第4話
「こんにちは草間 聖さん。わたくしは
それは、突然だった。
安っぽい名刺を手にした男が聖の前に立ちはだかる。
この時よく考えておけば兄妹の未来が分かたれる事は無かっただろう。
だがこの時の聖には偽の名刺を見抜く目も、胡散臭い大人の見分け方も分からなかった。
「あの、なんで俺の名前を?」
大学帰りに新しいバイトの面接に向かう途中、街の大通りの真ん中にこの男は立っていた。
真夏なのにキャメル色のコートを着込み鞄を持つ背が高い糸目の男。
「貴方の過去の医療経歴を拝見致しまして−−−」
一瞬、聖は凍るような感覚に見舞われる。
無意識に聖の右手は自身の肺の辺りを撫でていた。
「……なるほど。それで、機関?のお医者様が俺なんかに何を手伝えって言うんですか?」
コートの男は口元を歪め、水を得た魚の様に依頼内容を話始める。
「依頼内容は要するに新薬の治験です。最近開発中の難病特効薬が実験段階まで進みまして複数名での実証実験を計画しています。それにご参加願いたいのです」
新薬実験。
聞くだけで恐ろしい。
だが、命の危険がある実験の対価はどれ程なのか。
聖の脳裏に浮かぶ好奇心を男は見逃さない。
「勿論報酬は莫大ですよ。それに加えて保証金も出ます。実施日の次の日に銀行振り込みで一千万!!ね?莫大でしょ??」
「い、いっせんっ!!!!どんな危険な薬物なんだよ!!お断りします!!」
「−−−未来の貴方にまともな仕事が出来るとでもお思いですか?」
男の糸目が僅かに開く。
そして手に持った鞄から一つのクリップボードを取り出す。
「ややっ!草間さん!!妹さん可愛いですね〜。十七歳、甘みたっぷりの青春真っ盛りですね〜。妹さんの将来もその双肩に乗っているのでは、ありませんか??このご時世です、大学にも進ませてあげたいですよね??ここらで大きな貯金つくりましょうよ!」
男は聖の弱みを握り締めては緩め脳裏に言葉を仮初めの
「明日には七十人の治験が終わる予定です。定員は百名!!わたくし以外にも協力者を探している研究者は大勢居ます。ご決断はお早めに………」
男は手に持ったクリップボードと高価そうなボールペンを聖に向ける。
聖の
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