第6話


「しかしお前、阿保あほうだな」

理解は出来ても未だ自分の死を受け入れられない聖を前に、ほぼ全裸の痴女神は歯さえ何も着ていないらしく率直にモノを言う。

「もっと上手い生き方があっただろうに、自分の意思を『こうだ』と決めたらその道しか進まない。イノシシにも劣る愚直さよ。生き続ければ頑固オヤジに進化して、頑固ジジイに究極進化じゃな」

わっはっは。と楽しげに笑うオシリス。

依然黙る聖をよそにオシリスの言葉は続く。

「−−−じゃが十九の夏、貴様は

ドクンッ。

聖の心臓が一回跳ねる。

吹き出る冷や汗と共にの顔が脳から流れ出てくる。

(俺は、あの男の口車に乗せられて、それで、ボロい病院に連れて行かれて………)

「おーい!そろそろ何か言ったらどうじゃ?何か思い出しておるのかの?それとも絶望の最中か??ええい、なんとか言えい!」

「−−−妹は……」

「ん?何じゃ??イモ?そんな物神聖な天秤に乗せるかっ!!」

「違う!俺の妹はどうなるっ!!」

怒り。

それはオシリスに向けるべきではないモノ。

鋭い眼光と共に撃ち放ったその直ぐ後の後悔で全身の血の気が引く。

聖は再び下に視線を落とす。

「悪い……」

「良い。気にもなるだろうさ、あれだけ愛していた唯一残った家族なのだからな。−−−アヌビスッ!!」

パンパンッ!!

オシリスが手を二回叩くとオシリスの足元に黒い渦が出来てその中から漆黒の魔獣が姿を現わす!!

「キャンキャンッ!!ク〜〜〜ン♫」

小さな小さなチワワみたいな魔獣、アヌビスはオシリスの足元に纏わりつく。

オシリスがギリッと音がしそうな勢いでソレを睨むと全身を震わせてアヌビスは自分の出て来た渦に頭を突っ込み一つの封筒を取り出す。

オシリスはその封筒を受け取り開き、中身に目を通す。

一分と経たずにその口は開かれた。

「貴様の妹、草間 杯那は世界的な大者になる」

「−−−高校でそんなに背、伸びたのか……」

「そっちじゃないわっ!急にボケるでないわたわけ!!」

ウォッホン!!

校長先生ばりの咳払いをして空気を入れ替えるとオシリスは封筒の中身である数枚の紙を読み上げる。

「貴様の妹は貴様の死後、大いに落ち込んだそうだ。仏壇の遺影が三つになり、床の座布団は一つで足りる。虚しさもそうじゃが、貴様も大層愛されておったのじゃなぁ」

純真を絵に描いた様な妹、杯那。

彼女の顔が曇った所は両親の葬儀の時、その二回しかなかった。

「貴様の死後一週間で修学旅行に出た妹は優しい友人に支えられて何とか笑顔を取り戻しつつあった。じゃが某南国のビーチの夕暮れ一人になった時、海の向こうを見つめてふと涙を浮かべてしまう。その哀愁と容姿の美しさに一目惚れをした一人の男が妹に駆け寄り膝をついた」

誰でも惚れてしまうに決まっている。

母親に似て、可愛いらしかったから。

「その男は一国の王子で、国での争いから逃れて各国を転々としていた所たまたまそのビーチで妹と出会った。涙の訳を聞き、彼女の家族の話に涙し、優しく抱きしめてくれた王子に心を許して妹は彼と幸せな暮らしをしたとさ」

杯那は幸せになった。

何やら実妹のラブストーリーを聞かされて小恥ずかしい思いも燻っているのだが、聖はそれでも嬉しかった。

感涙が溜まり、一滴落ちた時、



賭けた意味はあったかの??」



神の言葉が内臓の隙間を貫く《つらぬ》。

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