読む。褒めてくれる人が何人かいる。歌手になってみたら?なんて、そんなことも書かれていたが、それは別にいいと思った。ただ歌いたい。自由に生きたい。それさえ出来るなら、どこにいても幸せでいられると自分でわかっている。この美しくくだらない世界で生きているのは私だ、この世界は私のモノだと叫びたいのは、聞いてくれる人のためじゃない。でも私の歌を聞いて、同じように思う人がいたならどんなに楽しいことだろうか。主張が世間に必要になるならきっとその時は、誰かが引っ張りあげてくれるだろう。だから、それまでは別に。
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