盲目的に彼女が好き

リュウタ

8回目の告白

 これは5月の半ば、少し夏に近づいてきた頃。教室という空間に徐々に慣れてきたクラスメイト達は、新しく出た友達と教室や中庭で昼食を食べようと席を立って移動している。


 そんな中僕は、昼ご飯を食べる予定だった友達にキャンセルを入れてくれるよう隣の男子に話しかける。

  そいつは何か言っていたようだが、そんなものは僕には聞こえない。

 瞬く間に席を立ち、そそくさと目標の屋上へと向かう。うちの高校は屋上に入れないので、屋上に繋がる南京錠のかかったドアが正しいかな。

 

 待たせているかもしれないという若干の焦りと、これから言う言葉に対する肯定的な返答に緊張を持ち合わせ、屋上へと走る。

 普段なら、先生に見つかると怒られてしまうスピードだけど、幸いなことに屋上まで道のりで先生とは会わなかった。授業が終わったばかりの昼放課で、先生は教室で生徒の質問に答えていたり、授業中に渡せなかったプリント等を配っている最中だろうか。そう思いつつ屋上へと着く。



----いた、彼女だ。



 そこに居たのは、すらっとした体型で、長い黒髪を携えた綺麗な目をした女の子だ。

 そして僕が今朝、下駄箱前で手紙を渡した子と同一人物であった。その手紙の内容は、昼放課に屋上に来るように促したものである。


 ここに来てくれたという嬉しさを噛み締めながら、ゆっくり彼女に近づいてゆく。

 僕の顔にはきっと誰が見ても、友達との昼食を断ってまで彼女に会いたい特別な理由があると容易に想像出来るだろう。

 そして、


「好きです付き合ってください!」

「ごめんなさい」


 あれ、おかしいな。

 僕は今、彼女に告白した。今告白したというのだから、当然付き合ってるという意味での彼女ではなく英語で言う(she)というやつだ。そして今8回目の告白の末、失恋した。


「僕のどこがダメなんですか?」


 そう僕が問いかける。

 こんな威勢のいいことを言うが、客観的に見てルックスは中の上、普通よりほんのちょっと可愛いといった感じであり、また勉強が得意なわけでもなく運動能力がずば抜けている訳でもない。目立った特技もなく、人に自己紹介してと言われると少し焦ってしまうぐらいである。

 だが、今回こそは確信的な自信があった。

 8回も告白してるのだから1回ぐらい成功するだろうという自信が。

 うーん、と彼女は唸り声を上げ


「私に告白をしている時点で君にはわからないと思うよ」

 悵然ちょうぜんしたような面影で落胆し、話した。なぜそこまで残念そうに僕にその言葉を伝えたのか。それはまるで先程の言葉になにかもっと他の意図があるような感じだ。

 もしかして僕が自分のことをあまり知らないと思ってるのかな?

 心外だな、僕は彼女のことについて少なくともこの学校の誰よりも彼女を知ってる自信がある。

 彼女に告白をして初めて振られてから、君のことを調べまくった。名前を聞き、誕生日を知り、趣味を探り、帰り道さえ覚えてしまった。いい所も、傍から見れば変な所も、彼女の全てを知った上で僕はもう8回も告白してるんだぞ。

 そう結論づいた僕は彼女をまっすぐ見つめる。照れ臭いけど僕の意志を示すにはこれが最適解だろう。

 すると彼女は僕の強い意志に面食らった様子で瞳孔が少し開く。

 やはりこれが正しかったんだと確信し、そのままじっと、彼女を見つめる。


 意気消沈してるのにも関わらず、ドヤ顔してきて、さも自分が合ってるかのように振る舞う人を見て、呆れて物が言えないのが彼女の正しい反応である。


 だが僕の最適解とは裏腹にこちらに向けられた目線は、自分が思っていた感情と違うものだった。

 敗北した気分になりながら彼女を思う。やはり彼女のことが好きだと。

 濁りのない茶色の虹彩に、それを引き立てるかのような真っ黒の瞳孔、ぱっちりとした瞼、くるんとしたまつ毛、目だけでもこれだけの情報が出てくるのだ、彼女の魅力はそれだけではない。

 毎秒手入れされているかの様な混ざりけのない黒い髪、初めて彼女とすれ違った時に不覚にも振り向いてしまった程美しかった。それに、日本人とは思えないほど高い鼻に真っ赤に染まった唇。その唇から発せられる声に、いつも聞き惚れてしまう。また、スタイルもいい。僕よりも高い身長に、スリムな体型、顔も小さくリンゴ2個分位しかないかと思う。足も細く、何を食べたらそうなるんだと思わず聞いてしまったこともある。そんな彼女の外見が好きだ。

 また、僕は見た目だけではなく彼女の性格も好きだ。普段は冷静沈着だか、友達には明るくフレンドリーに、先生には礼儀正しくと、人との接し方も素晴らしい。更には勉強も運動もそつなくこなす。そんな完璧とも思える彼女から、話の最中に出る的はずれな発言や、どじを踏むのを恥ずかしがるこのギャップもまた保護欲を刺激される。そんな彼女の内面も好きだ。

  彼女のその全てが美しく愛おしく、なんでこんな完璧な人に男どもは告白しないんだろうと、腹が立ってくるほど彼女が好きだ。

 僕がその苛立ちを抑え、小さく深呼吸をしていると、彼女が徐に自分の教室までの帰路に向かって歩きだしていた。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


  先程彼女に振られても焦らなかった僕が、切羽詰まったように彼女に話しかける。


「ごめんね、お昼ご飯食べたいんだ」


 彼女は華奢な足を止め、頭だけをこちらに向けてそう話す。

 やばい、勢い余って止めてみたものの、もうここに呼び出した理由も終わってしまったし彼女を引き止める理由がない。

 至って普通の頭脳を必死フル回転させて言葉を絞り出す。

 何か彼女の興味を引くことを言わなければ、彼女が返事をしてくれる話題を振らなければ。


「好きです付き合ってください!」


 早口で捲し立て言ったことは、彼女に伝わっているのか不安に駆られながら頭を下げる。だがその不安も、彼女が言葉を発したため、解消される。



「告白される度に思ってた。付き合ったらきっと楽しいんだろうなって」



 最悪の結果となってだが。


「けどごめんなさい。私は女の子と付き合うことは出来ないわ」


 僕は今日、9回目の失恋を経験した。次はどうやって告白しようか?

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盲目的に彼女が好き リュウタ @Ryuta_0107

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