第4章、大魔術師は平穏を勝ち取りたい

第87話 三つ巴宣戦

朝日がさんさんと体に降り注ぐ。

眼下には地平線まで伸びる群衆。

事前にこの付近を決戦場にすることを告知していたら、きちんと集まってくれた。


《昨日は最後の晩餐の様でしたね》


早朝、早起きしたらしいアルスレッドがそうボヤいた。

やめなさい。

洒落ならないし縁起も悪い。


「でー?君は準備満タンかな?今日の戦い、勝つつもりでいるけど、どんな結末になるか分からないよ」


オベロン情報だと、この国と同じように別の国にも根を伸ばしていたらしいし。

それをユーハに確認してもらったら、ビンゴ報告。

魔王さんも遊んでいた訳じゃなかったらしい。


《大丈夫ですよ。主人公補正掛かってそうですし》

「…この前から気になっている事があるんだけど、戦争終わったら質問攻めにしていい?」

《分かりやすいフラグを立てるのは止めません?》

「結婚関係じゃないからセーフだよ」














その日、コザ平原にて人類史最大の戦争が始まった。


今まであり得るはずもなかった魔族側との共闘で、打ち倒す敵は世界最強の大魔術師。

空を悠々と漂う天空城を支配する空帝となった魔術師を倒すのに集まった戦力は恐らく歴史上初めての数だろう。

予想外の反撃によって工場の生産ラインが壊滅に追いやられたが、それまでに造られた武器はすべての兵士に行き渡る程。

種類も数多く、魔法陣を掛け合わせた魔導砲や銃身ゴーレムのほか、砲撃鉄車や鉄鎖砲など大小様々で、その攻撃力は、隣国全てを一月もあれば支配できるレベルに達していた。


そしてその一方。

隣国の上層部は固唾を飲み込みながら、今回の戦いにおいてその威力を確かめようとしていた。

どちらが勝つにせよ、これを期に戦力を計り、今後の方針を固めるつもりでいた。


ウィル・ザートソンによって壊滅させられるのなら、どさくさに紛れて領土を奪う。


圧倒的な攻撃力によってウィル・ザートソンを討ち取るのであれば、友好関係を強固にして攻め込まれるのを防ぐために対策を練る。


世界の保たれていたバランスが大きく変わるこの戦いに、全世界が注目していた。


「おい、魔王が来たぞ!」


誰かが指差し言った。

示された先にいたのはレッドドラゴンの群れ。

その先頭のレッドドラゴンのボスであろう双頭レッドドラゴンの上に立つのは伝承で伝えられた魔王の姿であった。


その姿を目にしただけで、下級の兵士達は魔力の違いを体感し、膝がガクガクと勝手に震え出した。

これが人類の敵か。

だが、それが今回は味方だ。


「王も来た!みろ!あれ!」


ゴギギと軋む音をさせて、大型機械の獣に乗った王が現れた。


「なんだ、あれ…!!?」


機械の化け物と形容せざるを得ない異形な怪物は伝説に出てくる地上を支配していた翼を持たないドラゴン種に良く似ていた。

その背中に設置された玉座に誇らしく腰かける王と、その傍らに控える少年。

何故か包帯だらけではあるが、その視線は空へと向けられていた。


『ほぉ?戦えぬものがでしゃばってくるか』


魔王が機械の化け物に乗る王とデモナスに向かってせせら笑いしながら言うと、王は鼻で笑って愚か者と言い放つ。

共闘関係であるものの、完全な味方ではない。そう周りに認識させているようであった。


「戦えぬか。それは、どうかな。人間は貴様が思うよりも早い速度で成長している。まぁ、貴様がそれを下らないと吐き捨て怠慢している間に追い抜かれぬよう気を付けよ」

『ははっ、亀が偉そうに』

「ウサギなど鍋にしてやるわ」


火花が散っている。


だが、それもすぐに互いが興味を無くしたとばかりに視線を空へと向けた。


告知された時刻が迫っている。


「………あれが、天空城アヴァロンか…」


朝焼けの空の果てから大きな四翼の青い鳥が迫ってくる。

その鳥は近付けば近付くほど鳥の姿は希薄になり、代わりに巨大な島が姿を現してくる。

報告された姿と少し違うが、あれがアヴァロンであることに違いない。


凄まじい速度だ。

一体何を原動力にしているのか。


動きを止めるためにステップ弾と鉄鎖砲を発射したが、前回とは違い結界によって阻まれた。

鈍い音をさせて弾かれた鉄鎖を魔法使い達が浮遊の魔法を用いて回収する。


そうしているうちにアヴァロンの速度が弱まり、空中で停止した。


魔王と対峙した時とは違う威圧感が降ってくる。

まるで聖域に足を踏み入れたかのような。


「出た…。ウィル・ザートソンだ」


その壁の上に大魔術師、ウィル・ザートソンの姿があった。

髪を緩く束ね、大杖を手にして二人の王と対峙している。


「……ん?おい、近くにいるあの妖精はひょっとしてオベロンじゃないか?」

「バカ、そんなわけないだろう。なんで妖精王が……」


ざわつく。

何故争い事を嫌う妖精王がそこに居るのか。


『ははは。これはこれは、ハーレクイン。何をしに来た?まさか参戦とか、アホなことを言うまいな』

『我が同胞が危険な目に遭っている。そして貴様に調子に乗った仕置きをしてやらないとと思ってな。一番のお気に入りの味方をしているのだ』

『そこにいる使い魔どもは俺様の管轄だ』

「僕のです。勝手なこと言わないでもらえます?」

「伝説に聞くオベロンか。だが、どんなに尊い存在とて、ウィル・ザートソン側に着くとするのなら鉛玉を容赦なく叩き込むが良いな」

『それはそれは楽しみだな』

「オベロン煽らないでくださいませんか」


それぞれの王が揃って互いを挑発している。

そうか、この戦争は人間VS魔族VS妖精の戦いなのか。


『さて、罵り合いはここまでだ』


魔王がそう言いながら巨大な魔法陣を展開させた。

空を覆い尽くす程の魔法陣だ。


「ですね」


ウィル・ザートソンはそんな魔法陣を前に焦ることもなく、杖を前に掲げる。


「戦争、始めますか」

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