第5話
「−−−ここは………」
暗い空間に居た。
目の前には太い塔の様な物が聳え立ち、そのまた奥には光り輝く太陽の様な光が見える。
(金属製の床?に寝そべってるのか??服は病衣みたいな………、ここは何処なんだ?)
冷たい床に手を置き上半身を起こす。
仰向けに寝た状態から上を見ていた時と、空間の見え方が違う。
今、自分の座っている地面は広く円形になっていて先が食事を運ぶトレイの様に持ち上がり等間隔に三箇所から太い鎖が上空へと伸びている。
「まさか本当にトレイの上とか?注文のやたら多いレストランじゃないよな?目の前に塔があるんだ!ここだってそうさ!」
偉大な文豪の代表作の主人公の気持ちに共感しつつ、恐る恐る立ち上がる。
すると地面が少し揺れる。
「地震!?くっそ、こんな時にっ」
ギリギリと鎖が軋む音と、何やらクスクスと笑う息遣いが聞こえる。
あの男なのか。
胡散臭い糸目が笑っているのか。
「誰だっ!!!誰か居るのか!?」
−−−誰だっ!!!誰か居るのか!?−−−
…………………。
ただ、自分の声だけが響く。
「誰も、いないのか………」
ろくに見えない周囲に目を凝らしながら足を一歩一歩地面の淵へと進める。
揺れる地面に膝を震わせながら辿り着いた淵は分厚く、ベランダやバルコニーのそれとよく似ていた。
そしてその下には、
「−−−何も、ない………」
果てしない暗黒。
その中に見えるのは聳える塔一本のみ。
やはり自分は皿の上に乗っている。
膝の震えが止まらない。
一歩一歩踏みしめて後退り、叫ぶ。
「何なんだよ此処はーーー!!!」
息が切れる。
渾身の叫びは短く終わり、肺が張り裂けそうな痛みが駆ける。
両膝をついて胸元の布を両手で握る。
(−−−苦しいっ)
その時だった。
あの女が現れたのは。
「おやおや、どれだけのリアクションをしてくれるのかと期待して見ていたら妾に祈りを捧げてくれるとは殊勝な心も持っていたのかの?案外可愛い所もあるんじゃな、草間 聖くん」
「なっ!!眩しっ」
声の方向に目を向けると塔の向こうに見える光より何倍も強い光が眼球を殴り、目を瞑る。
目の違和感が消え、ゆっくりと瞼を開けるとそこには少女がいた。
桃色癖毛の長髪に褐色の肌から漂う暖かい印象と甘い香り。
細くバランスの取れた体躯に優しげな顔。
衣服ではなく羽衣をただ羽織っているだけの少女が、宙に浮いていた。
「お前は……誰だ??」
聖は真っ直ぐに彼女の目を見て問う。
彼女は微笑を崩さずに答えた。
「我、太陽神ラーより魂光の
「てんびん……。!!天秤っ!!此処は天秤の上なのか!!」
丸い淵のある皿、それを吊るす鎖、支える主柱。
自分の見ている光景が、彼女の言葉を辿り見知った道具を形成する。
「ご明察。流石、頭が柔らかいな。ならば貴様が何故此処に居るのか、わかるな?」
宙を漂っていたオシリスと名乗る少女はゆっくりと聖の側に降り立つ。
それとほぼ同時に聖の口から彼の結末が零れ出る。
「−−−死んだ」
魂の重さを計る天秤。
天秤の上の自分。
エジプト神話のオシリスは死者の魂を計る神。
そんな神話の光景を自分の目で見ているなんて馬鹿げた話、と聖は思いつつも確かに『死』を実感していた。
「御名答。君は死んだ」
両膝をついたまま項垂れる聖の肩に手を置き、彼女は伝える。
「享年十九。あまりに短かったな」
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