第10話
「おぉぉぉらぁぁあああ!!!」
オシリスの魔法を次々に受けても聖の目は諦めていなかった。
鳩尾に感じる違和感を二つに割り、両拳に送るイメージを作る。
そして迫り来る、絶叫する玉に向けて拳を放つ。
そして右、左と一つ一つ殴りつける。
「ぐぁぁぁああっ!!!」
怨嗟の玉は拳を擦り抜けて聖の身体にダメージだけを残していく。
「魔力の扱い自体は出来ておるの。流石は妾の改ぞ、ゲフンッグフンッ、修復技術」
「てめぇ、今「改造」って言いかけただろ」
「……魔法を扱うには"集中"と"創造"《イメージ》、それらの"制御"が必要なのじゃ」
横たわる聖の文句を無視してオシリスは宙を漂いながら話す。
「貴様がやったのは"魔法を弾く為の集中"。即ち《すなわ》"集中"だけなのじゃ。魔力を集め、弾く為のイメージを固める。そして魔力とイメージのバランスを取り具現化させよ」
「急に、そんな事言われてもな……。さっきの怨念?みたいなのもイメージして具現化してるのか?」
「そうじゃ。妾はこの様な見目麗しい姿をしていても魂を扱う『冥府の神』。魔力に"闇"の属性を込めて具現化した魔法を得意としておる」
「さらっと新しい事言ったな。属性なんてのもあるのかよ……。俺の属性とかってわかるのか?」
「おそらく"光"じゃ」
「おそらくって、アバウトな」
「その者の生き方、存在意義に由来するのでな。確実に読み取る事は誰にも出来ぬ。お主の生前のデータを見る限り、何となく光かの?」
オシリスの友(仮)メジェドが調べて来たという紙を見ながら小首を傾げるオシリス。
それを見て聖は首と肩を落とし、項垂れるのであった。
「まぁ、習うより慣れろじゃ。そ〜れ"死霊獣"《カース・バウンド》!!攻撃を弾き、倒さねば死ぬぞ♪」
「なら何で生き返したんだよバカタレがぁ〜〜〜〜!!!」
オシリスが両手で円を描くと闇の空間が開き、二つの大きなツノと腕を持つ四足歩行の獣が姿を現わす。
顔や手足は濃い体毛に覆われている。
だが、胸部だけ骨になっており中央に赤いコアの様な物が見えた。
(イメージ、イメージ……。属性はたぶん"光"で、俺の生き方…………)
言葉は出て来なかった。
腕やツノの攻撃を紙一重で躱すのが今の聖には精一杯だったからだ。
身体の一部が欠損してから数年、運動という運動をして来なかったから。
(昔はチンピラ相手に喧嘩とか普通にしてたのになっ、くっそ、身体が治っても感が鈍ってる)
「グォォォォォォォオオオオオオ!!!!」
響くのは獣の雄叫びと天秤の鎖が軋む音、そして聖の荒くなっていく呼吸音のみ。
「お主の大事だったモノは何かの?」
空中で腕組み直立をするオシリスは見兼ねてか聖にヒントを投げる。
呼吸を整えている聖は声を出す事が出来ずにいたが、オシリスは構わず言葉を続ける。
「一番大切な、"重い"記憶を武器にせよ。貴様は今"どこに立っておる"!!」
叱咤。
その言葉がしっかりくる。
叱り、励ますその表情は母親のそれだった。
(母さん……、父さん……、杯那……)
それは子供でも思い付く大切なモノの箇条書き。
聖の一番大切なモノは『家族』以外にはあり得なかった。
重い記憶。
それは掛け替えのない家族との『時間』の全て。
「お前は真っ直ぐ、優しさと正義を貫きなさい。いつかそれがお前の誇りになるからね」
いつかの父の言葉が脳裏をよぎる。
優しさと正義、それを貫く事。
そして今自分が立っているのは天秤の上。
天秤とは重さを計る物。
そして重さを"均等"にも出来る物。
聖は魔法の形成に天秤をイメージする。
「魔力を体全体に、属性は退魔の光!!俺は全てを貫く光の鑓だ!!!」
一瞬の閃きを纏う聖は魔法を具現化させ、獣に向かって一直線に走る。
オシリスは万年の笑みを浮かべて聖を見つめる。
「掴んだようじゃの。それが、妾が探し求めた"一筋の光"。心地良いのぅ−−−−−−よ」
聖は暖かな光を全身に纏い光の鑓を右手に構え一気に突き出す。
背中には光のマントがはためいていた。
「"神聖光鑓"《ブリューナク》!!!」
鑓は見事獣のコアを貫いた。
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