3.
肩で息をしながら家の駐輪スペースに自転車をとめた。イヤホンを耳から外して畳んでスカートのポケットに突っ込んだら、なんだか空虚な心持ちで玄関まで歩く。じゃり、と石ころが足の下で踏まれて軋んで転がるのを何気なく感じる。扉のドアノブに手をかけて手前に引いた。日が遮られて涼しくて暗かった。革靴のにおい、汗の臭い。いつもの玄関でローファーを脱ぐ。靴下を脱いで、フローリングの廊下をしたしたと歩いた。エアコンがついている訳では無いのに、やけにここは涼しいのだ、いつも。嫌になる。何がって、何かはわからないけど。洗濯機に靴下を放り込んでからリビングに入って、スカートとリボンを外して放った。怒る人は誰もいない。二人とも働きに出てくれている。適当な椅子を見つけてどっかと座り込んで、時計を見上げてふぅと息を着いた。もう5時半。家に帰るといつもこの時間。夕飯には早くて、かといって何か出来るほどの時間もなくて、中途半端な今を掌でもてあます。何かしたい。革細工を作るでも、絵を描くでもなんでも良かった。出来るなら。でもどれも始めるには今一歩届かなくて、じめついたこの涼しさとぼーっと戯れることしかできない。ふと悔しさがこみあげてきた。なんで自分はこうなんだろう。してみたいと思うのに思うだけでなにもうみだせなくて、それが結局満足いかない暇の消費にしかならないと分かってるのにそれでもいいのだと思う。思ってしまう。とりあえず椅子から立ち上がった。キッチンで冷蔵庫から麦茶を出して、大コップで2杯飲み干す。吐息が少し冷えていた。ぶるりと震えてから、結局何も出来ないと分かっているのでいつも通り曲を聞こうとする。イヤホンは使わない。スピーカーで、大音量で、力の入れない身体に音の玉をぶつけて聞くのだ。そうだ、いつもの様に。
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