第9話


「貴様の身体を作り直しておった」

目の前の自称神は思わぬ事を口走った。

「まて、待て待て、結論だけ言うな。悪い癖なんじゃないのか?直した方がいいぞ?」

「要らぬ世話じゃっ!!貴様を天秤に置いた後、時間をかけて修復しておったのだ。それよりも!感じるのは呼吸のし易さだけかの?」

身体を作り直した。

確かにオシリスはそう言った。

聖は死人のはず。

死して今は魂だけのはず。

身体の苦しさなど感じないはず。

なるほど、今にして思えば不可解だらけの瞬間を過ごして居た。

「……俺の体は、いや俺は生きてるのか?」

「左胸に手を当ててみろ」


−−−ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ−−−


生命を支えるポンプの振動が手を叩い全身を駆け巡る。

今この身体は生きている。

「どうじゃ?生き返った感想は」

「………まだ、実感が湧かない」

「それも無理は無いの。……それで、感じるのは生の鼓動だけか??もっと自身の内側に目を向けてみよ」

「自身の内側?」

聖は言われるがままに目を閉じて身体の内側に意識を集中する。

それで何が感じられるというのか。

ニタニタと笑う神の顔が浮かびイラつきそうになる心を抑え集中していると、何となく鳩尾みぞおちの辺りに血脈とは違う感覚の流れ集まる力を感じ取れた。

「なんだ?この変な感じ」

「少しは感じられたようじゃの。それは『魔力』だ」

「あーこれがあの!…………はぁ!?魔力ってまさか−−−」

「そう、火を出してみたり時空を超えてみたりと万能なアレだ。お主の新しい身体に魔力を宿し流す構造を組み込んでおいたのじゃ。まず心臓を『魔導無尽蔵炉』《オーバーマテリアル・ファネス》に替えた。そして体内の魔力を均等かつ効率良く流す為、片肺のあった箇所に『魔導循環制御臓』《マテリアライズ・リミッター》を設定。腎臓の欠如した所には趣味で『完全究極分解臓』《アルティメット・バスター》をくっつけておいた。完成したのはついさっきじゃ♬」


「………………………………」


開いた口が塞がらなかった。

理解が何となく追いついてしまったから。

この神とか言う存在。

異空間から出てきたワンコ。

見えざる者の実存。

目の前の幻想達ファンタジックが馬鹿げた神のこれまた馬鹿げた言葉の全てを『有り得る』と肯定する。

「どうじゃ?」

「どうじゃ?じゃねーよ!!!人様の身体勝手に魔改造してんじゃねぇ!!!!!元に戻るのか?お前なら普通の身体に戻せるよな??」

「それは無理じゃ」

ピシャリと聖の言葉を切り、真っ直ぐに聖の目を見つめるオシリス。

「何で!!」

「先に言うたじゃろ?妾は魂の転生・滅失を司る神であると。妾の出来る事はであってではない。輪廻転生という言葉を知っておるか?万象全ての魂は生まれ変わり生き続ける。それは妾の主、太陽神ラーが決めたことわりなのじゃ。妾には変えられぬ」

不変の理。

絶対神の唱えた世界の掟。

そこいらの神々ですらも逆らえないルールがどの世界にも存在する。

「じゃあ、この何だかよくわからない改造をされたこの身体で俺は産まれ直す事しか選べないって事なのか?」

聖は混乱していた。

自分の死を受け入れた途端に生き返ったと告げられて、身体は新たに作り替えられたモノで魔力と言う謎の力を手に入れたらしい。

今の自分がどうなって居ようと元居た世界に帰る事は叶わない。

「手にした力がどんな物か、よくわからないのは使った事が無いからじゃ。いいだろう、妾が胸を貸してやろうではないか」


−−−戦慄。


空間さえも振動させる魔力の本流が聖を飲み込んだ。

絶大なる神の魔力。

宙に浮かび上がるオシリスから流れ出るオーラは恐ろしく禍々しい物だった。

(手も足も震えるだけで何も動かない………。これが魔力。俺の中にもこれが流れてるのか)

震える四肢に目を落とす聖。

「これでも妾の力のほんの一握りじゃ。今の貴様なら同じ量の魔力を扱える。自身の中の魔力に意識を向けよ。そして利き手の平に集めて妾に投げつけてみるがいい。妾がか弱い乙女だからと甘く見るでないぞ?」

戯けた表情をしていたオシリスの顔が真剣味を帯びて、暖かい印象だった桃色の髪も褐色の肌も冷たい刃の如き空気を纏う。


「さもなくば再び死ぬぞ」


その言葉を合図にオシリスは両手の平に薄紫の魔力の球体を形成する。

丸く渦巻く竜巻の様な球体からは迸る黒い雷と怨嗟の声が響く。

「なんだよそれ、悪霊の塊?!そんなもん、まさか俺に撃って来ないよな?避けられないぞ?避けられないからなっ!!!」

「避けなくて良いのだ。自身の魔力で弾いて見せよっ!!"憎悪悔恨霊波"《カース・カタストロフィー》」

「魔力の扱い方ちゃんと教えろ馬鹿痴女ぉぉぉおおおおおおお!!!!!」

オシリスの右手から放たれた球体は六つの玉に分かれる。

それぞれが人の顔に近い形に変化して聖に襲い掛かった。


(–––玉、増えるのも言えよ–––)


聖の心は魔法に当たる瞬間、泣いていた。

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