第12話
「百万の魂よりも重い……俺の魂が……」
聖は病衣の様な服の胸元を握り胸に押し付ける。
高鳴る鼓動が指から全身に伝わっていく。
「そうじゃ。貴様が家族の為に使った命と貴様が生かし、愛した妹が未来に救う何千何百万の命。そして貴様の愚直さに救われて来た者達の命。それらが重さとなって貴様の魂の価値となったのじゃ」
オシリスは再び宙に浮かぶと天秤の支柱へと向かって行く。
「–––よって貴様に天秤の恩恵を授ける–––」
オシリスの手が天秤に触れる。
天秤は光を放ち振動し始めた。
「おいおいおい!!どうなってるんだ!?」
一本の柱に支えられた皿に乗る聖は魔欠の痛みよりも状況の把握が最優先だと急ぎ、身体を起こしていた。
「大丈夫じゃ案ずるな。今、百万の魂と同等の価値となる"神器"《アーク》を選出しておるのだ。最高位の物が選ばれる確率は1%くらいかの?」
「ソシャゲのガチャかよっ!!!」
聖がツッコミを入れると同時に天秤の振動は止まり、太陽の如く光る片方の天秤から小さな光がユラユラと聖の元へやってくる。
「なんだ?これ……」
「ほほぅ、其奴が貴様を選ぶとは思わなんだ。喜べ妾が預かっている物の中で最上級の物だ。名は読めるか?」
「"オベリュスク"?」
「そう、それが貴様の得物となるのじゃ。アークの形状は手にする者の意思により形状を変化させる。ほれほれ、眺めてないで手を触れてみぃ」
早う早うとオシリスは両手をヒラヒラさせて聖を急かす。
一方、聖は恐る恐る目の前の光に両手で触れる。
触れた瞬間、聖の全身を光が駆け巡ると再び掌に戻り形を成す。
「ほほう。一代前の持ち主の時は短剣ほどの大きさだったが、これはまた……」
聖の手に現れたのは青い刃を輝かせる両手剣。
つまりは大剣だ。
「なんだ、これ。まるで普段から持ち歩いてる物みたいに手に吸い付く感じだ」
身の丈に近い大きさの大剣の筈なのに片手で振れるくらいに軽く感じる。
「貴様、随分好かれたのぅ。其奴は厳格で気難しい奴だったのじゃが、まるで形無しじゃな。……わからんでもないが」
オシリスは少し頬を赤くして聖の手に抱かれる大剣を横目で見ていた。
「ん?何か言ったか??」
「な、なんでもない!それよりじゃ!アーク"オベリュスク"に魔力を通してみよ」
「魔力を通すって……、こうか?」
体内に感じる魔力の流れを得物に巡らせるようにイメージする。
魔力は聖の思い通りに動きオベリュスクに流れ、その力を解放していく。
「うわっ、なんだこれ?古代文字?みたいなのがびっしり浮かび上がってきたぞ!」
「お主にはまだ読めぬか。それは其奴の意思じゃ。簡単に言えば妾と同じくラーを救いたいという願い、そして主の力になり主を守り抜くと妾に言っておる。律儀な奴じゃまったく」
テクテクと歩き近づいて来たオシリスがオベリュスクの刀身に触れる。
「すまぬが、任せたぞ」
返事をするかの様に刀身の文字が明滅した。
「さぁ、名残惜しいがそろそろ時間じゃ。新たなる世界に貴様を誘わねばならぬ」
「その世界に"ラー"が囚われてるんだな」
「左様。ラーは全世界にとっての光なのじゃ。何としてもこの空に戻さねばならぬ」
また数歩、ゆっくり歩きオシリスは聖を抱きしめる。
「お、おい、痴女神!何やってんだ急に!!」
「ハグじゃ」
「見りゃわかるわ!!」
「二度目の人生じゃというのに、また苦しみが其方を襲うだろう。妾の身勝手に付き合わせてすまぬ。本当にすまぬ」
涙を流していた。
少ない時間の中でいくつもの表情を見ていた。
その中でも一番綺麗だと、そう思った。
「……安心しろ、オシリス。俺はお前の使徒として全力でラーを探してくる。また死なない限りは頑張ってやるさ」
ポンポンとオシリスの頭を撫で、決意を新たにする。
「そろそろ、ラーの居る世界に飛ばしてくれ!」
「あぁ、任せておけ。その前に貴様の服を格好良くしてやらねばな」
抱きしめていた腕を解くと聖の服に触れ一瞬で着替えさせる。
新たな衣装は白を基調とした装飾のある王子が着る様な物だった。
「おいおい、なんか派手じゃないか?もっと動きやすいやつはないのかよ。ほら、スウェットとかさ–––––」
「さぁ、新たなる世界への門出じゃ!安全運転で頼むぞ!!"ホルス"!!!」
ゴォォォオオ!!!
聖に背を向け、オシリスは大きく両腕を広げると底の見えない暗闇から巨大な赤い鳥が現れる。
「お呼びか?我が母オシリスよ」
「––––––––––」
開いた口が塞がらない。
だって、ワープとか何かで行くと思ってたんだもん。
「急に呼びつけて済まぬな、息子よ。ちと此奴をハヌマラーナまで飛ばしてくれぬかの?」
「ははは、お安い御用だ我が母よ」
聖の脳内は驚きと恐怖で震えていた。
自分の軽く十倍はあろう怪鳥が浮遊する露出狂と会話している現状に……。
「ではまた会う日まで健やかであれ。おっとそうだ、向こうの世界での新たな名を伝え忘れておった!貴様の名は"バビロン"。この美神オシリスの使徒にして万物を支え聳える塔!バビロン・オフィーリアを名乗るといい!!……
「まてまてまて!馬鹿痴女!!早口で喋るな!状況の説明をしろ!!それと別の便で行かせてくれ–––––」
「暫しの別れじゃ我が
にこりと微笑むオシリス。
そして聖、改めバビロンの声を無視して胸ぐらを掴むと思い切りホルス目掛けて投げ飛ばした。
「シートベルトはないからの?あぁ、安全バーもじゃ」
「–––てめぇ、いつか殺す–––」
「良いフライトを」
ビューーーーーン!!
オシリスの言葉のすぐ後に飛び上がるホルス。
その頭の毛を掴みしがみ付くバビロンが何か叫んでいたみたいだが、オシリスには届かなかった。
「頼んだぞ」
オシリスは両手を胸の前で組み彼の無事を祈った。
「妾も支度を進めるとしようかの。アヌビス、メジェド、付き合え」
「あいあい姉さん!」
「何をしたらいいのかしら?」
「まずはじゃな–––」
女性の影が三つ天秤の下、暗闇の中に消えていった。
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