―(4)―【改訂】


 そこに居たのは、傷だらけの白銀の鎧兵士。遅れて「困りますお客様!」と叫びながら我が家の執事が滑りこんできた。


「申し訳ありません、旦那様。お止めしたのですが」


 急いで追い出そうとする執事をお父様は手で制した。


「構わん。火急の知らせなのだろう」

「ありがとうございます! ザリュース、隊長が魔物に囲まれた」

「何!?」

「クリストファーの野郎に渡された魔除けの粉が魔寄せの粉だったんだ!」

「どういう事だ?」


 室内の空気がピリッと張り詰める。

 覚えている。魔寄せの粉は、魔物を追い払う魔除けの粉とは反対に魔物を集める効果のあるアイテムだ。私も冒険者ヒロインの時、パラメーター上げで良くお世話になった。


「あの、お姉様。魔寄せの粉ってなんですか?」

「モンスターの好む香りを粉末にしたアイテムよ。使用すると、効果が消えるまでずっとモンスターが現れ続けてしまうの」

「そ、それは大変です」


 アインが顔を青くする。

 当然だ。経緯はどうあれ、ゴルドルフがもし自分に魔寄せの粉をつけた状態で街に逃げこんできた場合、パニックは避けられない。いやパニックだけならまだいい。領民に被害が出たら目も当てられない。


「お父様、私達は下がります」


 流石にこのまま話し合いを続行したりはしないだろう。私の申し出に、お父様がこくりと頷く。次いで、執事に部下を集めるよう指示を出した。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




side:クラウド・ファリフィス



 アンジュとアインを退席させて直ぐ、私は兵士に事の次第を問い質した。

 曰く我が家へ向かう前、王都の医者一行だと耳にした領民に頼まれ、魔の森に薬草を取りにいった。魔物の多い場所だとは承知していたらしいが、王都の知り合いから貰った魔除けの粉を使えば問題ないと何名かの部下を連れて出ていった。だが、肝心のアイテムが魔寄せの粉にすり替えられており、あっという間にモンスターに囲まれたのだという。


「一番足の早い俺が伝令役として、何とか戦場より離脱しました!」


 顔の傷、装備の凹み具合、鬼気迫る表情から嘘の気配はない。


「状況は大体分かった。悪いが今日の会談は中止だ。伝令の君、もう少し付き合ってもらうぞ」


 私は執務室机の引き出しから、丸めた地図を取り出し、机に広げた。


「勿論です! 伯爵、私も是非同席させて頂きたい」


 てっきり、このマッドサイエンティストなら渋るかと思ったが、案外人の心は残っていたようだ。


「邪魔をしないのであれば此方は構わん。君達はどの辺りで魔物に囲まれたのか分かる範囲で教えてくれ」


 ああ、厄介な事態になった。

 私は内心で毒づく。原因はゴルドルフの魔寄せの粉だが、そもそもの発端はウチの領民である。更に、王直々の協力要請を受けた今、手を貸さないという選択肢は選べない。これから待っている被害金額と損害に、胃がキリキリと痛みを訴える。

 せめて何かしらの恩恵、いやメリットがあればと考えていたその刹那、私の脳内に天啓がくだった。


「伯爵?」

「ああ、何でもない。続けてくれ」

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