―(2)―【改訂】
目が覚めると、私は闇の中にいた。
真上を見る。天には星も月もなく、何処もかしこも黒、黒、黒。光源といえば、全身淡い青色に包まれた私だけ。
ここは死後の世界か、それとも夢の中か。確認のため、『ライブラリ、オープン』と呟くと、すぐに発光ウインドウが出現する。どうやら夢の中だったようだ。
―――――――――――――――――――
*アンジュ・ファリヒィス (7)
体力:2 魔力:5000
【称号】
異世界転生者。魔力充溢病患者。
マジックアミュレット専用クラフター。
ブラコン。
【DATA】
ファリヒィス家長子。
健康な義弟アインに嫉妬し、トラウマを植えつける筈だった悪役令嬢。
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目を通してすぐ、私はその変化に気付く。
寿命カウントダウンが消えていたのだ。いやこれだけではない。魔力半分に称号が二つ追加され、データの文言が微妙に改竄されていた。
『これは一体……』
画面にピントを合わせたまま、顎に手を添える。よし、順序立てて、整理しよう。
まずは寿命カウントダウン。日数が消え、称号の魔力充溢病患者は残っている。そこから判断するに、寿命ブッチ成功して病だけ残った。そう考えられる。
では何故上手くいったか。
有力候補は称号。勿論ブラコンではなく、もう一つの方だ。
マジックアミュレット。マギカ・マグナにて登場する二週目以降専用ショップ高価アイテムの一つだ。効果は様々で体力回復から攻撃防御など多岐にわたる。
恐らく、私が意識を閉ざす前に目にしたあの青水晶こそが恐らくマジックアミュレットだろう。以上を踏まえて、私は暫定マジックアミュレットを作成し、カウントダウンを消去させたという事だ。
『でもそうなると、なぜマジックアミュレットなんて作れたかってなるんだよね』
私がお父様に教えられたのは、魔法を使う初歩の初歩。断じてマジックアミュレット作成の手順ではない。ならばどうしてそうなったか。私は青水晶を生み出す前の事を思い出す。確か休憩を突っぱねて、アインの笑顔を脳裏に描いた時だった。その直後、光が発射された。
『魔力を体に巡らせた状態でアインの事を考えたから?』
そんな馬鹿なと否定したいが、他に思い当たる節はない。熟読した魔法の教本にもマジックアミュレット製作については記載されていなかった。
すると何処からともなく、どくんと音が鳴る。
* * *
「う、」
「アンジュ!」
現実に帰還した私が最初に目にしたのは、お父様のドアップだった。
彼は私の両頬に手をやり、矢継ぎ早に質問を投げつける。
「具合はどうだ。何処か痛むところは。目は見えているか。呼吸は苦しくないか」
「お、お父様。近いです」
「そっそうか。すまない。で、どうなんだ」
「大丈夫です。それより」
落ち着きを取り戻したお父様に苦笑いを返し、周囲を一瞥する。
意識を失う前は領地の外れだった場所はいつの間にか室内に代わり、貝のようにカーテンを閉めたそこは、ランプの明かりに照らされても尚、薄暗い。察するに今は夜なのだろう。
「此処は何処ですか。お父様」
「アンジュも部屋だ。あのクリスタルが現れたあと意識を失ったお前は、主治医に診察を受けたあと直ぐに屋敷に運ばれたんだ。二日は眠ったままだったんだぞ」
「ふ、二日ですか!?」
慌てて尋ねると、お父様は神妙な顔で頷く。嘘……ではなさそうだ。
そのまま主治医の診察について訊くと、お父様の口から驚くべき事実が語られた。なんと乱れがちだった私の脈拍が、やや改善したのだという。
「医者も困惑していたが、もしかしたらあのクリスタルを出した事で、アンジュの体を苛んでいた魔力が一部消費され、快方に向かったのかもしれないと言っていた」
「快方に?……お父様、私が出したあれは今どこに」
「ああ、それなら」
言いながら、お父様がメイドから何かを受けとり、私に見せる。
五センチ台の青い菱形だ。
「悪いがお前が眠っている間にギルドへ秘密裏に鑑定を行わせてもらった」
「はい。それは問題ありませんが、正体は分かったのですか。もしやマジックアイテムの類いだったのでは」
「正解だ。正式名称はマジックアミュレット。鑑定結果は、物理と魔法ダメージを一度だけ防ぐ最高級品だったそうだ」
「……! お父様、口止めは!」
「問題ない。既にあの場にいた全員には箝口令を敷いておいた」
ほっと胸を撫で下ろす。
良かった。ゲームで売買されていたマジックアミュレットの最高級品は百万ゴールドを優に超えていた。そんな物が公になれば、パニックになるのは目に見えている。いやパニックだけならまだいい。もし金にがめつい貴族、商人に知られでもしたら、私のアイン見守り計画の邪魔どころかお父様やアインに迷惑をかけてしまう。それは極力避けなくてはならない。
「……お父様」
「アンジュ。そう心配そうな顔をするな。大丈夫だ。既に幾つか手は打ってある」
これはお前に返そう。
そう告げて、お父様が私の手にマジックアミュレットを乗せる。
「え」
「なんだ。もしや私が取り上げると思っていたのか。幾ら高額でも、流石に子供が生み出した物を許可なく、奪い取るなんて真似はしないぞ」
「いえ、決してそのようなことは。ただ」
「ただ?」
夢で視たライブラリを見る限り、確信犯は持てないが今後継続的にマジックアミュレット作成して寿命ブッチやっていくと私は睨んでいる。その場合、お父様には別の苦労をかける恐れがある。
それを伝えると、お父様は目を丸くさせたあと、笑って私の頭を撫でた。
「アンジュの頭の回転の早さは私譲りだな。だがそれはあくまで仮定の話だろう。 一応、私もそうなった時の事は考えてあるから、お前は何も心配しなくていい」
「……承知いたしました」
「良い返事だ。さて、アンジュ。ずっと眠っていてお腹は空いてないか」
「少しだけ。でもその前にお水が飲みたいです」
上半身を起こしてもらい、お父様の手ずから飲ませてもらう。生温い水が五臓六腑に染み渡り、驚いた胃が、きゅるりと音を鳴らした。
それと同時だろうか。
部屋の戸が三回ノックされる。
お父様の指示を受け、控えていたメイドが扉を開く。すると小さな頭がひょっこりと顔を出した。アインである。
暗がりで表情は読みにくいが、彼はおどおどとした様子で入室していいか、お父様にお伺いをたてる。
「そうだな。来なさい」
お父様のお許しを受け、アインが一目散に私達の元へ駆けてくる。そして彼は私の左手を取るとそのまま縋るように泣き崩れた。
「どどど、どうしたの。アイン」
「おねえさま。おねえさまぁ」
ちょっと待ってちょっと待って。なんでアインが、泣いてんの。あれか。私が意識を失っていた間、チューターに何かされたのか?
お父様に顔だけ向けると、彼は私が伏せっていた二日、ずっと心配していたのだと教えてくれる。
まさかの原因、私!!
「あああ。ごめんねごめんねアイン」
「お゛ね゛え゛さ゛ま゛ぁ」
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