第4話

前の住人宛だろうか…。


どこかからのDMとかではなく、

間違いなく個人宛の手紙だった。


「桐谷聡介……」


どうしたものかと考えた結果、

管理人室へ行ってみることにした。


すると、管理人さんがたまたまエレベーター前にいたので、軽く挨拶をしてから


「あの、私達が住む前に住んでいた方って

どこに引っ越されたか分かりますか?」


そう尋ねると、60代くらいの男性の管理人さんの顔色が急に変わった。


「誰かから何か聞いちゃった?いや、でも大丈夫。あの部屋で亡くなった訳じゃなくて

最期は病院で亡くなったんだから。

しかも病死だよ?だから気にしないで大丈夫!ね!」


そんな予想外な言葉が返ってきて、

それ以上は何も聞けなかった。


手紙…。

どうしよう。


部屋に帰ってからも、

テーブルに置いた手紙が何故か気になって仕方がなかった。


亡くなった人のものと知ると、

余計に捨てる訳にもいかない。

あの時、管理人さんに渡すべきだった…。


ただ、何故だか妙に気になる。

どうしてもどうしても気になる。


かと言って、勝手に開けるのは絶対にいけないこと。

そう言い聞かせて、とりあえず自分の洋服タンスの奥の奥にしまった。


それでも、その手紙の存在感は妙に大きくて

何をしていても、頭から消し去ることは出来なかった。


そして、夜。

夫が帰宅して、のんきにテレビを観ながら大笑いしている間も私は手紙の事ばかり気になっていた。


ようやく夫が寝て、部屋が静まり返った。


私はどうしても眠れずに、

その手紙をタンスから取り出して手に持った。


でも、勝手にあけちゃいけない。


すると、不思議なことに糊付けしてあったところが

緩んで簡単に開きそうになっていた。


それを見ると、もう気持ちは止められなかった。


…けれど、例え別室とはいえ

夫がいる時間に

この手紙を見るのは何故かどうしても嫌だった。


なので、私はベッドに横になりながら、

手紙をかざしてみた。

だからといって中身の文字が見える訳でも

ないのだけれど。


そして、その手紙を枕の下に入れ、

全ては明日にしようと思い、眠ることにした。


そうすると、不思議な事に

不眠症気味になっていたことが嘘みたいに、

眠気はすぐにやってきてぐっすり眠れることが出来た。



結婚して初めて、

私はこの家で熟睡出来たのだった。

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