わたしと先輩とひと夏の恋

蒼宙

第1話

「先輩!やっと見つけました!」


そう言って少女はそのの足を引き止める。しかし、彼は少女の声には答えない。


「私のこと、覚えてますか?」


校舎裏だったこの静かな場所で少女は更に続ける。想いを彼に伝え、そして、彼を■■■■■ために──。


「覚えていますか?1年、いや1年半前でしたっけ。ここで私が告白したのを。あの時はすっごく緊張してたんですよ。まぁ、緊張しすぎてよろよろになっちゃってましたけど...。でも、そのとき先輩がフォローしてくれて、あんなめちゃくちゃな告白でもちゃんと真摯に答えてくれて、嬉しかったんです。」


それでも彼は見向きもしなかった。まるで想いを紡いでいく彼女から逃げるかのように。


「告白は『お友達から』ってことになってとても成功とは行かなかったけど、その後も先輩が私を大切に思ってくれたのがわかって。それに、友達って言ってもそれこそ、恋人みたいな距離感で一緒に居てくれて。私、先輩に救われてたんです。今まで、ずっと」


彼はそこまで聞いて、まるで何かに耐えているかのように震えていた。


「最後に会ったあの日だって本当はもう一回私から告白しようと思ってたんですよ?あの日はちょっと背伸びして慣れない化粧とかもして、なんちゃってデート気分だったんですからね?」


少女は更に編む。その心を、そして──。


「それなのに、それなのに……。」


「ウゥゥ、アァァァ……」


「なんで、なんで死んじゃったんですか!先輩は私を置いて逝かないって言ってくれたじゃないですか!あの時また会おうって言ってたじゃないですか!」


そう叫ぶ少女の前に居た彼──いや、その少女が想いを伝えていたモノはヒトでは無かった。


「グァァァアアアァァァァ」


既に死んでいる様にも見えるその骸はまるで生きているかのように動き、そして少女の持つ鎖によって地に繋ぎ止められ、苦しんでいた。


「先輩、私、先輩を助けるためにずっと修行してたんですよ...?山に籠ってお祓いの修行をして、だから、私が、私がっ、先輩を……楽に、してあげます」


そう涙を拭き、笑みを浮かべる少女は覚悟を決め、その装束と手にした札に想いを籠める。


「この札で先輩は自由になります。でも、でもっ……。」


そう叫ぶ少女の周りには数え切れないほどのの墓石が見渡す限りに立っていた。そして少女は恨めしそうにつぶやく。


「私は、なんで私は、こんなにサヨナラをしなくちゃいけないんですか…?」


「先輩。私はどうすればいいんですか?この、静かな世界で」


彼女はそう言って、何かを飲み込んでこう言った。


「先輩。私は最期まで先輩のそばにいますから、見守っててもらえますか?」


 ✻✻✻


「…先輩。今までありがとうございました。また会いましょうね」


ありがとう、誰もいなくなったこの場所にそんな優しい声が響いた。

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わたしと先輩とひと夏の恋 蒼宙 @sky_0

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