第5話

翌朝。


いつもの様にチューリップに水をやり、

夫のネクタイを締め直し、

「いってらっしゃい」と

嘘の笑顔で見送った。


そしてまた、いつもの様に鍵を2つにチェーンをかけ、それからテーブルに座り手紙と対面した。

もう迷いは無くなっていた。


手紙をじっと見て

「ごめんなさい」

そう言って手を合わせてから、

ほとんど開いてある封の最後の糊の部分を剥がした。



相原 果実さまへ


お元気でしょうか?

その後、どうされていますか?


君からの手紙が来なくなって、

半年以上も経つので

しつこいとは思ったのですが

また手紙を書いてしまっています。


僕達が会う予定をしていた

1月6日。

君が来なかったという事は

やはりそういう事なのでしょうか?


頭では分かってはいるのですが、

やはりきちんと君の口から

聞いてから僕の中で

君を忘れたいと思うのです。


これが最後で構いませんので、

お返事どうかお待ちしています。


桐谷聡介



これは…

どういった手紙なんだろうか。


会う予定?

最後の返事?


この2人は文通をしていたっていうこと?

そして、会おうとしていた日に会えなかった?


メールやLINEがあるのに?


ちなみに、今日は5月10日。

1月6日からは、かなり経っている。



差出人の桐谷聡介の住所を見ると

ここから電車で1時間くらいの場所だった。


私は迷うことなく、

急いで支度をして、

駅へと向かった。


何故か全く関係の無い私の胸が高鳴っていた。


そして、何も考えずに電車に飛び乗った。


けれど、変わる景色を見ていると

少しづつ冷静さを取り戻して、

自分が怖くなった。


桐谷聡介という人の住んでいるところに

行って、どうしようというのだろう。


欲求不満が溜まっておかしくなったのだろうか。


それでも、

文通で繋がっていたらしい、

その人を見てみたいと思った。


行ったからと言って、

平日のこんな時間にいるわけは

無いのだけど。


とにかく行ってみたい衝動を抑えられなかった。


そう、これは間違いなく「衝動」だった。


衝動に駆られて行動する自分にも

驚きながら、


スマホの液晶画面を見ると、

時間は10時半を過ぎたばかりだった。










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