第8話



「そして貴様は此処に居る」

全ての道筋が明らかになり、聖は顔を上げる。

自分の死を、死因を受け入れ妹の明るい未来を知った。

何も思い残す事なく両親の元へと旅立つ決心をした目だった。

「貴様、まさか天にでも登ろうとしておらぬか??」

「え?今から俺閻魔様の所に行くんだろ?」

「こんな麗しくピチピチな妾ではなく、ガチムチな髭オヤジの所がいいと?………………引くわ」

「待て待て話が分からん!!」

「女の裸体と未だ空想の髭モジャ、どっちが好み?」

頬を赤らめキュートなウインク一発かます神。

「説明になってねーだろ!!俺は死んだの!!自分が死んだシーンも見たし、なんだか良く分からん経緯で杯那の未来を知った!!もう未練は無いっ。……って、ん?おいオシリス」

「なんじゃ浮気者」

「浮気どころか恋もしとらんわっ!!じゃなくてー!!!!お前天秤の神だろ?なんで妹の未来がわかる!?そのワンコの力か?」

聖の視線は女性の艶めかしい体躯をなぞり、足元の黒い毛玉を捉えた。

キュルンキュルンしたオメメをパチクリさせてスタッカートの効いた息遣いをしているアヌビスと呼ばれたソレは何者なのか。

「コレは妾の犬。ペットだ」

「ズコーーーーーーッ」

「痛っ!!こら貴様の所為で尻餅をついてしまったではないか!!」

聖のリアクションは盛大に天秤を揺らし、素っ裸同然の神を素っ裸にして転倒させた。

−−現在、聖の怒り《イラ》メーター50%−−

「ああ、あれだ、友達に頼んだのだ」

「あ、なんだそうか。−−−で納得出来るかっ!!!未来見えるとかどんな友達だ!!」

「馬鹿にするな!!メジェドは何でも出来る子なんだ!!」

「ほぉう、メジェド?って言うのか。だったらはやくこの場に呼んで見せてくれよ、何でも出来るお友達をさ」

マウントを取った。

聖は確信した。

この女に、神に友達なんている訳がない。

「ん?ああ、貴様にはわからないのか。メジェドならそこに居るぞ?」

オシリスは指をさす。

聖の立つ位置の少し左側を。

もちろんこの天秤には聖とオシリス以外誰も乗っていない。

いや、ワンコも居た。

だが人(と人型の神)しか見えない。

いや、ワンコも見えた。

「ついにボロが出たなオシリス。いいや?最早、神なのかどうかも危ういなぁ痴女。お前の言った俺の過去は真実だ、だが杯那の未来は本当なのかどうか証明できない。………お前、ただのストーカーだろ?」

「なーーー!!!あったま来たぞ人間風情が!!メジェドよ、目にもの見せてやれっ」

「目に見えない友達(仮)に目にもの見せろってお前な−−−−−」

刹那、聖の視界が揺らぐ。

気が付くと聖は仰向けに倒れていた。

何をされたのか全くわからない。

まだ視界が揺れて体が言う事をきかない。

「な、………」

「ふふん、どうだ我が友メジェドの体術は。【見えざる者】の異名を持つ神メジェドだ、見知り置け馬鹿」

尻餅をつきっぱなしだったオシリスはようやく立ち上がると落ちてる羽衣を羽織り直してドヤ顔を決める。

「こ、これが………かみの、力、か」

「メジェドは何でも出来るんだ」

万年の笑みを浮かべるオシリス。

四肢の感覚が元に戻ると聖は上半身を起こす。

「痛た、目に見えない神とか凄いな。全身麻痺する程の体術も………閻魔様より絶対ガチムチだろメジェド。なんか男の名前っぽいしな」

「ん?何を言っているのだ?メジェドは女の子だぞ?」

「ダウト」

「嘘ではない!!妾は神だ、そんなつまらない嘘はつかない。妾の一億年前の記憶では見目麗しい色白の美女であった」

「エジプトの神が色白って………。ん?まて、お前また何か変な事言わなかったか?一億年がなんだって?」

「一億年前の記憶だ。妾がメジェドの姿を見た最後の年は一億年前だ。あの頃私は日本かぶれでな、伝統遊戯『カクレンボ』をメジェドに教えてやってみたのだ。そしたら彼奴きゃつめ、すっかり姿を消し以来見ておらぬ。アレはプロだったのだ………」

目を瞑り顎を右手の親指と人差し指で掴み、過去を振り返るオシリス。


−−現在、聖のイラメーター100%−−

「−−−てめぇっ」

「ん?なんじゃ?下向いて震えて。今更妾の体躯に興奮して鼻血でも噴き出たのかの??大丈夫?おっぱい揉む??」

「てめぇさっきまでのシリアス展開台無しにすんじゃねーーーーー!!!!!」

「きゃあうっ!!」

聖はついに怒鳴り声だけで天秤を揺らし、またもオシリスは尻を地につける。

「おい痴女神。お前少し黙って第1話から第7話まで読み直せ。読者の心を踏みにじるな。そして早く俺を天国だの地獄だのに連れて行けっ!!!」

「たかだか一万文字もない文章くらい覚えておるわ戯けっ!!それにお主何故そうめっせられたがっておる!!」

「死んだからだよ!!家族の為に人生使って死んだからだよっ!!!」

「はぁ………」

「なんだその軽い溜息はっ!!って、あれ?これだけ叫んでて息切れしてない?俺が??」

「ようやく気が付きおったか。お主、愚直故に愚鈍よの」

再び立ち上がると腕を組み聖の前に立つオシリス。

人を小馬鹿にした表情を浮かべ、今まで以上にニヤついている。

聖の身に何が起きたのか。

確実な事は一つ。



ろくな事は起きていないっ!!

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