第11話



オシリスが魔法で創り出した魔獣を見事倒した聖は天秤の皿に背をつけて硬直してた。

「素人にしては驚きの飲み込みの早さじゃな。どうじゃ?酸欠ならぬ魔欠まけつ(魔力欠乏症)に初めてなった感想は??くっくっく」

「うるせぇ、ハァ、ハァ、もう、魔力、使いたく、ねぇ〜」

右手の甲を額に乗せ、息を荒くする。

「魔力が空になった分、大気中の魔力を一気に取り入れる痛みと苦しみは良い教訓となるじゃろう」

同じく皿に胡座をかいて座るオシリス。

「これ、いつになったら、治るんだ?」

「貴様の魔力最大値が千くらい。その三分の一を回復したらかの??魔力を一回復するのに三分くらいってところじゃから……後十五時間後じゃな!!」

「ソシャゲの体力かよ………」

魔欠の痛みと気怠さに耐えながらツッコミを入れる。

(身の丈に合った魔法を覚えよう……)

動けるようになったら小さな魔法から練習する事を固く誓ったのだった。

「貴様の新たな身体を作ってやった。魔力、魔法の使い方は教えた。後は転生の対価と天秤の恩恵の話だけじゃな」

未だに倒れ込んだままの聖にオシリスは指を折りながら話す。

「転生の対価?天秤の恩恵?なんの話だ?」

「まずは対価の話じゃ。貴様に生まれ直して貰う理由、というより妾からの願い事じゃな」

「願い?俺が何か支払うんじゃないのか?」

「いいや、払って貰うぞ。そうじゃな……、『妾の願いを叶えて貰う』が正しいの」

「その願い、命の危険はないのか……?」

脳内にはもう既に不安しかない。

そして質問をしつつも危険があるに決まってると心が叫んでいる。

何故、転生させられるのか。

何故、魔法を使う必要があるのか。

何故、神オシリスは戦闘で魔法を覚えさせたのか。

オシリスの全ての行動が聖を危険へと誘うモノだと彼の脳は答えを出した。

「……いや、聞くまでもないな。受けるよ、さぁ願いでも何でも言ってくれ!」

「話が早くて助かる。妾が貴様に頼みたいのは、救済じゃ。貴様に救って欲しいお方がおる」

「救って欲しい?俺に?誰を?」

オシリスは一度瞳を閉じてゆっくり開くと一人の神の名を聖に告げる。



「""じゃ」



「太陽神ラー!?それってお前にこの天秤を与えたとか言ってたあのラーなのか?それを救う?って事はこの空間?世界?にラーは今居ないのか?」

予想していた領域を超える壮絶な話になる予感。

オシリスから聖に託されたのは太陽神の救済だった。

「そうじゃ。今ラーはある世界に赴いておる。そして何らかの事情により天界てんかいに戻れなくなってしまっておる。その地に赴き、ラーを探し出し助けて欲しい」

「神を探すってのがどんだけ大変なのかわからないけど、いいぜ!叶えてやるよその願い!!………死ななければ」

「大丈夫じゃ!そうならぬ様に魔法を教え、更に天秤を使って貴様に恩恵を授けるのだからな!!」

片膝を立てて膝に手を置き、ゆっくり立ち上がるオシリス。

その目は空を仰ぎ、自分達が居る皿の丁度反対を見つめている。

「貴様にも見えておろう?あの眩い光が」

「ああ、此処で目が覚めてからずっと見えてるよ。あれは太陽か何かなのか?」

「貴様、天秤が何か知っておるじゃろ?その皿に乗り、対面の上に物があると何故認識できぬ??これは魂の天秤。即ち、あの輝きは魂じゃ」

「魂!?何の魂なんだ??」

「無論人じゃ。……その数百万」

「は?」

聞こえていた。

確かに聖の耳にオシリスの声は聞こえていたのだ。

ただ、シンプルに信じられなかった。

「あれは百万の人の魂じゃ」

天秤の神はじっと聖を見つめて腕を広げる。



「–––貴様一人の魂は、そこらの百万の魂よりも遥かに重い–––」



魂光の天秤は魂の重さを、価値を計る。

オシリスの言葉が聖の心に響いていた。

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