第8話

私の住んでいる最寄りの駅に着くと、

午前していなかった買い物をしてから

家に帰った。


すると、まだ16時前だというのに夫が帰ってきていた。


「永実子、おかえり。どこに行ってたの?」


「えっと、久々にゆり子とランチしてきたの。

ごめん、まさかこんなに帰りが早いと思わなくて。すぐにご飯作るね」


(私はまた嘘をついた)


「いいよいいよ、ゆりちゃん元気だった?

もし夕飯作るの大変だったら、このままどっか食べに行ってもいいし」


「うん、元気だったよ。夕飯は麻婆丼で良ければすぐ作れるけど、それでもいい?」


「お、いいね〜ありがとう。じゃあその間に風呂入っちゃうよ」


「うん!そうして!」


夫がお風呂場に行って、

シャワーの音が聞こえたら

急激にホッとした。


浮気してきた訳でもあるまいし

何をビクついているんだか。


とりあえず冷たい水を一気飲みして、

気合いを入れてから、

麻婆豆腐を作り始めた。


お風呂から出た夫は

麻婆丼を頬張りながら、


「なんか急かしたみたいで、ごめんね。

その代わりって言うわけでもないけれど、

冷凍庫見てみて。お土産あるから」


夫に言われるがまま冷凍庫を見ると、

そこには高級そうなアイスクリームが入っていた。


「今日、デパートに行く営業で直帰だったから

帰りにデパ地下寄っちゃったんだよね。永実子の好きそうな味何種類かあるから、好きなの選んで食べてよ」


「…ありがとう」


夫は相変わらず優しい。


でも、その優しさが逆に私の首を真綿でゆっくり

締めていることに、全く気付いていないのだ。


「あ!それから明日の夜、仕事のやつらが家に来たいって言ってるんだけど、いいかな?」


「明日?」


「そう。もう1年半にもなるのに新婚の家に来たいとかでさ。仕事7時くらいに終わるからそのままの流れで」


「わかった。何人くらい?」


「4人くらいかな。断りきれなくて、本当にごめん!!作るの大変とかだったらデリバリーのピザとかでもいいからさ!」


「そんな訳にはいかないけど……とりあえず用意しておくね」


「ありがとう!!」



その夜、ベッドに入ってから

明日のメニューを考えた。


そして、きっと新婚いじりになるだろうと

思うと気が重かった。


無意識に枕の下に手を入れてみたけれど、

当然もう手紙は無かった。


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