第88話 にらみ合い

魔王さんからの先制攻撃。

“死者の嘆き”。

青黒い手が大量に魔法陣から生成された扉から飛び出して迫ってくる。

手の直径は一メートル程だが、それが視界を埋め尽くすほどだ。


『ワシがやるか?』


オベロンが言う。


「お気遣いありがとうございます。でも、このくらい…、アヴァロン!」

『んーー!!!』


人型のアヴァロンが翼を羽ばたかせ、壁を沿うように上昇していく。

本体アヴァロンの目の前に来ると、勢い良く両手を上下に伸ばし、前方へと向けた。


『起動開始!ソドムの輪!ゴモラの輪!』


それと連動するように、本体アヴァロンの頭上の輪と、腹部の突起から形成された輪がアヴァロンの前方へと重なる。


『これはおぞましきものを焼き払う怒りの矢!!鉄槌のイカズチである!!』


バチバチバチと重なりあった輪が目が眩むほどに輝き出した。


『くらえ!!インドラノ矢!!』


一瞬、無音の瞬きの後、凄まじい閃光と共に迫り来る黒い手の群衆に降り注いだ。

団扇で扇いだ煙のように黒い手は掻き消え、光はそのまま魔王軍へと向かう。


『ニィナ…』

『はっ!防壁展開!!第五級魔法だ!!』


光が魔王へと到達する寸前に半透明の城壁のような結界が出現して光が四方八方へと裂かれ、受け流された。


共同魔法か。

ほおー、あれはなかなか堅いな。


『むぅーっ!抜けなかった…!』


不服そうに降りてくるアヴァロン。


「十分だよ、ありがとう。どさくさに紛れて天の鎖打ち込んできたのも防げたし」


後方で、クーとマリちゃんが再発射された天の鎖を、タイミング合わせて同時展開させた結界で挟み込んで固定。


『とう!!』


リンリンが壁から勢い良く飛び上がる。そしてくるんと宙返りすると杖を斧へと変化させ、鎖へと叩き込んだ。

バゴンと鎖が破裂する。


『はっははー!!!突撃だあー!!!』


結界が消えて、魔王軍の先駆けが飛んでくる。

あれは見覚えのある吸血鬼。

あいつも魔王軍だったのか。


剣に魔力を宿して振りかぶる。


『行って参ります!!』

『御武運を!!』


グロウとロックが迎え撃つために飛び出していく。

魔力解放、なんとその全てを攻撃力へと回した。


もしものこと限りは禁止にしていたのに…、それだけの覚悟をもって行ったのか。

意識レベルを下げてまで戦うと、記憶を飛ばす恐れがある。

そのデメリットは伝えたはずだけど。

でもその覚悟を僕が無下にするわけには…。


『大丈夫だ』


唐突にオベロンがそう言った。


『実はこっそり先ほど魔力を弄っておいた。これなら戻れなくなることもない。全員だ、感謝しろよ?』


この人は、いつの間に…。


でもそれなら。


「皆、オベロン様から嬉しいプレゼントだ!!本気で戦っていいよ!!」


僕の中に設定していた制限を外していく。

使い魔達の魔力のリミッターを解除すれば、グロウとロックの魔力が倍以上に跳ね上がり、吸血鬼とすれ違い様に攻撃を仕掛けた。

結界が弾け飛ぶ。

吸血鬼は白目を向いてドラゴンから落ちていった。

そしてドラゴンもロックによって捕らえられ、翼をむしられた。


ビーズの魔法具は無事。


『掛かれ!!あんな擬きどもに遅れを取るな!!』


ニィナと呼ばれた魔王の側近が指示を出す。


続々とやってくる悪魔の群れ。

邪眼持ちはいないみたい。まぁ、こんな群衆だと無差別攻撃系は疎まれる。


左側の死角より円盤刃の投擲攻撃がやってくる。


『遅れましたぁ!!』


それをヒウロが蹴り飛ばし、敵の方に跳ね返した。

ヒウロも魔力のリミッターを外している。


「他のみんなは?」

『それぞれ戦闘系は魔力解放してます。精霊達は各自結界を構築。ウィンデーネはロロン様と同調を開始してます』

「マリちゃんは?」

『現在ニコラと行動を共にしてます。メナードは…、!!』


バギン!!!

ヒウロを狙った魔法弾が破壊される。

それをすかさず再構築して撃ち返した。


『ここに』


メナードのハンマーが地面にめり込む。


「君も解放しているのかい」


角が白銀に煌めいている。


『これが、最後の戦いですからね』

「なるほど」


前方の魔王を見る。

動く気配はない。いや、動けない。


今、僕と魔王は水面下で因果の奪い合いをしている。

今回は前回の戦いのように巧妙な手口で回避することができない。だからこそ、標準を何時、そして何処に置くかを慎重に探りながら魔力で妨害を仕掛けている。

千里眼フル活動だ。


『小賢しい。空間をずらして狙いを狂わせようなどとめんどくさいことをしやがって…。あの山の黒い壁と同じか』

「あららバレてます?」


今回は不可視でやっているのにな。


『だが、それも時間の問題だろう。狙いを定めさえすれば空間をずらしても、この槍は当たるからな』

「ほんと厄介ですよねー」

『なんならそこのハーレクインを狙っても良いのだぞ』

「やればいいじゃないですか」


遠慮しないでさ。


『ハッ!視線を逸らすなり空間を曲げる気だろう。貴様の思い道理にはさせん』

「残念です」


そう。

互いが互いの視線を封じて拮抗しているのだ。

にしても本当に魔王さん強くなってる。

これは千里眼とかも会得していそうだ。


「ってーーーッッ!!!!」


地上からの一斉砲撃。

アヴァロンが揺れる。大丈夫、大したダメージは負っていない。


『銀の杭!!!』


上空に超巨大な柱が出現。

その切っ先は鋭く、先端には骸骨がコウモリの羽を広げている彫刻が見られる。

おっとこれはやばいぞう。

狙いを定め、銀の杭が降ってきた。


『インドラノ矢!!!!』


杭が消し飛んだ。

アヴァロンや、君は魔力を防御の方に振りなさい。

なんで攻撃力に振ってるの。


『おい、ウィル。完了したぞ。やれ!』


オベロンからの合図で、一気に魔力を解放した。

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